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家族編
ヴァルファデ
しおりを挟む「ルース君、今クレアちゃんって宿にむかってるんだよね?」
紬は森の方を向いて言う。
まただ。
こういう時の紬は目の焦点が合わず神殿の巫女が神がかるように、どこか虚になる。
儚く消えていってしまいそうでひやひやしてしまう。
「そうだよ~~~」
「クレアちゃんだけ、今すぐ迎えに行ける?」
「俺は嬉しいけど~、ヴァルファデ~行くよ~」
「ヴァルファデは置いて行って。最速で、ルース君自身が連れてきて。急いで」
ルースは紬をひたと見つめ、紬の横に跪く。
「御意に」
虚な紬はルースの方を見ずに、ヴァルファデに寄り添い森の方を見つめる。ヴァルファデも紬の言うとおり、どこか落ち着かない。
テルガードや他の天馬は寛いでいるというのに。
長距離移転装置の出口まで迎えに行き、まだ早くは飛べないリス女を横抱きにしてフルスピードで帰ったルースは、リス女を降ろしてすぐにまた紬のそばで跪く。
「紬ちゃん!!何かあった!?」
「ルース君はそこにいて」
紬の命令に、ルースは跪いたまま深く頭を垂れる。
「クレアちゃん、あの子、見て」
皆が紬の視線の先を追うと、森の木の陰に————亜麻色の、天馬。
「ひぇ!な、何?天馬!?」
「うん。ヴァルファデのために、クレアちゃんが行って欲しい」
「わ、私!?紬ちゃんじゃなくて!?」
皆が同じ事を思っている。聖女の紬がテルガードとルルを引き合わせた。
「うん。クレアちゃんじゃなきゃだめだと思う……ヴァルファデと一緒に挨拶するだけで大丈夫。後は、ヴァルファデが頑張るから」
そう言ってリス女にヴァルファデの手綱を渡す。
「る、ルース様…………」
不安気なリス女がルースの名を呼ぶが、紬の横で跪き頭を垂れたルースは動かない。
紬に忠誠を誓ったルースは紬の命令に背かない。
「クロム君、レスター。子供のあなた達なら大丈夫。クレアちゃんが万が一怪我をしないように必ず守って」
「ははうえ、主のとこ、いる?」
「母上が親父の所から離れないなら、いきます!」
二匹の子竜が同時に答えるのを聞いて、ようやく紬がこちらを向いた。子供の声を聞いて虚な瞳が元に戻っている。
「ん、分かった。これでいい?」
そう言って俺の膝の上に座り、にっこりと子供達を見る。
消えてしまわないように、見失わないように、紬を腕の中に閉じ込めて、ようやく俺自身が安堵する。
「つつつ、つむぎちゃん、あ、挨拶、挨拶ね!?」
「うん、がんばって」
「わわわ、わかった」
ヴァルファデがゆっくり前進し、リス女がオドオドと続く。
全員が固唾を飲んで見守っている。
リス女が亜麻色の天馬に話しかけている様子が見て取れ、ルースが跪いた体勢のまま警戒する気配を出す。
クロムとレスターがついているというのに、こいつも相当な過保護だな。
けしかけた当の本人は、完全に緊張や警戒を解いて俺の腕の中で寛ぎ始めていた。
「リヒト様、あの子達、私に対して過保護じゃない?」とぶつぶつ言っている。
ヴァルファデと亜麻色の天馬が額を合わせてコミュニケーションをとっている姿が小さく見え、しばらくするとニ匹がこちらに歩く横を慌てて付いてくるリス女がいた。
「ヴァルファデに彼女ができたねぇ。ルース君、我慢してくれてありがとう。もう大丈夫。行ってあげて?」
のんびりと紬が言う。
ルースが一礼してからリス女と愛馬に駆け寄っていく。
「兄上!!母上の所まで競争しましょう!!」
「しない。ははうえ、びっくりする」
クロムとレスターがじゃれ合いながらこちらに飛んでくる。
「なぜレスター殿下はクロムには敬語で殿下にはタメ語なんでしょうか…………ところでつむぎ嬢。ご説明いただけるのですよね?」
「ヒィッ!!!」
良かった。いつもの紬だ。
ユアンに詰められて、しどろもどろになっている俺の半身を消えてしまわないように抱き込み、番の匂いを吸い込んでドロドロとした不安を追い出す。
「親父!母上をはなせ!!」
「クロム君もレスターもお疲れ様。少し遊んでおいで?その間におやつの用意をしておいてあげる。私なら、ちゃんとリヒト様のそばにいるから」
二匹の子竜は顔を見合わせて、それから俺をじっと見る。ちゃんと守れよとでも言うように。
「兄上!行きましょう!」
「ん」
「はぁ~クソガキどもが」
もつれ合いながら森の方に消えていく子竜達を見てため息をつく。
「ふふふ、リヒト様そっくりだね、レスターは」
「紬ちゃんんん!!で、できた!?できたんだよね!?」
「うん。クレアちゃん、ヴァルファデのために頑張ってくれてありがとう。多分だけど、クレアちゃんもうヴァルファデに一人で触れるよ?」
「そ、それは、ないんじゃない?ルース様が私を乗せるか、紬ちゃんが話すかしないと……」
「ルース君と一緒にやってみたらいいよ」
ルースとリス女が顔を見合わせている間に、ヴァルファデがかけてきてリス女の頬に擦り寄った。
驚く二人をよそに、可愛い声で大笑いする番の声を聞く。
俺の半身は、この世界で着々と家族を作っていく。人と人、天馬と天馬を繋げていく。
繁栄の女神アフネスの祝福を、紬は商売や仕事に関する事だと思っている様だがそれは違う。
紬は家族を繁栄させていく。
それは国もかもしれない。
家族、一族、グループ、国。
人と人との繋がりを作っていく。
クロムの母となり、異例のスピードでレスターを身籠った。
俺は天女ではなく女神を手に入れたのかもしれない。
「リヒト様、あの子の名前はまだ待った方が良さそう」
「何でそう思う」
手触りのいいサラサラとした髪をすいてやると気持ち良さそうに目を細める。
「ん~なんとなく、かな」
「クロムやレスターが飯の名前をつける前にどうするか考えないとな」
「ふふふ、そうだね。次はおにぎりとか肉まんとかありそう」
「最悪だ」
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