【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

文字の大きさ
59 / 173
婚姻編

離れの夜

しおりを挟む

 誰かにそっと抱き上げられて目が覚めた。

「楽しかったか?」
低い優しい声がかかる。

「ん……すごくすごく楽しかった。色々ありがとう」

 縁側で座ったリヒト様のお膝の上で、また少しまどろむ。

 お庭にはもう天馬達はおらず、夜のとばりが降りている。
小さな池に蛍が飛んでいるのが見えて、柔らかい風が時折草木を揺らすサラサラとした音が聞こえる。

「リヒト様の事沢山聞けたよ」

「俺のか?」

「ん。他の女の子達と私への態度が違うって」

「当たり前だろ。俺にはお前だけだって最初から言ってんだろうが」

 いじめてやろうと思ったのに、ど直球で返されてこっちがドギマギしてしまう。

「大切にしてくれて、ありがとう」

「俺の宝だからな」
リヒト様は当たり前みたいに答える。

「リヒト様が、大好き」

あおると襲うぞ?」 
低音の、優しい声。

「ん、いいよ」

「~~~~~~~~~~~~!?!?こんな可愛い紬が見れるのか!やべえな!?よし紬、あいつら毎日呼べ!明日も来させろ!」

 またおかしな事いい出したな。
なおもブツブツ言ってるリヒト様の着物の襟元を掴んで引き寄せキスをする。

 びっくり顔のリヒト様に、私から送るつたない甘いキス。

「番からのキス…………やべぇ……慣れてない感じが……たまらん……」

 これ以上すると全く話を聞かなそうなのでもうやめよう。

「クレアちゃんとレアットちゃんにね、ケイラヒルの泉に一緒に行かないかって誘われたの。行って来てもいい?素敵な所なんだって」

「王都から南に行ったところにある泉群だよ。小さな泉が棚田になって連なって、一つ一つの泉の中に違う花が咲いてる」

「水の中なのに花が咲いてるの?」

「木が水中にはえてる泉もあるぞ」

 それは想像できないなぁ。でも木や花が水の中に揺らめいてみえたらすごく素敵。

「俺らが護衛に着くならどこへ行ってもいいぞ」

「うんありがとう。一緒に行けたら嬉しい」

「兄上がヘタレのせいで、褒賞のまとまった休みがまだ取れなくて悪い。一日ぐらいならいつでも脅して取ってくるから大丈夫だ」

 この世界を見てみたいとお願いしていた事をちゃんと覚えていてくれた。
リヒト様といると、じわじわ幸せがあふれ出すような気持ちになる。

「リヒト様達が来たらびっくりしちゃうかな」

「あーまぁそうかもしれんが、おまえは聖女で未来の王弟妃だぞ。あっちも分かってるよ」

「ユアンさんがいればきっと喜ぶね。大人気だったから」

「あいつか?リツがまた怒るな」
苦笑して笑いかける顔に、もっととキスをねだる。
小さく触れる様なキスを贈られて、また少しぼんやりしてしまう。

「リツさんっていくつなの?リヒト様達より上?」

「十九。あいつ中身と違って顔が強面こわもてだから老けて見えるだけ」

 ええぇぇ、まさかの歳下だった!

「竜人の年齢は見た目は当てになんねぇよ。長寿で長い間不老だからな。兄上は二百ぐらいだぞ?」

 もうびっくりしすぎて疲れる。
リヒト様とは歳が近くて良かった。百歳とか言われたら困るもの。

「リヒト様と番になれて良かった。人間とは、違いすぎる」

「俺もだよ。長い生涯をお前と共に生きる事が出来る。俺はそれが一番嬉しい」

 そう言って私とは違う上級者の甘い甘いキスが降ってくる。脳がビリビリして、どろどろと溶けていくような。

「クロム君、夕ご飯食べ損ねて眠っちゃったの。明日の朝ごはんは山盛り作ってあげなきゃ」

 もう少しお話ししたくて、ぼんやりしていく頭を叱咤しながら言葉を紡ぐ。

「クロムの事、ありがとな」

??何が?
 
 リヒト様はキョトンとした私に苦笑して、こめかみにキスを落として話し始める。

「あいつは他国で竜人の母親と、猫族の父親の間に産まれたんだ」

 話が見えず、頷いて先を促す。

「竜人の母親は既に三百歳近くで、残りの寿命を考えれば猫族と生涯を共にできると思ったんだろう。結婚して、クロムが生まれた」

「けどクロムが生まれてからすぐに竜人の老化が始まって、猫族の男が逃げたんだ。母親は卵のクロムを抱えたまま衰弱して自死に近い状態で死んだ。猫の国がクロムを兵士として育てようと企んだけど、あいつ、卵からかえらなかったんだよ」

「かえらなかった……?」

「魔力の高いやつは卵の中でも高い自我を持つからな。クロムはそれだった。出たくなかったんだろ。猫族が竜人を取り込もうと色々やって、最終的に卵を外から割ろうとしていた所を救出した。うちに連れ帰って俺の邸においてやっと卵からかえったけど、本来半年ほどでかえる雛が二年もたってからようやく出てきたんだ」

「クロムは雛時代のほとんどを殻の中で過ごして、愛着形成が出来てなかった。だから感情にうとい子供になってしまった」

 そうだったんだ。小さな体で悲しみを抱え込んで卵の中に閉じこもっていたと思うと、心臓がギュッと握られた様に痛んで涙が滲む。

「お前が来てからクロムが子供らしく笑ったり泣いたり出来る様になってきた。宮女や俺らではできなかったから、感謝してる」

「私?私はただ、仲良くしてもらってるだけで……」

 そんな大それたことはできてない。
悲しみに寄り添ってあげられていた訳じゃない。いつも助けてもらう側だった。大人なのに、子どものあの子にいつも助けてもらっていた。

「泣くな。お前が泣くとクロムが悲しむ」

「うぇ、う、うん、でも、っっ……」

 後から後から流れる涙を吸い取って、ペロリと唇を舐める仕草をぼんやりと見つめる。
  
「今日はここで三人で寝るか」

「ぐすっ…………うん……」


 クロム君を挟む様に川の字で寝た私が朝起きて見た光景は、悶絶級の可愛さだったと記しておこう。

 リヒト様の首元にべったりくっついた小さなモモンガ君が、すやすや眠っていたのだから。










しおりを挟む
感想 1,228

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...