【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

文字の大きさ
61 / 173
婚姻編

模擬試合2

しおりを挟む

 グワーーーンとまた銅鑼ドラの音が鳴って次の試合の開始の音がした。

「右手出せ」

「右手?」
よく分からないまま言う通り右手を出すと、指先にキスが送られる。一度じゃなく、何度も。

「な、何?」

「兄上にエスコートされたか?」

 成る程、匂いがついてたのか。

「ごめんなさい、だめだった?」

「気をつけろよ。っても、兄上じゃ断りずらいのは分かってる。上書きするからいいよ」

 獣人彼氏は大変だな。握手とかも駄目だなこりゃ。  

 ユアンさん達の試合がどうなっているか気になって体をねじろうとしたら、抱き込まれて耳元でささやかれる。

「お前はこっち見てろ」

 そう言ってリヒト様は私にキスをする。観客席から見えない様にミリーナさんが両端の御簾だけ降ろしたのが分かった。

 長い長い甘いキスが終わって会場をみやると、クロードさんとユアンさんの試合は終わっていて、何故か会場清掃がされていた。

「あれ?もう訓練終わったの?」

「あ~、今回は竜人兵相手だったから手加減しないし血みどろなんだよ。見たくないだろそんなん」

「ひいっっっ!!!だ、大丈夫なの!?」

「竜人は丈夫だからな。他の獣人にはちゃんとルースが手加減してたろ」

 手加減してるかどうかなんて分からないんですけど…………。

「ユアン達の試合が終わったから、後は一般兵の勝ち上がり試合になる。そっちは木刀を使うから見ててもいいぞ」

「勝ち上がると何かいいことあるの?」

「王から褒賞がでるな。階級が上がったり、かねを出したり。本人の希望も加味されるから色々だ」

ふぅん。

「あ……れ…………?ユリウス、様…………?」

会場の至る所で始まった一対一の試合の中で、見慣れた銀髪と三角の耳。

 いつもの白い近衛騎士の隊服ではなく、リヒト様達と同じ軍服を着ている。

 女の子の黄色い声がそこにだけ集まっているのが分かる。

「あいつ、ラディアンにあの女を護送した後また戻ってきてんだよ」

「何で……」

「だから言ったろ、狼ってのは厄介な種族だって。執着が強い。エルダゾルク神との契約は許してないが適当に留学扱いにしといたら一兵卒に応募してきやがって。めんどくさ」

「……また触られたら、一緒に行けって、言う?」
思い出して心臓がギュッと痛む。
あの時だって私から触ったわけじゃない。不意に手を掴まれてどうしようもなかった。

「っ——!あれは………………嫉妬で…………傷つけて、悪かった」

「うん………………」

 さっきまで甘く優しい雰囲気だったのに、気まずい空気になってしまった。

 膝から降りて横に座り直す。
目の前の試合はどんどん進んでいる様で、ユリウス様はまた違う獣人と試合中だった。
木刀を使っている人ばかりの中、ユリウス様だけ木剣だから目立つ。

 女の子の声援が耳に響く。

「おじょ、げんき、ない?」

 私の元に戻ったクロム君が私の顔を覗き込んでくる。

「大丈夫、クロム君がいてくれれば元気になるよ」

 私の言葉ににっこりわらったクロム君がよじよじと膝に登ってきたので笑ってしまう。

 気まずいけれど、リヒト様は私の肩をだきながら時折髪を撫でていてくれる。

「何があっても俺はお前をはなさない」

「…………………………うん」
気を遣わせたかな。
終わった事をほじくり返してまた傷つくなんて。
不毛な事をわざわざ自らしてしまうなんて。

「オオカミ、ぼく、やっつける?」

「ふふふ、大丈夫。そばにいてくれる?クロム君と一緒にいたいの」

「ん、いつも、いっしょ」

 高い体温とミルクみたいな匂いを吸い込んで、ギュッと涙を追い出した。



◇◆◇



 ガキーンと木と木がぶつかる聞いた事のない音がする。刀と剣の戦いなんて見た事ないけれど、ユリウス様が凄く強いことは分かる。近衛隊の副隊長だし実力者だって言われていた。

 ユリウス様が相手の虎っぽい獣人の木刀を弾き飛ばした。相手はゼェゼェと息を切らしているのに、ユリウス様は飄々ひょうひょうとしていて息一つ乱れてない。

「ユリウス様は、やっぱり強いんだね……」

 リヒト様は片眉を上げて目線だけでこちらを見る。
この話題、やめなきゃいけないのに。

 クロム君もユリウス様の試合を夢中になって見ている。気まずいまま、時間ばかり過ぎていく。

 気がつけば決勝なのか、すでにユリウス様と相手しか試合会場にいなくなっていて、観客席の息苦しいような熱気が会場中を包んでいた。

 身体の大きな熊のような獣人相手に、凄いスピードで剣技を繰り出して相手を翻弄している。最後に空中で身体に回転をかけて自分の全体重を乗せた一撃を入れた所で相手が失神し、ユリウス様が勝利した。

「あ………………(今こっちを見た……)」

 女の子の悲鳴のような秋波にも眉ひとつ動かさず、木剣をその場に捨てて会場から降りて行く。

 リヒト様は何にも言わない。クロム君の体温だけが安心をくれる。







しおりを挟む
感想 1,228

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...