70 / 173
婚姻編
母上
しおりを挟む貴族達からの挨拶地獄はヘトヘトになったけれど、ユアンさんがサクサクさばいてくれてなんとかやり切った。ユアンさん、シゴデキ。
あとはもう立食パーティーになるので、私達の仕事は終了らしい。
みんなのいる所に戻ると小さなタキシードを着た最高にキュートなクロム君が私の所に来てくれた。(スカーレットさんマジいい仕事する)
臣下の前で抱きしめられないので、しゃがんで頭を撫でる。
「おじょ、きれい」
「これクロム、もう妃殿下とお呼びなさい。ダメですよ」
婚儀が終わったことで私の呼称が妃殿下に代わり、ミリーナさんがクロム君に注意をする。
「ひで?ひで、か」
かんわいぃぃい~言いづらそう!!
「いいよいいよ!お嬢でもママでもお母さんでも母上でも良いんだよ——!!!」
「あんた、最初の以外全部母親呼称じゃないか……」
お母さんが呆れて言う。
アイラさんだって、私にお母さんと呼ばせてくれるのに!
「なりません妃殿下!!!」
ミリーナさんが慌てて、お母さん以外のみんなは口がぽかんと開いている。ユアンさんまで固まってる。
「ははうえ……?」
「なあに?クロム君。ケーキ食べる?クッキーにする?」
「ははうえ」
「うんうん、なぁに?」
「はは、うえ」
「うん、クロム君、おいで?」
クロム君は無表情のまま私にしがみついて、額を擦り付けてきた。
少し震えてる。泣いてるのかもしれない。
「リヒト様、ちょっとクロム君とお散歩に行きたいの。王族庭園に連れていって?」
臣下の前とかもう関係ない。クロム君を抱き上げてリヒト様にお願いする。
「お…………おぅ」
会場を抜けてゆっくり歩く。貴族達がみんな見てる。
クロム君は顔を完全にくっつけているから表情は見えないけどおとなしい。
「まだ工事中だぞ?」
「ん、知ってる。いいの。三人で歩きたかっただけ」
王族専用庭に私がいい思い出が無いだろうと、リヒト様が全面改修してるのを知ってる。レイス様の時も、見知らぬ番グループのご令嬢の時も、同じ庭だったから。
クロム君の頭のてっぺんに時折りキスを落として、背中を撫でながら歩く。竜の子は体が本当に小さくて重さは全然感じない。ひきつけのようなしゃくりあげる小さな息遣いだけが伝わる。
リヒト様は私が歩きやすい道を選んでゆっくり歩いてくれる。
庭に着く頃にはクロム君の体温が高くなっていて、泣き疲れてうとうとしているようだった。
リヒト様が手で何か合図をすると庭師の人達が一斉に下がっていった。
お仕事の邪魔をして申し訳ないけれど、今日だけは許して欲しい。
まだ残っていたガゼボに座るとリヒト様が口を開いた。
「お前達は気持ちが繋がったとしか思ってないだろうが…………つむぎはクロムの後ろ盾になったということだぞ」
「うん。貴族の世界はよく分からないけど、ミリーナさんが慌ててたから何となくそうかなって思ったよ。でも私はこの子を守りたいし、同じことでしょ?」
「孤児が急に王弟妃を母と呼ぶんだ、王宮がざわつくな」
「離れには、どうせ聞こえないもの」
「ありがとな」
「お礼を言いたいのはこっちだよ。ここに来てから、私はずっとこの子に助けてもらったから……」
すぅすぅと可愛い寝息が聞こえる。
子ども特有の高い体温と、ミルクみたいな匂いが心地いい。
「家出しても、連れていっちゃうからね?」
「は!……もう一人斥候を雇わないとだな」
リヒト様はクロム君ごと私を膝に乗せて楽しそうに笑う。
どちらからともなくキスをする。
触れるだけの優しいキス。誓いのキス。
「母屋の部屋の奥に、クロムの部屋をつくるか」
「!!??!リヒト様!大好き!!!!」
「~~~~~~!?おっ前、今までやったプレゼントの中で一番喜びやがって!!」
「一番嬉しい!!!!あ、テトのお庭も嬉しかったよ?」
「はぁ、婚約指輪やった時は身構えて顔が曇ったのにこの差は何なんだよ…………」
「ふふふ、リヒト様のお嫁さんになれて、幸せだね。私は」
「よし。今日はこのまま母屋だな」
「却下です。みんながまってるよ」
2,540
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる