【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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最終章 人族編

すれ違う妊娠報告

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 内外不侵宣言の効力が切れる一週間前にあちらから親書が届いた。
混乱により破棄の儀が遅れた事への丁寧な詫びと、竜国へ訪問し、神約破棄の奏上を行いたい旨が綴ってあった。 

 紬や子供達の事は一切書かれてはいないのに、どこかに痕跡が無いかと何度も確認をしてしまう。

 火の消えたような離れは昼間だというのに暗く、天馬達も察しているのか庭には来ない。

 人気のない暗い離れで一人過ごす事が増え、何か抜け道は無いかと日々エルダゾルクの国史を漁る。

「殿下、御支度を」
ユアンが庭伝いに来て告げる。
後一刻ほどで、奴が来る。

————殺してやりたい。

 人間の息の根を止めるなど簡単な筈なのに。
中立者とは関係なく、俺達竜国の犠牲となった紬の種族だと思うと、それも憚られるような気がして身動きが取れない。

「ああ、すぐいく」

「紬嬢と子供達の情報を必ず聞き出しましょう」

「ああ」

 上空に迫る天空領を仰ぎ見て唇を噛んだ。



◇◆◇



「これで長きにわたる両国の確執はなくなりましたね。人国の危機を約束通り救って頂いた事、感謝申し上げます」

 兄上と堤が七百年前当時の神約証書を手をかざし出し、出した側から両国が燃やしていく。我が国の証書は金の光になって、人国の証書は赤の光のカケラになって消滅していった。

「三ヶ月もお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。何せ神を領土にお迎えしたのと同義でしたので…………お怒りになってはいないかと憂慮しておりました」

 やはり、中立者としてどこまで出来るのかを探っていたのだろう。

「王弟妃は大切にされていると確信していたからね、そうだろう?人国王」

 こちらとしては動く理由がない事を強調する。
同時に紬達の安否情報を聞き出す兄上は何でもない風に言葉を紡ぐ。
俺が王でなくて良かった。つむぎと子供達を取られ、怒りのコントロールができる自信がない。

「それはもう。玲林さんは我らの神にも等しいお方ですよ?既に加護も発揮されております。本当にありがたい」

「へぇ、王弟妃が君の国にどんな加護を?」
兄上は言葉の端々に紬はあくまでこちらの国の王弟妃である事を滲ませる。

「妊娠が分かりまして」

「それは良かった。君の国は女性が少ないと聞いている。彼女らに加護がもう届いたのなら先は明るいのではないかい?」

 堤はいったん口をつぐみ、口元だけにこりと笑う。
目を細め、俺を見る。

————「いえ、妊娠したのは彼女です。人国にとってかけがえのない子が産まれるでしょう」

 ザワッと軍幹部達がざわめき出す。
こいつは今何を言った?俺の紬が……なんだ?
人国にとってかけがえのない子?

「まだ分かったばかりなんです。彼女も

 耳の中で潮騒が聞こえる。視界が狭くなり、体内で魔力が暴走する。

「殿下!こらえてください!!」

 ユアンが叫ぶ声がする。

 兄上が瞬時に俺の周りに結界を張ったのが分かった。
漏れ出た魔力が暴走し、内部から結界を攻撃していく。

「弟が失礼をした。スーツというのだったか、袖口が切れてしまったね、怪我は?」

「ご心配なさらず。私は召喚でこちらの世界に来た者。私の能力は自己治癒ですので」

「あぁ、そうだったね。召喚者の女性は治癒、男性は自己治癒の能力なんだねぇ。男性の召喚者などこの世界で初だよ。珍しい能力だ」

 笑顔だけで答え、堤は踵をかえす。

「両国の今後ますますの発展を願います」と頭を下げて、神官二人が堤に続いて退出して行った。

「リヒト、王族専用牢へ。鍵はかけない。あそこなら王族が暴れても壊れない。よく堪えた」

 兄上に一礼だけし、ユアンに促され王族専用牢に自らはいる。

 入ると同時に兄上の結界が切れ、暴走した魔力が部屋の壁にぶつかっていく。

 怒りなのか悲しみなのかすらわからない虚無の中で右手を振ると、牢屋の壁にあたりガラガラと崩れ去った。
牢番が逃げ出す気配がしたが、何の感情も起こらなかった。手当たり次第破壊して塔の全てが瓦礫になったころ、ようやく自分が泣いている事に気がついた。

 その場にしゃがみ、頭をかかえる。

「つむぎ…………それでも……俺は、お前が……」



◇◆◇



 リヒト様は喜んでくれただろうか。
手紙だけでも託せるものなら託したかった。
赤ちゃんの話と、子供たちが私を守って騎士のようだよと伝えたい。

 力の入らない私を抱き起こし、二人で支えて果実の汁を飲ませてくれる。
温泉のお湯を汲んで、私の体を優しく拭いてくれる。
毎日何度も外へ行き、川からマグカップに水を汲んできてくれる。魚を捕まえて戻った事もあったけれど、既に私はあまり物が食べられなくなっていた。

 飲み込むのも億劫になってきた頃、私は卵を二つ産んだ。
痛みすら感じなかった。

 ただただ誇らしく、両手を握ったお兄ちゃんたちの暖かさが嬉しかった。
双子の卵をお兄ちゃん達が優しくふいて、衣装箱に敷いたクッションの上にそっと置いてくれた。

 案の定その日から襲撃が増えた。
出産日当日から襲おうとするなんて、女性を何だと思っているのか。
何度か昼間の神官を目にした時に、金槌を持参しているのを見てしまい、ああやっぱりと納得してしまった。

————彼らは卵を殺そうとしている。
心を決めなくてはならない。

————子竜達を、竜国にお返ししなければならない。この子達は竜国の宝だ。

 私の役目は、もう終わったのだから。




◇◆◇




 紬の妊娠の報は王宮内に衝撃をもたらした。
あれからまた二ヶ月が経ち、噂は目まぐるしく回る。
兄上のお考えは紬奪還から変わらないでいるため、軍幹部は皆何も言わないが、紬をこのまま人間国に置くのがいいのではないかと言い出す者たちもいる。

 黒と紫ばかりで溢れていた王宮は、宮女の中からチラホラと元の着物に戻る者が出てきた。

「現在はまた海上に。昼の灯りを溜め、夜に周りを照らす為ルースが近づけません」
ユアンの言葉にルースが頷く。

「地上にいるはぐれた人間を探して保護し、天空領へ送るという形も考えたが、どの国に問い合わせても人間の確認は取れなかった。他に使者として入り込める案がない」
クロードが言う。

「軍が諦めようが関係ない。必ず取り戻す」

「「「 御意 」」」   

 三人の部下が後ろに続き、国軍会議の部屋の扉を潜る。
ズラリと並んだ幹部達が俺をすまなそうに見る。

「始めよう」

 兄上の言葉にうなずいてみせ、席についたその時リツが転がるように飛び込んできた。

————「レスター殿下とクロムが!!!帰って来ましたっっ!!!!」


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