【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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最終章 人族編

子竜の懇願 レスターside

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 精巧な彫りのある長いテーブルの左右にずらっと座った軍幹部達。伯父上の側近とユアン達、俺の知らない軍の将軍達も沢山いる。
正面の伯父上と、左脇に座る親父の目の前のテーブル上に兄上と降り立つ。

「レスター、紬の様子は」
親父の低い声。そんなに怒るなら、すぐに助けに行ってくれればいいのに。

「母上は……あまり物を食べられず……お痩せになって……寝込むことが、多く……」

 報告の途中なのに涙が溢れてきてしまう。
母上、大好きな母上。
優しくて、いい匂いがする俺たちの母上。

「親父!助けて……!助けて下さい父上!!竜国などどうなっても構いません!母上を!!母上を助けて下さい!!!」

 兄上が俺の手を取りぎゅっと握ってくれた。取り乱した俺を落ち着かせようとして下さる。

「あるじ、これ、ははうえから、おとと、いもと」

 繋いだ手を優しく離した兄上がふところから大事そうに出した袋に大人達が皆注目する。兄上が袋の結界を解いたので、漏れた魔力で皆何が入っているのか分かったみたいだ。

————母上の宝、俺たちの宝だ。

 破いたクッションのわたの中にそっと入れられた小さな二つの卵。
親父と母上の魔力が混ざった匂いがする。
一つは男で、一つは女。竜の気配。
親父が目を見開いて固まってる。
母上が妊娠してるの知ってたはずなのになんだよ。

「やられたね~~~妊娠したって台詞だけで僕らをここまでおさえこむとはねぇ。なんてあいつは一言も言ってなかったわけだ。まんまと騙されたねぇ。竜国王族を二人も取られるところだったよ」

 伯父上が意味の分からないことを言いながら親父の背中をポンポンと優しく叩くのが見えた。
母上と親父の子に決まってるのに。

「ははうえ、たまご、守ってって」

「——————っ」
親父が絶句して額に手を当て天を仰ぐ。

「侵略を受けたわけじゃないからね。中立者として軍は動かせない。こちらが侵略者になってしまう」

「承知しております。私一人でも消滅させる事は簡単ですが…………それすら禁忌に触れる」

「そんな!親父!!母上はただでさえお身体が丈夫ではないのに!!」  

「竜国とてこのまま黙ってはいないよ。彼女一人に竜国の歴史の汚点を背負わせるつもりは無い。辛抱強く交渉していく。竜国の国庫を全てあけ渡すことも考えている。彼女のおかげで百人の竜人の命が助かっただけではなく、長年の竜国の弱点であった神約が白紙に戻ったんだ。我が国の女神を見捨てたりは絶対にしない。人国だって彼女が大事だ。悪いようにはしないはずだよ?」

「そんな悠長では!!母上はいつも父上の元に帰りたいと泣いておられます!!なのに何故すぐに動いては下さらないのですか!!!」

 伯父上は俺をじっと見て、それから哀しそうに言う。
「レスターは竜国王族としての教育がまだだったか」

 中立者なのは分かってる!!俺達竜族から攻め入ればエルダゾルク神の怒りに触れる。けれど母上は人間だぞ!竜国の犠牲にしていい方ではない!!母上の犠牲の上の竜国など俺はいらない!!

「あるじ、ははうえ、みず、のめてない、水に、何か、盛られてる、毒じゃない、けど、ははうえ、いやがる、ぼくらの、もらって、くれない」

 大人たちがざわめき出し、親父の殺気がビリビリと肌を刺す。

「リヒト、王命だよ、落ち着きなさい」

「グッッッ………………」
痛いほどの親父の殺気にドアの外に立っていた見張りの兵士がドサッと倒れる音がした。

「…………果物の汁を俺たちが手で絞っておりました。それなら飲んでいただけたのです!どちらかが残ると言ったのに!!二人で卵を守って欲しいと強くおっしゃられて……今はもう、俺たちがいないので……果実の汁すら、飲まれてはいないでしょう……」

「水は薬を混ぜているのではないのかい?あの子は人族にとっては神の如き存在だ。滅多なことはしないはずだよ。竜族百人の命を背負って彼女はあそこにいる。本来なら人間の彼女には関係ない種族である我々の為に。帰りたいだけではだめなんだよ。個人の感情は神の前では何の役にも立たない。人国に悪意がないのもこちらが動けない要因だ。人国が彼女に助けを求めて、彼女がそれに答えたという図式を崩せない。こちらが攻撃すればエルダゾルク神の怒りに触れる。竜国の国民全てが危険に晒される」

 そんな!なんで……!神々は母上を愛しているはずなのに!なんで母上をくるしめる!?

「あるじ、ぼく、契約解除、する」

 ザワッと幹部達が兄上の言葉にざわめく。
兄上は何を言っているの?
エルダゾルク神との解除を何故兄上が?

「エルダゾルク、関係なくなる。ぼく、たすけにいく」

「許さん」

 親父が短く答える。眉間に皺がよってる。大人が皆苦しそうな顔をしている。

「クロム、それをするとね、君は中立者の立場ではなくなるからの国へ攻め入る事はできる。こちらの軍部がそれをするのは御法度だけれど子供の君には適用されない。できる……けれど……君とつむぎちゃんの親子の縁も切れてしまうし二度と同じ契約は結べない。君にも重い神罰がくだるよ?」

「いい。おじょう、たすける」

 兄上が母上をお嬢と呼んだ?お嬢?何?何で?

「兄上!!!!何で!!!?そんなの駄目だ!母上が許さない!!」

 今度は俺が兄上の手を取り強く握る。

 兄上は俺を見てにっこり笑う。何故?俺は馬鹿だから分からない。兄上は何を考えてる?

「みんな、おじょう、見てない、分かってくれない。このままじゃ、しぬ」

 ヒュッと息を呑む音が自分からしたのが分かった、俺が考えないようにしてきた事。
痩せて起き上がれなくなった母上の華奢な身体と細い声。

「ゔぅっ!!ゔあ゛ぁぁああ!!!!母上っ!!母上っっ!!」

 俺と兄上の会話に軍幹部達がまたざわめき立つ。
みんな何も知らないくせに!!
親父の離れにいた時の様に大切にされてると本気で思っているのか?

「人間、おじょうの血と肉、食べようとしてる、加護、貰えると思ってる。もう、長く、もたない」

 驚愕の顔の大人たち。親父が跳ねる様に立ちあがりガタンと椅子が転がった。

「クロム……それは…………君は向こうで偵察をしていた、という事で合っているかい?臣下として、王である私への正式な報告と、捉えて良い?」

 伯父上はそこで長く息を吐くと、兄上の肩を持ってまっすぐ目を見て低い真剣な声を出す。

「クロム•レイリン、嘘偽りなく我に真実の奏上をしたと誓えるか」

 伯父上が慎重に紡ぐ言葉に兄上がテーブル上で跪き、頭を垂れる。

「ははうえに、誓って」

 偵察?いつ?兄上はいつも母上から離れなかった。夜?俺は嘆くばかりで何も出来ていなかったのに、兄上はやるべき事をしていた?

『「 クロム!!!よくやった!!!! 」』

 伯父上と親父が同時に叫び、軍幹部達がザッと立ち上がる。

「 明確な悪意と竜国王弟妃弑虐計画、竜国が攻め入る大義名分に十分だ!!よくやってくれた!我が甥っ子達!!」

 伯父上はそう言って、王家の報告書類を出して神に奏上を始めた。

「すぐに出陣する!!クロム、レスター!天馬出陣を許可する!二人ともよくやった!大暴れしていい!宝を取り戻しに行くぞ!!!」

 親父がやっと立ち上がってくれた。
俺の兄上はやっぱりすごい。

「レスタ、ぼくの軍服、前の、あげる」

「はい兄上!!!ツキ達と、刀を取りに参りましょう!!!」





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