【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香

文字の大きさ
1 / 97
第1章

出会い

しおりを挟む
身体が落ちているのに浮遊感はない。

何度か薄い透明な膜の上に落ちて、バリーンと小気味いい音を立ててバラバラと私と共に砕け落ちる。二度、三度それを繰り返しているうちに私の長い髪から黒色が抜け、綺麗な銀糸の様なキラキラとひかる銀髪が現れる。
非現実的な光景に、あ、夢なんだなと逆に安心できる。
夢の中なのに、まどろむ様な眠気を感じて瞼を閉じる。ゆっくりゆっくり堕ちていく。



◇◆◇



「ここ、どこ…………?まだ、夢??」

夢にしては土の匂いと植物の匂いが強烈に鼻を刺す。

「も……森??」

日差しは密集した木々の葉で遮られているのか昼間なのに鬱蒼として仄暗い。

強烈な視線を感じて振り向くと、黒い虎?のような動物が五メートル先で私を見据えている。紅色の目が光っていて、息をのむ。

トラックよりも大きな黒い虎って、なんだ?
やっぱり夢?

けれど心臓の打ち付ける音と冷や汗が現実だと警鐘をならしている。
足がガクガクして動けない。

「い、嫌——こないで…………」

次の瞬間背中に凄まじい痛みを感じ、硬い岩盤の地面にしたたかに押し倒されていた。
黒い獣の口の中の赤い色と生臭い息をすぐ近くに感じ肌が泡立つ。

「動くなよ」

どこかで人の声が聞こえた様な気がしたけれど恐怖でギュッと目をとじていたのと、耳なりがゴーっとうるさいのでよくわからない。

不意に重さが無くなって、熱いシャワーを頭から浴びていた。

「あ、わりぃ。大丈夫か?」

ぼんやりした頭で目を開けると視界が赤い。
むわっとする血液の匂いが鼻に付く。

涙が目に入った血を洗い流すたびに視界がクリアになってくる。

果たして、トラックサイズの黒い虎は首から上が無くなっていた。

「な…………に……?」

「緊急事態で血の事まで頭が回らなかった、わりぃ」

「だ……誰?」

「あ~~、怖いよな、今怖くないやつ来るからな、待ってろ」

「…………私……助かったの?」

「助かったけどな、まずは血を洗い流そうな。あぁ、こっちだクリフ!!」

「団長、何事です?おや、派手にやりましたね」

「緊急事態だったんだよ。間に合ってよかった」

「急に移転魔法を雑に展開するのでびっくりしました。こちらの女性は?」

「わからん、怖い思いをさせた。手当てしてやれ」

「では私は移転魔法の準備を致しますので団長は彼女を起こしてあげて下さい」

「俺がやると無駄に怖がらすだろ、お前がやれ」

「はぁ…………。今私は団長と話しながら雑な移転魔法の入り口を閉じてる所なんですが。街の通行人が間違えて迷い込んだらどうなさるおつもりですか」

「チッ…………」

視界がどんどんクリアになって、外の音も聞きとれるようになってきた。

「あ~~~、嫌だと思うけどな、ちょっと我慢な」

そう言って顔の血をハンカチで拭いてくれる。血のプールに入ったかの様なずぶ濡れの私がハンカチで綺麗になるとは思えないけれど、優しい気持ちが伝わって、嬉しいのとホッとしたので、ポロポロと涙が止まらない。

「悪い、怖いよな。すぐあいつと変わるからな」

目の前の男の人はサラサラとした黒髪の凄まじいイケメンで、びっくりしすぎて声が出ない。濃い琥珀色の瞳が優しくこちらを見ている。 お話の中に出てくる様な騎士の隊服を着ているがどうみてもコスプレには見えない。帯剣している剣も本物だった。

「チッ、まだ終わらねぇのか、クリフ!」

「無茶を仰る。団長の魔力を抑え込むのは骨が折れるんですよ。新しい移転枠はやっぱり団長が出してくださいね。雑じゃない、時間制で綺麗に消える物をお願いしますよ」

もう一人のクリフと呼ばれた男の人も種類の違うイケメンさんだ。
長い金髪の髪が華奢な身体によく似合う。
絵本の中のエルフみたいだ。
 
「嫌だろうが我慢してくれ」

そう言ってイケメンさんは左肩にかけていた襟のついたマントの様な物を外し、私にぐるぐる巻きつけてくれた。イケメンさんの身体が大きいのでシーツを巻き付けた様になる。

「嫌、じゃ、無いです…………。助けて頂いて、ありがとうございます」

私の言葉にイケメンさんはおや?という顔をしたけれど、何にも言わなかった。

「終わりましたよ、返り血を流すのに公爵家にまいりますか?」

「あー、そうだな、本当ならお前んちの方がいいんだろうが……しょうがねぇ」

「我が家は無理ですよ。縁を切っておりますので」

「悪かったよ。んじゃ、もうしばらく我慢してもらうか」

「展開していただければ、先ぶれとして参りますが」

「お前が抱いた方がいいだろ」

「助けたのなら最後まで責任を持ってくださいよ」

「チッ…………」

イケメンさんが不機嫌そうに右手を振ると何も無い空間に長方形の板の様なものがでてきた。
板は透明なのにマーブルに何色もの光がまざっていて、堕ちた時に何度も突き破った透明な膜に似ている。
あれにあたって、何度もくぐったからこんな知らない世界に来てしまった。

「私はスラン殿に用意をお願いしてまいります」

「あぁ頼む」

クリフと呼ばれた人は板の中に消えていく、
あの人も堕ちていってしまうのだろうか。
わからないけれど、あれは怖い。


































 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

異世界から来た華と守護する者

恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。 魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。 ps:異世界の穴シリーズです。

想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。 いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。 しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。 だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。 不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。 差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、 彼女は“自分のための人生”を選び初める。 これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。

処理中です...