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第1章
暗雲1
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「僕の天使、今日も花の様な美しさだね」
「カイウス殿下、お久しぶりです」
久しぶりのカイウス殿下は少しお痩せになって疲れている様に見える。
「ああ、一週間ぶりかな?ちょっと公務で隣国に行っていたんだよ、数日後に隣国の使節団が来るからね、打ち合わせに」
「隣国?」
「そうそう、最近地理の授業もしてるんだって?」
「アブレチアの隣国といったらイリオヤ皇国、ですか?」
「正解。イリオヤの使節団がこちらに一ヶ月ほど滞在する事になったよ。護衛は第二がやるし、接待はどこかの公爵家がやるだろうから、もう僕はお役御免かな。あ、お茶でもしようか。お土産に珍しいお菓子も買って来たんだよ」
カイウス殿下……前はもう少しチャラかった感じしたのに、王子様のお仕事もしっかりしてるんだなぁ。大変そう。
「ありがとうございます」
「おや、なんだか見知った顔が増えたね」
「アラン君ですか?ちょっと心細いので、テオ君のお兄さんなら安心ですし、私のわがままで都合よくそばにいてもらっちゃってるんです」
「ふ~ん、僕の天使の周りに人が増えるのはいい事だね」
「あ、はい……」
何だろう、前より会話が上手く続かない。
怖い。目が全然笑ってない。
「使節団と名打ってるけどね、要は君に自国へ来て欲しいんだよ。勧誘に来るんだろうね」
「へ!?私??」
「そう。国が荒れると魔が増えるんだ。隣国は二年前クーデターがあって今の皇帝が治めたんだけど……その時から魔の出現が多くてね、御しきれてないんだろうね。国が落ち着けば、魔は減っていくから今が踏ん張りどきなんだけどね」
「私が行けば魔が減るから…………?」
「そうだね、数が減って弱体化した所を一気に叩きたいんだろうね。渡す訳ないのに馬鹿だよねぇ、一縷の望みってやつだね」
「でも——第三の御子ってアブレチアの建国神話ですよね?」
「そうだね。イリオヤ皇国は皇帝こそが神と定めている国だから、アブレチアほどの神への信仰はないよ。けれど背に腹は変えられないって事」
「魔を退治するための道具ということですか?」
「そうそう。隣国なんてカッコよくいっても国力も国土も我が国の十分の一にも満たない国だよ。アブレチアが出来て、国土が広すぎるが故に信仰が広まり切らず独立してしまった民族の集まり、と言った方が良いか」
「私がいけば、イリオヤが助かるのですか?」
「リリちゃんが行くの?おすすめしないなぁ、困った人みんなを助ける事が出来ると思ってる?リリちゃんが隣国に行けば、アブレチアはどうなるの?」
「それは……でも……私が来る前は…………少しの間なら……」
「そうだね。各領の騎士団が頑張ってはいたよ?でもねぇ、一度甘い汁を吸わせたらどうなると思う?僕の天使は帰ってこれないと思うんだよねぇ」
会話をしているのに、どんどん隅に追いやられている気分になる。背中に変な汗が滲む。
「まぁ、我が国としてはリリちゃんを渡すつもりはないし、リリちゃんもちょっと変わったお客様ぐらいに思っておけばいいよ、歓迎のパーティーもあるし、楽しめるとおもうよ?」
「でもっ……」
「後がない国だからね、切羽詰まって何するか分かんないって事だけ心配してればいいよ。ほら僕、のらりくらりするの上手いからね、大丈夫だよ」
「そう……ですか……」
◇◆◇
昼間カイウス殿下が言っていた事が頭を巡って眠れない。
シェイド様と思いが重なってからは睡眠薬無しでも眠れる様になったのに。
ベットの中でぐるぐる考え事をするのがいやで起き上がるけれど、物音でみんなを心配させたくなくて、ドームの鍵を取り出した。
もしものためにメモを残して、クローゼットの鍵穴に鍵を差し込んでみた。
何も起こらず困惑する。
あったかい光はどこからも出てこず、一応クローゼットのドアを開いてみると、果たしてドアの向こうはドームの庭だった。
ランタンとショールを持って踏み込む。
振り返った時にはもう部屋のドアは無かった。
裸足で来てしまったけれど、芝生の道は足に心地いい。
ぼんやりとした灯りがついてはいるけれど、心許ないので自室から持って来たランタンをつけて歩く。
湖とは違うエリアに歩いていくと大きな木の下にグランドピアノが一台置いてあるのが見えて来た。
芝生の上に直接、ピアノがおいてある。
「魔法……なんでもありだな……」
ピアノは鍵もかかっておらず、すんなり蓋が開いて美しい鍵盤が並んでいる。
両親が亡くなるまでは、長い事ピアノを習っていた。毎年発表会があって、小学校の音楽会では伴奏も引き受けて…………
少し音を出してみる。長年放置されていたにしてはしっかり調律が整っている。
これも魔法なのかも。
月の光が綺麗なので、ショパンの月光を弾く。
ピアノって、外で音を出すとこんな風に音が広がるんだな。
ホールでいかに響かせるかばかりを考えた音じゃない、自然な音。健康的な響き。
もの悲しい曲ばかり思い出す。
もっと楽しい曲だってたくさんあったはずなのに。
「リリ…………?」
気づくと息を切らしたシェイド様がすぐ近くに立っていた。
「カイウス殿下、お久しぶりです」
久しぶりのカイウス殿下は少しお痩せになって疲れている様に見える。
「ああ、一週間ぶりかな?ちょっと公務で隣国に行っていたんだよ、数日後に隣国の使節団が来るからね、打ち合わせに」
「隣国?」
「そうそう、最近地理の授業もしてるんだって?」
「アブレチアの隣国といったらイリオヤ皇国、ですか?」
「正解。イリオヤの使節団がこちらに一ヶ月ほど滞在する事になったよ。護衛は第二がやるし、接待はどこかの公爵家がやるだろうから、もう僕はお役御免かな。あ、お茶でもしようか。お土産に珍しいお菓子も買って来たんだよ」
カイウス殿下……前はもう少しチャラかった感じしたのに、王子様のお仕事もしっかりしてるんだなぁ。大変そう。
「ありがとうございます」
「おや、なんだか見知った顔が増えたね」
「アラン君ですか?ちょっと心細いので、テオ君のお兄さんなら安心ですし、私のわがままで都合よくそばにいてもらっちゃってるんです」
「ふ~ん、僕の天使の周りに人が増えるのはいい事だね」
「あ、はい……」
何だろう、前より会話が上手く続かない。
怖い。目が全然笑ってない。
「使節団と名打ってるけどね、要は君に自国へ来て欲しいんだよ。勧誘に来るんだろうね」
「へ!?私??」
「そう。国が荒れると魔が増えるんだ。隣国は二年前クーデターがあって今の皇帝が治めたんだけど……その時から魔の出現が多くてね、御しきれてないんだろうね。国が落ち着けば、魔は減っていくから今が踏ん張りどきなんだけどね」
「私が行けば魔が減るから…………?」
「そうだね、数が減って弱体化した所を一気に叩きたいんだろうね。渡す訳ないのに馬鹿だよねぇ、一縷の望みってやつだね」
「でも——第三の御子ってアブレチアの建国神話ですよね?」
「そうだね。イリオヤ皇国は皇帝こそが神と定めている国だから、アブレチアほどの神への信仰はないよ。けれど背に腹は変えられないって事」
「魔を退治するための道具ということですか?」
「そうそう。隣国なんてカッコよくいっても国力も国土も我が国の十分の一にも満たない国だよ。アブレチアが出来て、国土が広すぎるが故に信仰が広まり切らず独立してしまった民族の集まり、と言った方が良いか」
「私がいけば、イリオヤが助かるのですか?」
「リリちゃんが行くの?おすすめしないなぁ、困った人みんなを助ける事が出来ると思ってる?リリちゃんが隣国に行けば、アブレチアはどうなるの?」
「それは……でも……私が来る前は…………少しの間なら……」
「そうだね。各領の騎士団が頑張ってはいたよ?でもねぇ、一度甘い汁を吸わせたらどうなると思う?僕の天使は帰ってこれないと思うんだよねぇ」
会話をしているのに、どんどん隅に追いやられている気分になる。背中に変な汗が滲む。
「まぁ、我が国としてはリリちゃんを渡すつもりはないし、リリちゃんもちょっと変わったお客様ぐらいに思っておけばいいよ、歓迎のパーティーもあるし、楽しめるとおもうよ?」
「でもっ……」
「後がない国だからね、切羽詰まって何するか分かんないって事だけ心配してればいいよ。ほら僕、のらりくらりするの上手いからね、大丈夫だよ」
「そう……ですか……」
◇◆◇
昼間カイウス殿下が言っていた事が頭を巡って眠れない。
シェイド様と思いが重なってからは睡眠薬無しでも眠れる様になったのに。
ベットの中でぐるぐる考え事をするのがいやで起き上がるけれど、物音でみんなを心配させたくなくて、ドームの鍵を取り出した。
もしものためにメモを残して、クローゼットの鍵穴に鍵を差し込んでみた。
何も起こらず困惑する。
あったかい光はどこからも出てこず、一応クローゼットのドアを開いてみると、果たしてドアの向こうはドームの庭だった。
ランタンとショールを持って踏み込む。
振り返った時にはもう部屋のドアは無かった。
裸足で来てしまったけれど、芝生の道は足に心地いい。
ぼんやりとした灯りがついてはいるけれど、心許ないので自室から持って来たランタンをつけて歩く。
湖とは違うエリアに歩いていくと大きな木の下にグランドピアノが一台置いてあるのが見えて来た。
芝生の上に直接、ピアノがおいてある。
「魔法……なんでもありだな……」
ピアノは鍵もかかっておらず、すんなり蓋が開いて美しい鍵盤が並んでいる。
両親が亡くなるまでは、長い事ピアノを習っていた。毎年発表会があって、小学校の音楽会では伴奏も引き受けて…………
少し音を出してみる。長年放置されていたにしてはしっかり調律が整っている。
これも魔法なのかも。
月の光が綺麗なので、ショパンの月光を弾く。
ピアノって、外で音を出すとこんな風に音が広がるんだな。
ホールでいかに響かせるかばかりを考えた音じゃない、自然な音。健康的な響き。
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「リリ…………?」
気づくと息を切らしたシェイド様がすぐ近くに立っていた。
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