【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香

文字の大きさ
85 / 97
第2章

掛け違い

しおりを挟む

「私も下がるから、少し横になりなさい。
スランを控室に呼んであるから安心でしょ?」

「横になるのは嫌いなの、エル、あのピアノは弾いてもいい?」

エルの広い居室の端にアンティークのスタンドピアノが目に入り尋ねる。

「それで休まるのならいいけれど……ちゃんと休むのよ?じゃあまたあとでね?」

「うん、ありがとう」

鍵盤が通常より少ないコンパクトなピアノの丸椅子に、だらしなく三角座りで丸くなる。
アンティークの木の可愛らしいピアノは猫足で、木の香りがする。

ぽーーーん、ぽーーーんと人差し指で同じ音を出す。重厚な鍵盤の透明な音が響いて心地いい。

ピアノの音は雨の音に似ていると思う。

何もかもを優しく洗い流すような。



◇◆◇



「リリあなた、今日はここに泊まっていきなさい。兄様にはスランに伝言を頼んだわ」

「リリさま、私とエルとでお泊まり会を致しましょう、そもそも子爵令嬢と公爵様では家格が釣り合いませんわ。そんなに心配なさる事はないかと」

ラミア様も来て下さって、心配気に覗き込まれた。

「明日、教会で儀式をすることに、なってる、から」

「大丈夫よ。アスラン兄様に送って頂くわ。さっき猊下にも連絡したから聖法衣もそろそろ届くはずよ」

「で、でも、ラミア様がいらっしゃるのにアスラン殿下に送って頂くわけには……」

「あら、わたくしの事を心配してくださっているのね?大丈夫よ、私も同道させて頂いて、グラセンの街をアスランと観光したいのよ?」

「グラセンの、街……?」

エルとラミア様はお互い顔を見合わせている。

「リリ、まさかあなた、グラセンに何ヶ月もいて、一度も街に出た事がないの?」

私がコクンと頷くと、二人ともぎょっとしてまたお互い顔を見合わせた。

「リリさま?先程のお茶会でデートの話題の時様子がおかしかったわよね?もしかしてだけれど、公爵様とデート、された事なかったのかしら?」

言葉にされると胸を抉る。

「婚約前に、一度だけ、王城のドームで、会いました」

「聖都を見学した事はないの?」

「あ、テオ君と、お、お兄さんのアラン君となら、一度だけ……」

「王家はリリの事情を貴方の小さな侍従からも聞いているの。それは知っているわ、兄様とは?」

「な、ないよ?」

「…………兄様から手紙を受け取った事は?」

ふるふると首を振る

「プレゼントは、いただいているのよね?」

「あ、はい、クローゼットの中が勝手に増えている感じで……」

「………………それを着て何処かへ出かけた事は?」

首をふる。

「こ、この前、初めて馬車でお出かけしたのは、教会での魔熱治療の儀式で……その時はおしゃれできると、おも、思ったんだけど……聖法衣を着てくれって言われてしまって」

泣くのを我慢しているせいか、声が震えてしまう。

「じ、次回からはベールもしなきゃいけないから、使い道は、あんまりないかも」

「これは完全に兄様が悪いわね」

「!?違っ!シェイド様は、お忙しいから、だからっ」

違うの……と尻すぼみな声が出る。
シェイド様は悪くない。

「リリ?この国はね、恋人も婚約者も夫婦でさえも男性が女性に愛を乞うのが普通なの。折々でプレゼントにメッセージをつけて贈るのも、デートで女性を楽しませるのも、マナーなのよ?貴族は特によ」

もうここで我慢は限界をこえて、ボロボロと涙が溢れてきてしまう。

エルとラミア様も困惑した様子だったけれど、私を両側から抱きしめて、背中をさすってくれた。

カランと鈴の音が鳴って、エルの侍女が入室し、エルに何やら耳打ちをする。

「リリ?使者じゃなく聖主猊下ご本人がいらっしゃったわ。明日の聖法衣をお持ちくださったの。心配して下さったのね。客間にお通ししてあるから少し会えそう?」

コクンと頷く。

「私たちもいた方がいい?」

「ん、大丈夫。お礼を、いってくるね」

「ええ、扉は開けたままにしておくのよ?」

「ん、分かった」

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

異世界から来た華と守護する者

恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。 魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。 ps:異世界の穴シリーズです。

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...