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現実 その2

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親が帰って来る。
それは至極当然の事なのだが私からするとあまり気分の良いものでは無い。
勿論、自分が今生きていられるのは親のお陰だし自分を通信制の高校へ転入させてくれたのも親。
しかし、自分の親に対して「親」というものを感じたことが無い。と言うか、親を感じるというよりは「愛情」を感じた事がない。
親が自分の事を真剣に考えているのはわかる、心配をしてくれているのもわかる。しかし何故だろう、愛情を感じない。
表向きでは心配しているような態度をしておいて裏では早く消えて欲しいと願っているかもしれない、疎ましく思われているかもしれない。
人間とはそういうものだ、本音と建前を使い分ける。
どれだけ優しく振舞ってもブチ切れた時に人の本性は現れる、そんなものは嫌という程見てきた。だから私は人が信じられない。
あろう事かそれを見せつけたのは親だ。親の二面性を見続けてきたら子供はどう思うだろうか?まともに育つはずがないだろう。寧ろ心がねじ曲がり人を信じる事が出来ない人間になる事は明快だ。
そうやって育ってきた私からすると親というものは親でありながら親ではないのだ。
じゃあなんなのだと自分に問いかけてみる。
汚い話、父親はお金を稼いで来る人、母親は都合の良い話し相手だ。
どちらにも親として尊敬の念を持つ事が出来ない。ただ自分とは違い毎日働きに行っている辺り相当マシだ、人間としては尊敬する。
それに比べ自分はクズだ、生きている価値もない、通信制の高校へ登校しない日はニート同然で…しまった、また自己嫌悪に陥るところだった。
どうも私は考え事をしている最中に自己否定をする癖があるらしい。気づくといつも気持ちが落ち込んでしまっているのだ。
などと考えていると母親が鍵を開けて家へと入ってきた。
この家に入ってくる音を聞くとなんというか、こう、凄く嫌な気分になる。憂鬱だ。

「ただいまー。」

「…」

ここであえて1度聞こえていないフリをする。すぐに返事をしてしまうと母親が帰ってきた事に興味があるような感じになってしまうから。

「ただいまー。」

「…おかえりなさい。」

扉を開けドタドタと玄関からリビングに入って来たかと思うとシャッ!と力強くカーテンを開けて一言。

「…シャッター閉めといてって言ったよね?」

「まだ暗くないなら閉めなかった。」

「この時期そこまで暗くなくても冷えるから早く閉めといてって言ったよね?」

「言ってない、気の所為。」

「言、い、ま、し、た!冷えるのが早いから閉めといてって言った!」

「言ってない聞いてない。」

「あんたが聞いてないだけでしょ私は言いました。」
 
そう言うと母親は荒々しくシャッターを閉めた。
本当に覚えていない、何かを聞いた記憶すら無い。マジで言ってないと思うよお母さん、気の所為だ。そして母親の気の所為で怒られるなんて理不尽だ。

「皿は洗っといてくれた?風呂掃除はしてくれた?」

「皿は洗ってない。お風呂掃除は今からやります。」

「ふーん。」

一言だけ適当に返すと母親は台所へと向かった。

「あんた今日1日何してたの?」

「考え事してた。」

「毎日昼過ぎに起きて家の手伝いもしないで、何してるんだか。」

正論すぎてぐうの音も出ない。しかし何故だろう、無性に腹が立つ。人間は正しい事を言われると腹が立つとはこの事か。

「予定何も無いなら出かければいいのに。」

「受験生がなんで勉強もせずに出かけなくちゃならないんだか。あと考え事をしてたって言ったけどそれ以外にも一応勉強してたから。」

そう、何を隠そう私は今れっきとした受験生なのだ。なのにこの有様、どうにかして自分でもこの生活から脱出しようとしているのだがこれがなかなか難しい。
宅浪がダメと言われる理由が何となくわかる。
ちなみにそのダメな生活習慣がこれだ。朝起きた時点で昼過ぎ、なので朝から勉強する予定だったのにやる気が失せてしまった…だから明日から頑張ろう、明日から勉強しよう、明日こそ朝早く起きよう。
そして早寝しようとするが昼過ぎまで寝ていたので結局眠る事が出来ず午前4時くらいになってしまう。そこからやっと眠りにつけたかと思うと昼過ぎ…延々とこの繰り返しである。

「とても勉強しているようには見えないけどね。」

もっともだ、だって勉強してないんだもの。そこは素直に申し訳なく思う。

「まぁいいか、してないなら結果で出るんだし。」

「…、受かればいいんでしょ受かれば。」

「受かればね。」

ここまで話したところでリビングの嫌な空気に耐えられず私は自室へと逃亡する事を決意する。
立ち上がり机の上にある今日1日手をつけていない参考書を持ち上の階の自室へと向かう。
正直自室は今散らかっているのであまり居心地は良くない…と思っていたがどっこい、なぜ自室とはここまで心安らぐのだろう。どれだけ汚くても心が落ち着く、自分だけの空間…。
はあ、と大きいため息をつくと私は
手荒に参考書を机に向かって投げ捨てベッドへとダイブし、考え事の続きを始めた。
母親は今日も働いて帰宅した。立派に働いた。
いつも通り、いつも通り働いている。
そのいつも通りの日常でも今日と同じ日は二度と訪れない。
私はどうだろう。二度と訪れないはずの今日が何日も続いている。カレンダーだけが、時間だけが進んでいく。やっている事や考えている事は同じ、何も変わらない。本当にこれでいいのだろうか?言いはずがない。しっかり勉強をして家事もやらなくては。しかしやる気が出ないんだ、どうしようもない。
どうしようもないくらいやる気がない。やる気を出すことが出来ない、それならそれも実力のうち。
出来ない自分を肯定し始めている自分が憎い。

父親はお金を稼いで来る。
母親はお金を稼いで来て家事もする。
妹は毎日ちゃんと学校へ行く。勉強も部活も頑張っている、帰ってきてからも勉強する。受験生の自分より勉強する。
自分だけだ、何も出来ていないのは。劣っている。1人だけ家族の中でどんどん孤立していく。寂しい?そんな事はない。少し前までは寂しいかったが今は違う。もう人や物には執着しないと決めたんだ、例え家族の中で孤立しようと特に問題は無い。
この考え方はもう二度と変わる事はないだろう、この先何があろうと。
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