一人の少女に敗北した冒険者たちの記録

アルキオネ

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レイナの場合

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「それにしても、不気味な事件ね……」
仄暗い洞窟の中、そう呟くのは、レイナ・ヴァルフォール。王都では商業の名家として知られるヴァルフォール家、その第三令嬢だ。
幼い頃から剣術の訓練を受け、その実力は名家の令嬢ながら王国騎士と渡り合うほど。
そんな彼女は、第三令嬢ということもあって早々に家の跡継ぎ抗争をリタイア。
家族の反対を受けながらも、「世界を知りたい」と冒険者としての道を歩んでいた。

その自慢の剣術で、一瞬で頭角を現した彼女に、ギルドから洞窟攻略の依頼が舞い込む。
と言っても、普通の依頼ではなく、「数名の新米冒険者が相次いで行方不明になっている」という、曰く付きの洞窟だった。

これを受諾した彼女は、細心の注意を払いながら、洞窟内を進んでいく。
道中は、レベルが一桁台の魔物ばかり。
若くしてレベル30付近まで到達していたレイナの敵では無かった。
「ボスまでこの調子なら、いくら新米冒険者でも、負けるなんてあり得ないはず。」
一流の環境で教育を受けたことで、一般の冒険者には無い聡明さも持ち合わせていた彼女は、道中で早くもこの事件、この洞窟の異質さに勘付いていた。

道中でも決して警戒を解くことなく辿り着いた、巨大な扉。
事件の元凶が中で待ち構えていることは、明らかだった。

狙うは短期決戦。一つの動作も無駄に出来ない。
レイナは、名家の令嬢とは思えないほどの勢いで、力強くその扉を押し開けた。

瞬間、彼女の目に入って来たのは洞窟の雰囲気とは真逆とも言えるほどパステルカラーに彩られた室内と、その中央で佇む童女。
短期決戦を目指し、勢いよく扉を開けたレイナだったが、その異質な光景を視認するや否や、不意な接近は危険だとして急ブレーキを掛ける。
その咄嗟の判断は、結果的に最善な選択だった。

「へぇ、おねえさん、結構強いんだねぇ。リリスの”間合い”に入ってこないなんて。」
一触即発の空気の中、悠長にもその童女------リリスは笑みを浮かべながらレイナに語り掛ける。
が、レイナはそれに反応しない。
それもそのはず。今の彼女は警戒心を最大まで引き上げている。無為に口を開くつもりなど無かったのだ。

「何もしてこないなら、わたしから攻撃しちゃお~!」
〈魔女〉リリスのこの言葉が、開戦の合図となった。

両者とも、一歩も譲らぬ激しい攻防。
レイナが自慢の剣術でリリスを切りつけようとすると、リリスは寸でのところでその刃を回避し、リリスが拘束魔法を打ってレイナの動きを止めようとすると、今度はレイナがその身を軽く使って回避する。
その結果、どちらも決定機の無いままに体力だけを消耗する長期戦に突入していた。

「ふぅ……おねえさんやっぱり強いんだね。リリスこんなに苦戦したの、おねえさんがはじめてだよぉ……」

永遠にも思える長い戦闘。先に攻撃を喰らったのは、レイナであった。
リリスの魔法、バインドが足に当たってしまったのである。
一気に間合いを詰めようと飛び出した足は、強い重力に引かれるように真下の地面に接地されてしまった。

思わぬ急ブレーキに耐えられず、前傾のまま倒れたレイナだったが、流石の反応速度で上体を起こすことには成功した……のだが。
当然、バインドを喰らっていてはその場から動けるハズもなく。
彼女はついに散々拒んできたリリスの接近を許してしまった。

不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと近寄るリリス。
隠されていた彼女の秘術が、レイナの耳に響き渡る。
「レベルドレイン!」

万事休すか。レイナ本人ですら、そう感じていた。
ただ、彼女の本能はそれを認めなかったようで。
咄嗟に突き出した左手、それが逆転の一手だったのだ。

「きゃぁぁぁぁぁあああああ!」
レイナの耳をつんざくような、甲高い悲鳴。
それは当然彼女の口から発されたものではなく、目の前の童女、リリスから発されたものだった。

諦めかけていた、いや、既に諦めていたレイナの体に、膨大な経験値が流れ込む。
消耗していた体力は徐々に回復し、活力さえ湧いてくるようだった。
そう。レイナは諦めの境地から、眠っていた本能に助けられる形で、絶望的な形勢を逆転したのだ。

レイナの左手に握られていた、合金の盾。
それには、長年愛用していたレイナ本人ですら知らない能力が隠されていた。
魔法反射。読んで字のごとく、物理的な攻撃だけでなく魔法すらもはね返す能力である。
リリスの秘術、レベルドレインも所詮は魔法の一種に過ぎない。
かくして反射された秘術は、〈魔女〉リリスを苦しめる結果となった。

数秒間鳴り響いていた悲鳴が止み、レイナはその目を開ける。
そこには、未だ苦しんでいる様子の童女、リリスが転がっていた。

状況は理解できないが、覚悟していた苦しみは無く、目の前には苦しむ敵の姿があり、自身にはいつの間にか消耗した体力が戻っているように感じられる。
であれば、レイナが取るべき行動は、一つしか無かった。

「なんだか分からないけれど、助かったみたい。そして、リリスと言ったかしら。あそこまでしぶとい魔物は久々だったわ。ただ、私の方が一枚上手だったようね。あの世でしっかり罪を償いなさい。」

暴れるリリスを押さえつけ、しっかりと始末するため剣を振り上げる。
数秒前の絶望から一転。レイナは勝利を確信していた。
……のだが。

「レベルドレイン!」
再度放たれた、〈魔女〉リリス最大の秘術。
数秒前、レイナを絶望の淵から救った盾は存在しない。
レイナは、勝利を確信し、最後の最後に警戒を解いてしまったのだ。

暴れるリリスを確実に一撃で仕留めるため、拘束に使ってしまった左手。
そんな状況では当然ながら、盾を持つことは出来ない。
自分がどうして生き延びることに成功したのか、それを理解していないレイナは、その盾を手放していたのだ。

それが皮肉にも、リリス唯一の勝ち筋を生んでしまった原因だった。
強く振り上げた右手から、急速に力が抜けていく。
リリスが暴れないよう拘束していた左手も、一瞬で力が無くなり、勝ち誇った顔は再度絶望へと沈んでいった。



「あのねぇ!レイナたんねぇ!おねーたんなんだよぉ!」

晴天に響き渡る、甲高い声。
その声の主が、王都で名を馳せる名家、ヴァルフォール家の令嬢であるということを知る者は、そこには居なかった。

エリスが連れて来られた村とは王都を挟んで反対側に位置する、とある村。
そこに突如として現れた幼子は、村の衆によって捨て子だと判断された。
唯一の情報は、汚れた衣服に書かれていた「レイナ」という名前だけ。

当然、それがヴァルフォール家の第三令嬢だと知る由もなく、もしその存在を知っている者がいたとしても、ここまでの幼子では無いと判断することだろう。
汚れた衣服におむつという、やや珍妙な格好をした幼女は、村の小さな修道院に預けられた。

当然、これらはリリスの仕業である。
絶体絶命の状況から、再逆転のレベルドレインを成功させ、絶望に染まったレイナの拘束から抜け出したリリスは、レイナに奪われていた経験値、そしてレイナが長年の修行で積んでいた経験値を全て吸収し、復活を遂げた。

そうして、前回リリスを捨て置いた村とは反対に位置する村に、眠りに落ちているレイナをそっと置いて帰ったというわけだ。

例によって、レイナには強力な呪いが掛けられている。
エリスと同じく、おむつの常用化と、そして大幅な知能の低下だ。
リリスは、レイナの待遇についてエリスと少し差別化して愉しむためあえて乳児にはせず、幼児に留めておしゃぶりも着けさせなかった。
ただ、知能はその身体年齢よりも2歳ほど幼くなっており、村の小学校に通う女子児童と同じか少し低いほどの背丈でありながら、会話をすると彼女よりも頭一つ分低い男児と同等の能力しかないことが明らかとなった。

レイナもまた、成長する未来の見えない幼体という檻に閉じ込められたのであった。
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