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追い出されるように病院を後にし、邸に戻ったベルタは自室ではなく、夫との寝室に引きこもった。
ベッドの上に倒れ込み、何度も寝返りを打ち、天井を睨んだが落ち着かない。
ベッドから立ち上がり、窓を開けてはすぐに閉め、カーテンを閉めて暗さを求めたが、すぐにカーテンを開いて明るさを求めた。
ベルタの様子を窺うために何組かの貴族が来てくれたが、ベルタは全ての応接を断り、そのたびにレシカは訪客の機嫌を損じないように丁重に挨拶をした。
「そうだ、聖堂へ行こう」
ベルタは思った。ペルネ公と挙式を遂げたあの教会だ。神に祈る以外に、この孤独で不安な時間を過ごす術をベルタは知らなかった。
バッサに声を掛けると、彼はすぐに馬車の用意をしてくれた。彼とて、ベルタの心中は察するに余りあるものがあった。
「私がお供いたしましょう」
そういって、バッサは深沈とした面持ちでベルタを馬車に乗せた。ベルタの手には、寝室で見かけたペルネ公の手袋が握られていた。
幸いに聖堂には人はおらず、事の詳細をすでに知っている司教は、あえて言葉少なめにベルタを中に招じ入れた。ベルタはバッサに外に待っているように伝え、司教と共に聖堂内へ入った。
高い天井。壁に飾られた聖者や使徒たちの絵。中央の聖像と世界一の大きさだという木製のパイプオルガン。すべてがあの挙式の日のままだったが、ペルネ公の意識だけが行方知れずのままだ。そう、そしてベルタ自身の心も行き場を失っていた。
「何をすれば神様は願いを叶えてくれますか?」
「神は将来をすべて見通し、神とて将来を変える力はありません。ただお祈りください」
「お祈りすれば願いは叶うでしょう?」
「我々人間にできることは祈ることだけです。だから祈るのです」
「答えになってないわ」
「神は、人間が人間としてできることを、出来る限りのことを全うすることをお望みなのです」
「そうしたら願いは叶うでしょう?」
「目先の願いを叶えることが神の望みではないのです。貴女様が出来る限りのことをすれば、貴女様は神のもとへ一歩近づき、貴女様は救われるのです」
「私は神様じゃなく、夫に近づきたいの」
ならば教会へ来るな。神に願うなとは司祭は言わない。ただ押し黙った。
ベルタは落胆した。
こんなとき、ペルネ公ならば、大きな包容力でベルタの疑問に答えてくれたであろう。それが真実かどうかなどどうでも良いのだ。ただ安心が欲しいとき、ペルネ公はいつもベルタを安心させてくれた。
ベルタは教会を去った。
馬車に揺られながら、ベルタは手にしたペルネ公の手袋に目を落としていた。
ペルネ公が脱いだままの手袋は、温かな血の通ったペルネ公の手そのものの形をしており、ベルタは何度も優しく手袋を撫でた。
そうして、はたと気づくのだった。
気づいたとほぼ同時にベルタは思った。
言葉としてではなく、感覚として思った。
( 私は、ペルネ様を愛している )
ベッドの上に倒れ込み、何度も寝返りを打ち、天井を睨んだが落ち着かない。
ベッドから立ち上がり、窓を開けてはすぐに閉め、カーテンを閉めて暗さを求めたが、すぐにカーテンを開いて明るさを求めた。
ベルタの様子を窺うために何組かの貴族が来てくれたが、ベルタは全ての応接を断り、そのたびにレシカは訪客の機嫌を損じないように丁重に挨拶をした。
「そうだ、聖堂へ行こう」
ベルタは思った。ペルネ公と挙式を遂げたあの教会だ。神に祈る以外に、この孤独で不安な時間を過ごす術をベルタは知らなかった。
バッサに声を掛けると、彼はすぐに馬車の用意をしてくれた。彼とて、ベルタの心中は察するに余りあるものがあった。
「私がお供いたしましょう」
そういって、バッサは深沈とした面持ちでベルタを馬車に乗せた。ベルタの手には、寝室で見かけたペルネ公の手袋が握られていた。
幸いに聖堂には人はおらず、事の詳細をすでに知っている司教は、あえて言葉少なめにベルタを中に招じ入れた。ベルタはバッサに外に待っているように伝え、司教と共に聖堂内へ入った。
高い天井。壁に飾られた聖者や使徒たちの絵。中央の聖像と世界一の大きさだという木製のパイプオルガン。すべてがあの挙式の日のままだったが、ペルネ公の意識だけが行方知れずのままだ。そう、そしてベルタ自身の心も行き場を失っていた。
「何をすれば神様は願いを叶えてくれますか?」
「神は将来をすべて見通し、神とて将来を変える力はありません。ただお祈りください」
「お祈りすれば願いは叶うでしょう?」
「我々人間にできることは祈ることだけです。だから祈るのです」
「答えになってないわ」
「神は、人間が人間としてできることを、出来る限りのことを全うすることをお望みなのです」
「そうしたら願いは叶うでしょう?」
「目先の願いを叶えることが神の望みではないのです。貴女様が出来る限りのことをすれば、貴女様は神のもとへ一歩近づき、貴女様は救われるのです」
「私は神様じゃなく、夫に近づきたいの」
ならば教会へ来るな。神に願うなとは司祭は言わない。ただ押し黙った。
ベルタは落胆した。
こんなとき、ペルネ公ならば、大きな包容力でベルタの疑問に答えてくれたであろう。それが真実かどうかなどどうでも良いのだ。ただ安心が欲しいとき、ペルネ公はいつもベルタを安心させてくれた。
ベルタは教会を去った。
馬車に揺られながら、ベルタは手にしたペルネ公の手袋に目を落としていた。
ペルネ公が脱いだままの手袋は、温かな血の通ったペルネ公の手そのものの形をしており、ベルタは何度も優しく手袋を撫でた。
そうして、はたと気づくのだった。
気づいたとほぼ同時にベルタは思った。
言葉としてではなく、感覚として思った。
( 私は、ペルネ様を愛している )
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