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 それは、結婚して二年目の夏のことだった。

 ひとりの男がベルタの住む新居に駆け込んできた。

「ベルタ様はおられますかっ!!」

 ちょうど庭にいたレシカはハーブ摘みの手を止め、バッサは邸内から何事かと出てきた。彼ら二人は、ベルタに付いて新居へと移り住んでいたのだ。

「パーニャス?どうしたの?」

 レシカが聞く。パーニャスとはペルネ公の従者である。彼はペルネ公と共に、早朝より鹿狩りのために森へ出ていたはずであった。

「ペルネ様が崖より落ち、さきほど病院の方へ参られました・・・」

「なんだって!??」

 バッサが思わず声を上げた。

「それで、ご容体は?」

 レシカが高鳴る鼓動を抑えて努めて慎重に聞く。

「運悪く、落ちた場所が硬い岩盤でありまして、高さも相当にあり、、、我々が下りてご様子をうかがったところ、ご意識なく・・・」

「大変なことが起きてしまった・・・。ともかく、ベルタ様にお伝えし、病院へ向かっていただこう。パーニャスは馬車を曳いてベルタ様をお連れしろ。ああ、レシカも付いて行ったほうが良い。ベルタ様の混乱をなるべく鎮めてくれ。私はここへ残り、じきに帰ってくるであろう従者たちを取りまとめる。」

 バッサは機敏に指示を出した。

 報に触れてのベルタの狼狽ぶりは尋常ではなかった。

「なぜ、なぜ、なぜ?従者が何人も付いていて、どうして夫を見守らなかったわけ!?」

「どうも馬の方が足を滑らせたらしく、我々も気づいたときには既に・・・。乗馬にかけては名手のペルネ様も成すすべがなかったようで」

「崖近くまで行ったら、制止するのも従者の務めでしょう!!」

「なにぶん、いつもの通い慣れた道だったゆえ・・」

 馬車を走らせ、パーニャスは顔面蒼白になりながらベルカの悲憤を一身に受けていた。



 貴族用の病院はサーシェン城内にある。ベルタを乗せた馬車はすぐに病院に着いたが、即座に面会は断られた。

「わたしは妻ですよ!これはエンツァーレ家として貴方に命じます。夫の病室へ案内なさい!」

「ベルタ様。お言葉ですが、我々は医療行為においては、どなたのご命令にも服しません。我々は患者の命を最優先いたします。王様とて最優先ではなく、そのご命令が医療行為に反するものならば断固と拒否いたします」

「せっ、、せめて一目でも」

「貴女の最愛の夫は病室にはいません。ペルネ様は手術室におられます。手術を邪魔するものは、いかなるものでも患者の命を脅かすものです」

「手術ですって??・・そんなに状況は悪いの」

「意識が回復しません。脳に損傷を受けた疑いがありますが、これは数日経たねば判断が付きません。今は、取り急ぎ、折れた右腕と右脚の手術を行っています」

 説明を聞き終わる途中で、ベルタはその場に崩れ落ちた。

 
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