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 ゲオルグ王はしばらく、眼下の丘を眺めていた。風が柔らかく吹き抜け、村々の灯りが美しい。

「・・・どこに耳があるやも知れぬ。ひとまず、部屋へ入ろう」

 はるか海の方を向き、目だけをエリオ王子に送って王は言った。

「なに、周囲はディルカーノとメルラに張らせてあります。彼らの力はご存じでしょう」

「ともかく、、、ここでは落ち着かん」

 二人は王の自室に入り、改めて、エリオ王子はディルカーノとメルラの二人を呼んだ。

「ディルカーノは部屋の前にいておくれ。なに、窓の外は平気さ、あちらから内の様子はうかがえやしない。メルラは急ぎ我が邸に戻り、ほら手はず通り・・・」

 ディルカーノとメルラはエリオ王子に一礼し、エリオ王子は軽く笑顔を送ってドアを閉めた。

「さて、、、」

 王は椅子に座り、テーブルに両肘をついては両手で顔を無性にさすり、目をじっと閉じていた。

 エリオ王子は、我が息子で後継者とはいえ、実際上は軍事の第一軍を統率する発言権のある将軍であり、内政、外交の両会議でも常に評議の取りまとめ役として皆に一目を置かれている。事実、王自身にしても王子をほとんど軍師として見ており、その発言は到底無視できないのである。
 
 ゲオルグ王は眉間の皺を深くし、重い口を開いた。

「なぜペルネ公を追おうと思った?」

「恐れながら、、、ハランド公には王位を狙う節が常々ありました」

 ハランド公とは、ペルネ公の父にして、他ならぬゲオルグ王の実弟である。

「つまらぬ噂じゃ」

「先の戦いでも、デガルダ側が不沈のサッパルネ砦を抜いたのは、ハランド公の内通という話もあります。あの砦があの程度の攻めで抜かれることがないことは、父上もご理解いただけるはず」

「それこそ証拠がない」

「あります」

「あるだと?」

「私はこの数ヶ月、ハランド公の動きを探ることに余念がありませんでした。ハランド公の邸からデガルタ国方面へ向かう少数の兵の動きも把握していましたが、そこは父上のご実弟の兵。あからさまに捕らえて証拠を押さえることは控えていました。しかし、、、」

「・・・・・。」

「先の戦いです。サッパルネ砦を落とされ、わが幼馴染のアレッサが命を落とした、あの戦いの後、さすがに私は自分の気持ちを抑えきれず、ハランド公の邸から城外へ出た一人の兵を捕らえました」

「、、、、、。な、なにか掴んだのか」

「じきにメルラが戻ります。わが父。サーシェン国、国王。ゲオルグ王に申し上げます。ご決断が迫っております。さあ、メルラを待ちましょう」
 
 
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