20 / 20
20
しおりを挟む
” ペルネ公とその家族、及び、ペルネ公付きの従者は今後一切の貴族的活動を永遠に禁じる!!”
これが、ペルネ公に下された判決だった。
彼が保持する部隊は解散され、兵たちは、別の貴族たちの傘下に編入されることになった。
その夜、遅くにペルネ公は邸に戻った。
貴族社会からの永久追放。戦や議会、式典や交際など、一切の貴族的活動から除外され、事実上の引退勧告でもあった。
ベルタは眠れずに起きていた。
「君には申し訳ないことになってしまった。わずかだが給金は下るそうだ。生きていくには事足りたとて、とても、君に贅沢をさせるわけにはいかなくなった」
ベルタは自分のことなど頭になかった。綺麗ごとではなく、純粋に夫の行く末を案じた。
「一度だけ聞かせて」
心身ともに疲れ切り、浅く椅子に腰を掛けたペルネ公にベルタは言った。
「貴方はお義父様の企てを知っていたのですか?」
聞く権利が私にはあるとベルタは思った。不信で聞くのではない。分からないから聞くのだ。ただし、聞くのは一度きりだ。夫の一度だけの返事を待ち、私はその返事を受け入れるだけだ。
「君の壊れそうな繊細な精神に誓って言う。私がここで嘘をつけば、君の精神は粉々に壊れてしまう。それを理解した上で断固として言おう。私は父上の所業を一切知らなかった」
夫の偽りのない目にベルタは安心した。
親類の罪の煽りを食らって追放されようとも、彼は被害者なのだ。彼は義に背いたのではないのだ。
「私、王様のところへ行きます」
「ベルタ。あれだけの歴々の前で決まったことだ。覆ることはないんだよ。それが貴族の裁決というものだ」
「罪なき者を罰していいのでしょうか」
声と共に込み上げてくるものがあり、ベルタは涙声で言った。
「父という近しい存在の動きさえ掴めず、その動きを制することもできなかった。これだけで、子として、国の士として十分に罪なんだよ」
口辺だけ上げ、実に悲しげな笑顔でペルネ公は言った。
「もう、貴族社会では生きられないんだよ。怪我のこともある。おまけに、反逆者の子という烙印まで押されてしまった。双肩に背負うにはあまりに重い十字架だよ。だけど私のことはいい。ベルタが社交のたびに辛い思いになるのが目に見えている。私はそれだけは耐えられない」
その言葉に、ベルタは全身を電流が走った。こんな有り様になっても、この男性は私のことを一番に気に掛けてくれていた。
その誠実さに、ベルタはペルネ公に対して一種の不器用さや、穢れなき少年のような未熟さをも同時に感じた。
そして、その誠実さの違う側面で、彼は自らの運命を静かに受け入れようとしているのだ。
そう思うと、目の前の大男が、卒然といとおしくなってきた。
「腰を深くお掛けなさい。愛するペルネ様。さあ、椅子に深く座って、背筋をきちんと伸ばしましょう」
ペルネ公は目を見開いて妻を見た。
「貴方は何もやましいことはない。追放されても、歴とした貴族なのよ。落ちぶれたなんて、誰に言われようとも構わない。私は貴方を愛しています」
これが、ペルネ公に下された判決だった。
彼が保持する部隊は解散され、兵たちは、別の貴族たちの傘下に編入されることになった。
その夜、遅くにペルネ公は邸に戻った。
貴族社会からの永久追放。戦や議会、式典や交際など、一切の貴族的活動から除外され、事実上の引退勧告でもあった。
ベルタは眠れずに起きていた。
「君には申し訳ないことになってしまった。わずかだが給金は下るそうだ。生きていくには事足りたとて、とても、君に贅沢をさせるわけにはいかなくなった」
ベルタは自分のことなど頭になかった。綺麗ごとではなく、純粋に夫の行く末を案じた。
「一度だけ聞かせて」
心身ともに疲れ切り、浅く椅子に腰を掛けたペルネ公にベルタは言った。
「貴方はお義父様の企てを知っていたのですか?」
聞く権利が私にはあるとベルタは思った。不信で聞くのではない。分からないから聞くのだ。ただし、聞くのは一度きりだ。夫の一度だけの返事を待ち、私はその返事を受け入れるだけだ。
「君の壊れそうな繊細な精神に誓って言う。私がここで嘘をつけば、君の精神は粉々に壊れてしまう。それを理解した上で断固として言おう。私は父上の所業を一切知らなかった」
夫の偽りのない目にベルタは安心した。
親類の罪の煽りを食らって追放されようとも、彼は被害者なのだ。彼は義に背いたのではないのだ。
「私、王様のところへ行きます」
「ベルタ。あれだけの歴々の前で決まったことだ。覆ることはないんだよ。それが貴族の裁決というものだ」
「罪なき者を罰していいのでしょうか」
声と共に込み上げてくるものがあり、ベルタは涙声で言った。
「父という近しい存在の動きさえ掴めず、その動きを制することもできなかった。これだけで、子として、国の士として十分に罪なんだよ」
口辺だけ上げ、実に悲しげな笑顔でペルネ公は言った。
「もう、貴族社会では生きられないんだよ。怪我のこともある。おまけに、反逆者の子という烙印まで押されてしまった。双肩に背負うにはあまりに重い十字架だよ。だけど私のことはいい。ベルタが社交のたびに辛い思いになるのが目に見えている。私はそれだけは耐えられない」
その言葉に、ベルタは全身を電流が走った。こんな有り様になっても、この男性は私のことを一番に気に掛けてくれていた。
その誠実さに、ベルタはペルネ公に対して一種の不器用さや、穢れなき少年のような未熟さをも同時に感じた。
そして、その誠実さの違う側面で、彼は自らの運命を静かに受け入れようとしているのだ。
そう思うと、目の前の大男が、卒然といとおしくなってきた。
「腰を深くお掛けなさい。愛するペルネ様。さあ、椅子に深く座って、背筋をきちんと伸ばしましょう」
ペルネ公は目を見開いて妻を見た。
「貴方は何もやましいことはない。追放されても、歴とした貴族なのよ。落ちぶれたなんて、誰に言われようとも構わない。私は貴方を愛しています」
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
安らかにお眠りください
くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。
※突然残酷な描写が入ります。
※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。
※小説家になろう様へも投稿しています。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
守護契約のはずが、精霊騎士の距離が近すぎて心拍がもちません―― 距離ゼロで溺愛でした。
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済:全8話⭐︎
ーー条項:心拍が乱れたら抱擁せよ(やめて)
村育ちの鈍感かわいい癒し系ヒロイン・リリィは、王都を目指して旅に出たはずが――森で迷子になった瞬間、精霊騎士エヴァンに“守護契約”されてしまう!
問題は、この騎士さまの守護距離が近すぎること。
半歩どころか背後ぴったり、手を繋ぐのも「当然」、心拍が乱れたら“抱擁条項”発動!?
周囲は「恋人だろ!」と総ツッコミなのに、本人たちは「相棒です!」で通常運転。
守護(と言い張る)密着が止まらない、じわ甘コメディ異世界ファンタジー!
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる