夫の仇である死ぬほど憎い男を愛してしまったどころかドロドロの沼に落とされた話

花山院静

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  ” ペルネ公とその家族、及び、ペルネ公付きの従者は今後一切の貴族的活動を永遠に禁じる!!”



 これが、ペルネ公に下された判決だった。

 彼が保持する部隊は解散され、兵たちは、別の貴族たちの傘下に編入されることになった。


 その夜、遅くにペルネ公は邸に戻った。

 貴族社会からの永久追放。戦や議会、式典や交際など、一切の貴族的活動から除外され、事実上の引退勧告でもあった。

 ベルタは眠れずに起きていた。

「君には申し訳ないことになってしまった。わずかだが給金はくだるそうだ。生きていくには事足りたとて、とても、君に贅沢をさせるわけにはいかなくなった」

 ベルタは自分のことなど頭になかった。綺麗ごとではなく、純粋に夫の行く末を案じた。

「一度だけ聞かせて」

 心身ともに疲れ切り、浅く椅子に腰を掛けたペルネ公にベルタは言った。

「貴方はお義父とう様の企てを知っていたのですか?」

 聞く権利が私にはあるとベルタは思った。不信で聞くのではない。分からないから聞くのだ。ただし、聞くのは一度きりだ。夫の一度だけの返事を待ち、私はその返事を受け入れるだけだ。

「君の壊れそうな繊細な精神に誓って言う。私がここで嘘をつけば、君の精神は粉々に壊れてしまう。それを理解した上で断固として言おう。私は父上の所業を一切知らなかった」

 夫の偽りのない目にベルタは安心した。

 親類の罪の煽りを食らって追放されようとも、彼は被害者なのだ。彼は義に背いたのではないのだ。

「私、王様のところへ行きます」

「ベルタ。あれだけの歴々の前で決まったことだ。覆ることはないんだよ。それが貴族の裁決というものだ」

「罪なき者を罰していいのでしょうか」

 声と共に込み上げてくるものがあり、ベルタは涙声で言った。

「父という近しい存在の動きさえ掴めず、その動きを制することもできなかった。これだけで、子として、国の士として十分に罪なんだよ」

 口辺だけ上げ、実に悲しげな笑顔でペルネ公は言った。

「もう、貴族社会では生きられないんだよ。怪我のこともある。おまけに、反逆者の子という烙印まで押されてしまった。双肩に背負うにはあまりに重い十字架だよ。だけど私のことはいい。ベルタが社交のたびに辛い思いになるのが目に見えている。私はそれだけは耐えられない」

 その言葉に、ベルタは全身を電流が走った。こんな有り様になっても、この男性は私のことを一番に気に掛けてくれていた。

 その誠実さに、ベルタはペルネ公に対して一種の不器用さや、けがれなき少年のような未熟さをも同時に感じた。

 そして、その誠実さの違う側面で、彼は自らの運命を静かに受け入れようとしているのだ。

 そう思うと、目の前の大男が、卒然そつぜんといとおしくなってきた。

「腰を深くお掛けなさい。愛するペルネ様。さあ、椅子に深く座って、背筋をきちんと伸ばしましょう」

 ペルネ公は目を見開いて妻を見た。

「貴方は何もやましいことはない。追放されても、歴とした貴族なのよ。落ちぶれたなんて、誰に言われようとも構わない。私は貴方を愛しています」
 
 
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