義弟になるか義兄になるか争ってるうちに、僕は××を失いました。

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「結城くん。今日はなんか、動きがぎこちないけど、大丈夫?」
「…………はい、大丈夫です」

自動車学校の担当教官の、何気ないようで核心をついてくるような質問に僕は、反射的に即答できなかった。

「腰かばっちゃってるような感じがしたからさぁ。何?高校卒業したし、彼女とハメ外しスギちゃった?いいなぁ、若いってさぁ」
「え、いや………はぁ」


彼女と………?


彼女なんて、程遠いわーっ!!


と、速攻かつ大声で叫びたい。


童貞どころじゃないんだよーっ!!
処女を喪失したんだよーっ!!
しかも、たかだかジャンケンでーっ!!


そう………。
たかだかジャンケンで、僕は色んなものを失った………気がする。

男としてのプライドも。
何を比べても、何をしても、友哉に勝てないと言う、僕という存在価値とか。
普通は失わないであろう、〝処女〟まで失ってしまうなんて。


あと……これは、かなり認めたくないんだけど。


なんだか、気持ちよかったような、気がするんだよ。


友哉との、エロい事が。


………何、やってんだよ……僕は。


なんでだろ………友哉と一緒にいると、振り回されている感じがして思うようにならないんだ。

「学科の卒検は合格ったんだっけ?」
「はい。あとは技能だけで」
「時間も十分だし次の卒検、今週末に受けようか。早く腰治して頑張ってね、結城くん」
「はい。ありがとうございます」


………よかった。


なんだかんだ友哉にバカにされながらも、大学に入るまでには免許を取れそうだ。
友哉の存在を除けば、親父が乗っていたフィアットを貰い受けて、部活漬けだった僕の彩のなかった学生生活をおさらばして、花の大学生活が送れるかもしれない。

………先に、処女は失ったけど。
か、彼女とか、できるかな………?

昨夜から今朝にかけて僕の身に降りかかった最悪な出来事を思いっきり忘れるくらい、僕の気分は軽くなる。
無意識にニヤけながら自動車学校の門を出ると、初心者マークが異様に違和感半端ないくらいペカペカに光り輝いている、シルバーのジープ・ラングラーが目の前に止まった。


………す、っげぇ……新車か?!


その車に乗ってるだけで女子がいろめきたちそうな、いかにもな車を横目に僕はそのすぐ側をとおりぬける。

「おい。シカトしてんじゃねぇよ、円佳」

ラングラーのパワーウィンドウが開いて、その中から今、僕が一番聴きたくない声が僕を呼び止めた。
その窓の奥。
今朝の形相とは打って変わって、ミントの葉っぱを100枚くらい食ったんじゃないかってくらい、爽やかに変身を遂げた友哉いた。

しかも………なんだよ、その爽やかな笑顔は。

「シカト、っちゅーか。なんでこんなとこにいんだよ、友哉」
「かわいい弟を迎えにきてやってんだよ」
「はぁ?!」
「どうだ、羨ましいか?」
「…………う、う、うらやましくなんかっ!!」
「まぁ、乗れよ。ドライブしようぜ。ついでに俺ん家だった新婚生活満載な実家に行かなきゃなんねぇんだ。付き合えよ。あんな愛の巣、一人じゃいけねぇし」

………結局は、そういうことだろ。

忘れた荷物を取りに行きたいけど、親父と友哉の母親の、ラブラブ具合を目の当たりにしたくないから、僕を遮蔽物もしくは弾除けにするんだろ、どうせ。

あと、その不敵な笑み。

僕が断ったら、あることないこと尾ひれはひれをつけて親父にチクるに違いない。
僕は、渋々新調したリフトバンドを付けた手でそのドアに手をかけた。

「しかし、すげぇな。ラングラー新車だったら、車体価格だけでも500万はするだろ?」
「まぁ、な」
「………何者なんだよ、おまえ。つーか、おまえん家なんなんだよ」
「え?知らないのかよ?」
「何がだよ」
「俺の母ちゃん、医療機器を取り扱う会社の社長」
「…………」


………親父。


おまえは何という人に惚れ込んで、結婚してんだよーっ!!


逆玉って、まさしくこういうことを言うんだろうな………。
ガキの頃は対等だと思っていた親友は、持ってるモノのアイデンティティから違うんだって、この時初めて知ったんだ。


………詰んでる。


と、いうより。


義弟だか義兄だかになって失ったものが多いって思っていたけど、元々、僕は友哉には敵わないんだって思い知った瞬間だった。

「ま、そう言うとこがおまえのいいとこなんだけどな」
「は?」
「色眼鏡で、人を見ない」
「え?」
「そんだけバカなんだけどな」
「!!」

あげといて、落とされる………みたいな?

おおよそ、僕を貶して遊んでる感満載な友哉と、よせばいいのにいちいち反応してしまう僕は、終始こういう会話をしながら、親父たちの愛の巣に到着してしまった。

「おー!円佳、元気か?」


元気か?じゃねぇよ、親父。


「友哉くんと仲良くやってるか?小学生の頃はお前たちは本当、兄弟みたいに仲良かったからなぁ。どうだ?その頃みたいにまた、わちゃわちゃやってるか?」


はぁ?!


高校で再会して以降、仲なんかいいわけないだろ!?
わちゃわちゃやってるって?


わちゃわちゃとおりこして、ハードプレイにワープしたんだよ!!


全部、親父が再婚して、新婚生活を満喫しているせいだろーっ!!


………なんて、言えるわけない。


親父の、いつも穏やかに笑っていた親父の顔は、僕が生まれた時から見てきた笑顔より、ずっと幸せそうで………。

その顔を、悲しみとか心配の感情で歪めたくなかった。

「うん、まぁ。いきなり兄弟ができて、さらに知ってるヤツだから、まだなれなくて………少し………いや、かなり戸惑ってるけど………」
「だよなー、お互い一人っ子同士だもんなぁ。なれなくて当然だよ。………まぁ、ここだけの話。友哉くんが円佳と同居したいって言ってくれたから、本当、友哉くんに悪くって」


………は?


どういうこと?


親父が発したあまりにも衝撃的な言葉に、僕がフリーズしていると、親父は年甲斐もなくニコニコした笑顔を赤らめて続ける。

「友哉くんに『円佳には言うな』って言われてるから黙っててね。そうそう、あんなクールな顔してて、小学生の頃おまえがあげた誕生日プレゼント、今だに大切に持ってるんだってさー」


………こ、混乱する。


意味が、分かんねぇ。


第一、僕のことが嫌いなんじゃないのか???


嫌いだから、悪口言ったり虐げたり、挙げ句の果てには僕を捌け口みたいに犯したりするんじゃないのか???


僕に見せる友哉の顔と僕以外に見せる友哉の顔が、ジキルとハイド並みに違いすぎて………。
う、なんか………。
考えれば考えるほど、気持ち悪くなってきたよ、マジで。

「円佳、準備できたよ。帰ろうか」

ミントを100枚くらい食べたかのような爽やかさを継続中の友哉が、両手に荷物を抱えてリビングに入ってきた。
見るからに、画材かなんかだ。

「えー?!もう帰っちゃうの?!一緒にご飯を食べてけばいいのにー!!もうすぐ由紀さんも帰ってくるからさぁ」
「いや、今日は俺が食事当番なんで、もう仕込みも済ませてきてるんです。せっかく誘ってもらって悪いんですけど、今日は遠慮します。な、円佳」

な、円佳ってさ。
おまえが食事当番なんて、今、初めて聞いたぞ???
なんだよ、それ。

友哉の至極丁寧な言葉に、親父は「そっかぁ、残念だなぁ。また、今度だね」と、これまたこの世の終わりがきたみたいな残念そうな顔をして言った。

なんか………友哉の爽やかな笑顔や、丁寧な言葉遣いが慣れなくて、本当に胃がムカムカして………気持ち悪い。








「で、今日は俺がメシ作ってやったんだから、お礼にご奉仕しろよ」

実際に友哉は、夕飯を作った。
信じられないけど、めちゃめちゃ美味しいパエリヤを作って………。
イケメンで金持ちで料理まで出来て、これで性格良けりゃいうことないんだけどなぁ、って思った途端のこの友哉の言葉




ある意味、本当、信じられない。


昨夜も今朝も、やっただろ!!


おまえは、サルかーっ!!


っとつい口から出そうになった瞬間、親父のデレた笑顔を思い出して、必死にその言葉を押し込んだ。

………親父は、さ………「友哉くんはいい子だよー」なんて言ってたけど………親父より僕の方が、友哉に接している時間は長いんだ。
断ったらただじゃすまないことくらい、分かってる。

「ご奉仕って?」

分かってはいるけど、つい、確認のため僕は分かりきった質問をする。

「分かってんだろ?ほら、来いよ。円佳」

ソファーに座って不敵な笑みを浮かべている友哉は、リストバンドに包まれた僕の手首を掴んで強く引っ張った。
友哉に背を向けるように座らせれた僕に、友哉の手がシャツの下に滑り込む。
片方の手は僕の胸を、もう片方の手は器用にベルトを外してズボンの中を、真綿のような柔らかな手つきで、僕の体を撫で回した。

「………っん」

その手つきとは対照的な淫らで濃厚な友哉のキスが、僕を襲う。

「なんだよ、たった2回の経験でこんななってんのかよ」

だ、だって………だって、めっちゃ感じるんだよ。


友哉のシゴく手つきが上手すぎて。
友哉のキスが頭をクラクラさせて。


………だめだぁ、おかしくなる。


今まで胸にあった手が僕の後ろに滑り落ちて………あ、や………中、指………動かさないで………。

「ん、あ………」
「………ヒクついてんじゃん。おまえ、淫乱かよ」

そんなん、わざとじゃない。
友哉が………いけないんじゃないか………。


僕を好きなようにして、汚して、犯して………女の子みたいに喘がせてるくせに………!!


「………やべぇ。挿入るぞ、円佳」
「や、やぁ!………や、っやぁあっ!!」

ソファーの上に組み敷かれて、僕の内側を乱暴に突き上げる。


………や、だ……それ以上は………やだぁ。


僕はおかしくなってるに違いない。

じゃなきゃ、ヤられすぎて全ての感覚がアホになってるのかもしれない。

親父が言っていたいい子の友哉が、本当なのか。
僕を抱き潰す悪魔の申し子のような友哉が、本当なのか。


………僕は、だんだん、僕を見失う。

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