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2.ようこそ。ここは可笑しなお菓子の博物館 

2.宿敵・トム現る!なんて、大袈裟なモンじゃないけれど

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 いつものようにボーッとしているとアルバイトのトムが話しかけてきた。トムは売れないバンドマン。都会で一発当てて大スターになるぞと意気込んで出ていったけど見事、崖っぷちのズンドコ。

 生ゴミを漁ってた所をセンセイに拾われたらしい。センセイのお姉さんのお孫さんの元カレの友達だったんだって。

 「なぁオイ、聞いたかよ王子さんよぉ~! 俺の事、スカポンタンだってよ。訳分かんねぇよ」

 おい。肩にヒジを乗せるな。

 僕の肩にちょっと亀裂が入ったの、それでセンセイに殴られかけてたのずっと忘れて無いからな。

 僕は正直、こいつが苦手だった。髪がボサボサでダルンダルンのパーカー、ジーンズの裾が床に付いて、清潔感が無い。

 まぁファッションに関してはよく分からないからとやかく言わないでおくけど、行動がとにかく気に入らない。

 こっそり僕の襟足を折ってポリポリと食べ始めたり、クシャミしてヨダレとかのついた手を背中で拭ってきたり。

 何より、さっきも話したチョコ猫の件だ。彼(彼女かもしれない)は僕の数少ない友人だった。

 話せないし一緒に遊んだり出来る訳ではない。けれど僕とチョコ猫はセットで一つの展示品だった。

 例え会話が交わされる事が無くても一緒に居てくれる誰かが居る、何かがある。それだけで僕は嬉しかった。

 でもそんな友人は……。

 「きっとまた、昔のジャパンのアニメのセリフかなんかだぜ? 七十何歳にもなって、なぁ~!」

 コイツに、ストーブで溶かされた。

 それ以来、何があってもコイツは許さないと誓った。もし、身体が動かせるようになったら絶対にデコピン……いいや、チョップしてやる。パンチでもいいかもしれない。

 「口下手なのに怒りっぽくてアニメが大好きなオタク、あんなんだから友達もいないしあの歳までずーっと一人ぼっちなんだよなぁ~!」

 結構、嫌な奴だけれどトムには沢山友達がいた。どれもヘンテコな友達だけど。一回、博物館に来た事があったんだ。

 ツンツンギザギザな髪の人、ツルピカの頭に紫色のサングラスをした人、歯が全部キンキラの人。

 でもセンセイはすぐにその人達を追い出した。博物館に似つかわしく無いヒンセイに欠ける奴らだと。その日は何故かトムも一緒に追い出されていた。

 センセイ曰く、あんなチャラついた連中が友達になるくらいならワシは一人の方がマシだわい、らしい。正直、どっちもどっちだなぁって思った。

 僕もどっちの友達にもなりたくはない。

 「あーやだやだ。あんな爺さんにはなりたくないね。なぁ、お前もそう思うだろう?」

 動かないし、返事もしない。でも笑ってるように作られている僕はお喋りしたい人には格好の的だった。センセイもトムもお客さんも必ず僕に軽い挨拶やどうでもいい天気の話や世間話や愚痴を溢していく。

 時々ヘキエキするような、耳を塞ぎたくなる話をしてくる人も居たけど、ボクには耳を塞ぐ事が出来ない。耳にはギッチリ、チョコが詰まってるんだけどね。そもそも耳があっても穴はないので綿棒でほじる事だって出来ない。

 もし顔が動かせたならボクはどんな顔をしただろう。きっと全力全開で嫌な顔をするんだろうな。

 嫌な顔と言えば。ボクを作ったセンセイもいっつもつまらなそうなツーンとしてる顔だ。

 だからいっつもヘラヘラしてるトムとは相性がとっても悪い。ボクは産んでくれたセンセイに感謝している。

 だから、センセイを悪く言うコイツが苦手だった。救って貰った恩をなんとも思ってないのかな。

 「おっと。はやくしねぇとまたあの爺さんに叱られちまうぜ。ありがとな王子さん、また話、聞いてくれ。たのしかったぜ」

 問題なのはボクがコイツにまぁまぁ気に入られてる様子な事。そして、ボクはコイツの話を聞いててもちっとも楽しくなかった事の二つだ。

 いつか動けるようになったらチョップやパンチじゃ生温い。センセイが大好きなヒーローのライダー何とかキックをぶちかましてやろう。

 そう誓った昼下がり。
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