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第二章 異世界での生活
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市井に向かった僕は、腹ごしらえをしようと食堂に入ろうとするも、この世界の文字が読めない事に気が付いた。
辛うじて店先に付けられたナイフとフォークが描かれた看板を見て食堂だと分かったが、店の外に食品サンプルが飾ってあるわけでも無かった為、どんな料理が出てくる店なのか全く分からず店に入るしか無かったんだ。
僕が店に入ると、
「はぁい!いらっ……しゃい、ま、せ……。」
と、僕が入店した事を示す、ドアに取り付けられたカランカランというベルの音に反応し振り向いた店員であろう女の人が、僕を見て固まっている。それにつられる様に、店内のお客まで固まってしまった。
え?僕、見られてる?
コミュ障の僕は視線を浴びている現状に俯いてしまう。尚も刺さる視線にいたたまれなくて逃げ出したくなるも、
「ごめんなさいね、お客さん。皆アンタの着ているものが珍しいんだけなんだよ。」
と言いながら、俯く僕の肩をポンポンと叩いた女の人がいた。
僕は顔を上げてその女の人を見ると、恰幅のいいおばさんがニコニコと笑っていた。
そうか。僕が今着ている服は高校の制服だったな。
「アンタ、異世界人かい?」
とおばさんは僕を空席に誘導しながら尋ねてきた。
「は、はい。ど、どうしてそれを……。」
「知ってるのかって?」
「……は、い。」
戸惑いながら答える僕にメニューらしき物を差し出すおばさんに、
「あの……僕……この世界の文字が読めない……。」
と小さな声で言うと、
「そうかい。それは悪かったね。じゃ食べたい物を言ってごらんね。大抵の物なら作ってやるよ。」
と優しく言ってくれた。僕は有難く思いながらも、
「お水とオレンジジュース、パンと……あと、肉料理って何がありますか?」
と聞くと、
「肉料理なら、子牛肉のローストがあるよ。」
「じゃそれでお願いします。」
「あいよ!」
と言っておばさんは店の奥に入っていった。
おばさんを見送った後、僕は自身の服装について考えた。
(どうせ暫く元の世界には帰れないんだろうから、この世界の人達と同じような服が欲しいよな。それから着替えとか日用品とかも買わないと。あ!寝るとこも……。どうしよう。)
考えないといけないことが多くて頭を抱えた時、さっきのおばさんが料理を持って来てくれた。
「どうしたんだい?どこか具合が悪いのかい?」
と心配してくれるおばさんに、さっき考えてた事を話してみた。するとおばさんは、
「泊まるとこなら、この家にしなさいな。あたしゃ早くに旦那を亡くして、1人でこの家に暮らしてんだ。空き部屋があるからそこにいりゃあいいさ。」
他にも服やら日用品を買える店の情報を教えて貰ったが、生憎紙もシャーペンも元の世界に置いてきてしまったようで、メモが出来ない。それに、文字で店名を書かれたら読むことも出来ない。どうしようかと思い悩んでいたら、
「ちょっと、ヨハネス。」
とおばさんが店の隅の方に向かって声をあげた。すると、
「なんだ?ハイネ。俺に用か?」
と1人の初老の男性が立ち上がり、おばさんを見やる。
「アンタ。この子に合いそうな服と下着を数日分、料理を食べ終わったらで良いから持ってきてくれないかい?」
と言っている。
どうやらヨハネスさんは、服屋さんの人の様だ。
「ハイネの頼みとあっちゃ断れないな。」
と言って、ヨハネスさんは僕の席に近づいてきた。
「坊や。ちょっと立ってくれないかな?」
と言われ、僕はおずおずと立ち上がった。するとヨハネスさんが僕を抱き締めた。
「!?」
声にならない声をあげた僕はその突然の行為に固まってしまう。
確かに僕はコミュ障だけど、男色じゃない!
ヨハネスさんの力はそんなに強くないんだろうけど、硬直してしまった僕の体は全く動かなかった。
そんな僕の様子を見たハイネさんは、
「ヨハネス!止めておやり!この子が吃驚してるじゃないか。」
とヨハネスさんを僕から引き離してくれた。だがヨハネスさんは、
「そんな事言ったって仕方ないだろう?俺は今、採寸用の紐を持ってないんだ。だからこうして俺の身体で採寸して……いてッ!何すんだ!痛てぇだろハイネ。」
再び僕の体を抱きしめようとしたヨハネスさんの頭を、ハイネさんは持っていたメニューで叩いた。ヨハネスさんは、叩かれた頭を擦りながら涙目で訴えている。
(コントみたいだ)と思った僕は、
「さ、採寸だったんですね。えと……ありがとうございます。」
と頑張ってお礼を言ったんだ。
「良いってことよ。じゃ、食べ終わったら持ってくるからな。」
そう言ってヨハネスさんはさっきの席に戻り、食事を再開した様だった。
「ほら!あんたもお食べ。温かい内にさ。」
とハイネさんに言われ、僕は異世界に来て初めての優しさに触れ、泣きそうになりながら料理を食べたんだ。
辛うじて店先に付けられたナイフとフォークが描かれた看板を見て食堂だと分かったが、店の外に食品サンプルが飾ってあるわけでも無かった為、どんな料理が出てくる店なのか全く分からず店に入るしか無かったんだ。
僕が店に入ると、
「はぁい!いらっ……しゃい、ま、せ……。」
と、僕が入店した事を示す、ドアに取り付けられたカランカランというベルの音に反応し振り向いた店員であろう女の人が、僕を見て固まっている。それにつられる様に、店内のお客まで固まってしまった。
え?僕、見られてる?
コミュ障の僕は視線を浴びている現状に俯いてしまう。尚も刺さる視線にいたたまれなくて逃げ出したくなるも、
「ごめんなさいね、お客さん。皆アンタの着ているものが珍しいんだけなんだよ。」
と言いながら、俯く僕の肩をポンポンと叩いた女の人がいた。
僕は顔を上げてその女の人を見ると、恰幅のいいおばさんがニコニコと笑っていた。
そうか。僕が今着ている服は高校の制服だったな。
「アンタ、異世界人かい?」
とおばさんは僕を空席に誘導しながら尋ねてきた。
「は、はい。ど、どうしてそれを……。」
「知ってるのかって?」
「……は、い。」
戸惑いながら答える僕にメニューらしき物を差し出すおばさんに、
「あの……僕……この世界の文字が読めない……。」
と小さな声で言うと、
「そうかい。それは悪かったね。じゃ食べたい物を言ってごらんね。大抵の物なら作ってやるよ。」
と優しく言ってくれた。僕は有難く思いながらも、
「お水とオレンジジュース、パンと……あと、肉料理って何がありますか?」
と聞くと、
「肉料理なら、子牛肉のローストがあるよ。」
「じゃそれでお願いします。」
「あいよ!」
と言っておばさんは店の奥に入っていった。
おばさんを見送った後、僕は自身の服装について考えた。
(どうせ暫く元の世界には帰れないんだろうから、この世界の人達と同じような服が欲しいよな。それから着替えとか日用品とかも買わないと。あ!寝るとこも……。どうしよう。)
考えないといけないことが多くて頭を抱えた時、さっきのおばさんが料理を持って来てくれた。
「どうしたんだい?どこか具合が悪いのかい?」
と心配してくれるおばさんに、さっき考えてた事を話してみた。するとおばさんは、
「泊まるとこなら、この家にしなさいな。あたしゃ早くに旦那を亡くして、1人でこの家に暮らしてんだ。空き部屋があるからそこにいりゃあいいさ。」
他にも服やら日用品を買える店の情報を教えて貰ったが、生憎紙もシャーペンも元の世界に置いてきてしまったようで、メモが出来ない。それに、文字で店名を書かれたら読むことも出来ない。どうしようかと思い悩んでいたら、
「ちょっと、ヨハネス。」
とおばさんが店の隅の方に向かって声をあげた。すると、
「なんだ?ハイネ。俺に用か?」
と1人の初老の男性が立ち上がり、おばさんを見やる。
「アンタ。この子に合いそうな服と下着を数日分、料理を食べ終わったらで良いから持ってきてくれないかい?」
と言っている。
どうやらヨハネスさんは、服屋さんの人の様だ。
「ハイネの頼みとあっちゃ断れないな。」
と言って、ヨハネスさんは僕の席に近づいてきた。
「坊や。ちょっと立ってくれないかな?」
と言われ、僕はおずおずと立ち上がった。するとヨハネスさんが僕を抱き締めた。
「!?」
声にならない声をあげた僕はその突然の行為に固まってしまう。
確かに僕はコミュ障だけど、男色じゃない!
ヨハネスさんの力はそんなに強くないんだろうけど、硬直してしまった僕の体は全く動かなかった。
そんな僕の様子を見たハイネさんは、
「ヨハネス!止めておやり!この子が吃驚してるじゃないか。」
とヨハネスさんを僕から引き離してくれた。だがヨハネスさんは、
「そんな事言ったって仕方ないだろう?俺は今、採寸用の紐を持ってないんだ。だからこうして俺の身体で採寸して……いてッ!何すんだ!痛てぇだろハイネ。」
再び僕の体を抱きしめようとしたヨハネスさんの頭を、ハイネさんは持っていたメニューで叩いた。ヨハネスさんは、叩かれた頭を擦りながら涙目で訴えている。
(コントみたいだ)と思った僕は、
「さ、採寸だったんですね。えと……ありがとうございます。」
と頑張ってお礼を言ったんだ。
「良いってことよ。じゃ、食べ終わったら持ってくるからな。」
そう言ってヨハネスさんはさっきの席に戻り、食事を再開した様だった。
「ほら!あんたもお食べ。温かい内にさ。」
とハイネさんに言われ、僕は異世界に来て初めての優しさに触れ、泣きそうになりながら料理を食べたんだ。
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