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第二章 異世界での生活

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ハイネさんの家で一晩を過ごした僕は、ヨハネスさんが持ってきてくれた服に着替え、顔を洗ってから、ハイネさんの作ってくれた朝食を食べた。
メニューとしてはパンとスープ、それからスクランブルエッグとハムだった。
そんな質素と言える様なご飯だったが、ハイネさんの料理は本当に美味しいと思う。
(そう言えば。母さんの料理の腕はイマイチだったからな。)
と思い出し、思わず苦笑いしてしまう。

それから僕は、昨晩の事も思い出していた。
それは、ハイネさんから、魔獣討伐が終わるまで此処にいてもいいと言ってくれた事だ。しかもタダで。
とても嬉しいんだけど、申し訳ないという気持ちもある。
(勇達の討伐がいつ終わるのか分からないのに、ずっとハイネさんの好意に甘える訳にもいかないよな。しかも無料とか言ってくれたし。何かでお返ししたいけど……コミュ障の僕が店の手伝いは無理だしな。う~ん……。)
とアレコレ考えた結果
「ハイネさん。僕、ちょっと街を見てみようと思うんです。」
「観光かい?」
「観光……では無いですけど……。ちょっと……。」
とゴニョゴニョと言い淀んでいると、
「良いよ。行っといでよ。ただし!ちゃんと帰って来るんだよ?」
と、ハイネさんは笑って言ってくれた。
「あ……ありがとうございます。」

その後僕は、1軒の雑貨屋をみつけ、ペンとインク壺、それから再生紙の様な紙を束ね穴を開けて紐で括っただけの簡素なノートを買った。それから、鞄と帽子を売ってる店(看板の絵を見て判断した)に入り肩から斜めがけをするバッグを一つ買ったんだ。
それに、さっきのノートとペンと、インク壺を倒れないようにそっと入れると、僕は一旦ハイネさんの店へと戻ることにした。

食堂は昼時とあってか、大勢ほお客さんで賑わっていた。だから僕は路地に入って店の裏口から厨房へ入ると、
「ハイネさん。ただいま。」
とハイネさんに声をかけると、
「あぁ、お帰り。」
と忙しくしているのに僕の方を向いて返事をしてくれたんだ。
僕はハイネさんに頭を下げ、2階の居住スペースへと上がった。

与えて貰っている部屋へ入り、観音開きの戸棚を開けると、僕はその仕切り版の上に、バッグの中からさっき買った物を取り出して置いた。
そして、ハイネさんから借りている本を広げたノートの横に置いて、ノートに50音表を書き、その隣にこの世界で使用されている文字を見ながら間違えないように正確に書き写したんだ。
なんせこの世界には消しゴムが無いみたいだから、間違えたからと言って消すことが出来ない。しかも、慣れない文字の形だから、悪戦苦闘せざるを得ない。
「出来た!」
僕はそのノートを持って、階下の食堂へ降りていった。そして店の入口から入ると、空いている席に座りノートを開いてメニューをじっと見た。
「のみものは……、みず・かじつすい……何だ?この"かじつすい”って。」
「果実水っていうのは、切った果物も水の中に入れておくのさ。するとその水に果物の風味が付くだろ?そういう水の事だよ。」
と、僕の疑問に対してそう教えてくれたのは、隣の席に座っていたおじさんだった。
「あ!ありがとうございます。そういう飲み物なんですね?」
「そうだよ、坊主。」
「そうか。て事は……此処に書いてあるのは料理名だな。えっと……ポークジンジャー……ジンジャーって事は生姜だから……あ!豚のしょうが焼き!」
「何だ?豚のしょうが焼きってのは。」
今度はおじさんが僕に聞いてきたから、豚のしょうが焼きとは何たる物か?を説明すると、
「あぁそうだったな。坊主は異世界人だったな。」
「はい。」
「そうか。だったら俺がそのポークジンジャー……じゃないな。"豚のしょうが焼き”ってやつをご馳走してやる。おーい!ウラル。」
「はぁい!呼んだ?シュナイツさん。」
「この坊主に、"豚のしょうが焼き”を。」
「え?豚のしょうが焼き?そんな料理、ないわよ!」
「あっと……。ご、ごめんなさい。えっと……。ポークジンジャーと、パンと林檎の果実水をください。」
「なぁんだ。ポークジンジャーの事だったのね?キミ。異世界人なんだっけ?」
「は、はい。のぞむと言います。」
「そういう名前なのね?分かったわ。私は、ウラルよ。此処で働いているの。」
「ウラルさん。あ…えと……よろしくお願いします。」
「よろしくね、のぞむ。じゃ、え~と……豚のしょう……。」
「ポークジンジャーを。」
「のぞむの世界の言葉で言ってみたいのよ。えっと……豚のしょう「豚のしょうが焼きです、ウラルさん。」豚の、しょうが、焼きね?分かったわ。ハイネさ~ん。"豚、のしょう、が焼き”とパンと林檎の果実水お願いします。」
と言いながら、ウラルさんは奥の厨房へと入って行ったが、「はぁ?そんな豚のナントカっていう料理は無い!」とハイネさんが大声を出しているのが聞こえて、僕はシュナイツさんと二人、声を出して笑ったんだ。
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