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第五章 変わったヲタ

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『ルードリッヒさん?ちょっと良いですか?』
勇達の行動を黙って見ている騎士団に疑問を持った僕は、ルードリッヒさんに聞いてみる事にした。
僕と彼との会話が、通信機を持っている人達全てに聞かれる事は、100も承知だ。
『どうした?のぞむ。』
『勇達があんな風に仲間を揶揄からかっている様子を、何故騎士団の人達は黙って見ているんでしょうか。』
『それはだな。』
僕の疑問に答えてくれたのは、ルードリッヒさんではなくカールソンさんだった。
『それは王命だからだ、のぞむ。』
『王命……ですか?え……と、それは……。』
騎士団の見守りあれが王命?自分達が召喚した人が怪我をするかもしれないのに、それを黙って見ていろと?そう王様が言ったって事か?
『今、炎に包まれたレオの近くでもたついているあの男。奴は、これまでの魔獣との戦いで、その役割を全く果たす事をしなかったと、王都騎士団の団長から聞いている。過去の戦いに於いてまともに戦ったのは、勇者・賢者・魔法使いの三人のみで、戦士のあの男と、聖女、それから僧侶は、何もしなかった為に、王から最後通告をされていると。』
『は……あ……。そ、う……ですか。だから王様は、騎士団に"見ていろ”と言ったんですね?』
『あぁ。……だが、あれは卑劣だな。勇者の風上にも置けない酷い仕打ちだ。』

カールソンさんの言葉に、通信機を着けている他の人達も首を縦に振っているし、僕もカールソンさんや皆さんと同意見だけど、寺田と愛子と中島先輩だって、勇達が戦っている時に何もしなかったのだから、自業自得になるのかもしれない。
だからこそ、騎士団の人達は、あの三人がちゃんと役割を果たす事が出来るのかを見ているって事になるんだろか。
でも……。やっぱりどう考えても酷いよな。

僕がぼんやりとそんな事を考えていると、
「そろそろ片をつけませんか?勇。」
「そうだよ~。中島先輩あのクソじゃ殺せないよ。それに早くしないと、僕達の方にあのライオン来ちゃいそうだからさ~。」
「そうだな。また俺達三人で殺るしかないって事だな。」
「そうですね。」
「うん!ライオンやっつけちゃお~。」
と勇達が動き出すようだったが、
「お~い!中島~!相田達が倒すって言ってるぞ?避けておいた方が良くないか?」
と、寺田が脳天に言い放った言葉に、
「だったら先生も手伝ってやれば?」
と勇が吐き捨てる様に言った事で、場の雰囲気が一気に変わったのを感じた。
「そうだよ、センセ。先生も頑張らないといけない組でしょ~?」
「ご自分はまた何もせず高みの見物ですか?寺田先生?」
と昴も賢も寺田に嫌味を言い放つ。

さっきのカールソンさんの話だと、寺田も王様から命令されてる側だ。なのにまた、何もしようとしないから、勇達はそう言ったんだろう。

案の定、寺田は彼等のその言葉に対して何も言い返せず俯いてしまった。
すると、
「まぁ、先生と同じ様に頑張らないといけない組は、ここにもう一人いるけどね~。」
と昴は愛子をニヤリと笑いながらジト目で見た。
するとそれにつられる様に、勇も賢もニヤニヤしながら愛子を見ている。
その様子は、元の世界で見ていた彼等の関係が変わっている事を示していたんだ。
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