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第五章 変わったヲタ

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「ふん!渡瀬のくせに。生意気なんだっつ~の!クソッ!!」
俺は、熊の魔獣に向かって歩きながら、俺を見下した目で見てきた渡瀬の事を思い出し苛立っていた。

少し前までは、デブで不細工だった渡瀬が、今は顔中にあった筈の面皰は無く、頬骨に付いていた肉のせいで埋没していた細い目が、身体だけで無く顔も痩せた事で、ヤツの意志の強さを表すかの様な、綺麗なアーモンドアイながらも二重瞼で切れ長の目になっていた。

また、服を着ていても分かる程の腕の筋肉の盛り上がり具合から、胸筋も凄い事になっていると、安易に想像出来た。
恐らくだが、腹もシックスパックだろう。

だが、何より俺が驚いたのは、彼奴の射撃の腕前だ。アレはマジで半端なかったと思う。
さっきのライオン退治の時。渡瀬彼奴が撃った弾丸は、ライオンの周りを逃げ回っていた中島や、その滑稽な様子を見て笑っていた俺達の間をすり抜け、少しの狂いも無くライオンの眉間を正確に射抜いた。しかも俺達の後ろから撃ったんだから、俺達に重なり見にくかったであろう中島の動きを予測して撃った事になる。
魔力0の渡瀬が魔獣と戦う為に得たのが、"射撃”の腕なのかもしれない。

しかし相手は魔獣だ。魔獣の中には、魔法による攻撃を仕掛けて来るやつもいる。俺達は全員魔力持ちだから問題はないが、渡瀬は魔力が無いから、いくら銃があっても、魔獣から魔法攻撃を受けたらひとたまりもないだろう。
そういった意味でも、俺の方が断然有利な筈だ。

「どうしたんですか?勇。いきますよ?」
とそんな事をグダグダ考えていた俺に、賢が話しかけてきた。
「あぁ……大丈夫だ。やるぞ!俺達の力を渡瀬彼奴に見せつけてやるぜ!!」
と右手の親指を立てながらそう返した。

すると、その様子を見計らったかのように、魔法で動きを止められていた熊が、突然動き始めたと同時に、
「ガァァァァ!」
と雄叫びをあげ二本の後ろ足で立ち上がった。その高さは4mくらいだろうか。さながらちょっとした巨人だった。
「で、デカい!」
と、後ろで寺田の戸惑いの声が聞こえた。
「先生!しっかり後方支援頼むぜ!賢、昴。いつもの行くぞ!」
「「了解!」」

俺と賢、そして昴がいつものポジションに着くと、先ず賢が
「風よ切り裂け!くらえ!【Wind sword風の刀】!」
と風魔法の刃を繰り出し熊の体に傷を付けると、
「水よ。凍てつく剣となれ!【Ice sword氷の剣】!」
昴が得意の氷魔法で作った無数の剣で熊を攻撃した。

「よし!これでとどめだ!【pillar of fire火柱】!!」
と、最後に俺が得意とする火柱を熊に打ち込んだその時!
賢と昴の攻撃にダメージをくらっていた筈の熊が、俺の炎を飲み込んだんだ。
「な、なんだと!?」
面食らった俺達3人が、その場に立ち止まっていると、
「相田!田代!中山!逃げろ!!早くっ!!」
と渡瀬の叫ぶ声が聞こえた。
「に、逃げろだと?」
と渡瀬に文句を言おうとしたが、
「中山!氷壁だ!早く!!」
と昴に指示を出している渡瀬の声に、訳が分からず氷壁を出そうと、昴が詠唱する。が、熊が大きく息を吸い込んだのを見た渡瀬の、
「ダメだ!間に合わない!!全員伏せろ!!」
という叫び声が響いた。
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