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第十章 領域封印(クリスタルドラゴン討伐)

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渡瀬の言葉に俺はドラゴンの方を振り向くと、ドラゴンヤツは今まさに液体窒素並みという温度のブレスを吐こうとしていたところだった。
「相田!逃げてる場合じゃない!打て!早く!!」
と渡瀬が叫ぶ!俺の呼び捨て(苗字だが)にしやがったが、そんな事を言ってられる状況じゃねぇ。
俺は兎に角、渡瀬がピンチになったら此処を触れと教えてくれた剣のグリップに埋め込まれた真っ赤な石を祈るような気持ちで掌で握り込むと
「喰らえーーーーーー!」
と言って、持ち上げた剣を渾身の力で振り下ろした。

するとどうだ!
俺の剣のブレイド部分がまるで燃えている様に赤く揺らめいたかと思うと、そのきっさきからもの凄い勢いの火がゴーツっと唸りを上げてドラゴン目掛け放たれたんだ。

俺の火は吐き出されたドラゴンのブレスを一瞬で消し去った。
勝った!と思った俺の考えを吹き飛ばす言葉が再度渡瀬から発せられた。
「もう一度だ!今度は剣を振り下ろさず ずっと構えてろ!田代!お前は相田を援護!風で炎をブーストするんだ!もたもたしないで早く!中山!相田の手をお前の氷で直ぐに冷やせる様にそばにいてやれ!」
俺の火の勢いに驚き、その場で座り込んでしまった賢と昴にも檄を飛ばす渡瀬に、2人は一瞬怯みながらも立ち上がり、渡瀬の指示に従って瞬時に動き出した。

渡瀬はあくまでも俺達にドラゴンアイツを殺らせたいんだ。
本当はこんな指示も出させずに俺たちだけで出来たら良かったんだろうが、準備不足の俺達じゃ、アイツは到底倒せないだろうと渡瀬はそう踏んで指示を出したんだと思う。
礼はあとでゆっくり言うとして、今は渡瀬の指示どおり動くしかねぇ。
「いくぞ!賢 昴!」
「「おう!」」
俺と賢はいつもだったら派手に攻撃名称を言うが、今回はショートカットでドラゴンに攻撃をした。
剣から放たれた火は賢の烈風に乗り、ドラゴンの身体を覆い尽くした。が、俺達はまだ攻撃の手を緩めなかった。
だが、渡瀬の言うとおり、剣のグリップ部分が半端なく熱くなってきた。それを予め分かっていたから、渡瀬は昴に俺の手を冷やす様に言ったんだろう。昴は渡瀬の指示通り俺の手を冷やしてくれる。
いつも飄々とした昴には似つかわしくないほど、汗をかきながら必死で氷を出しては俺の手を冷やそうとするが、直ぐに溶けてお湯になっちまうものだから、
「めんどくさいな、もう!」
と言って、俺の手自体を氷で覆ってしまう手法に変え、俺の手を冷やし続けた。
「昴、ありがとな」
と言えば
「感謝は渡瀬にしてよ~。てか、今はアイツに集中だよ!」
と言う昴の言うとおり、俺はドラゴンアイツが火達磨になっても尚、のたうち回り、周りの氷柱を破壊しまくってる様に目を向け、火を送りつつげた。

「勇…ヤバいです。なんか…俺……ち、力が…」
と言う賢の声に、
「勇。ちょっとだけコレで凌いでてね。」
と言って突然巨大な氷の塊で俺の手を固めてしまった昴。
「うぉっ!重っ!」
俺はあまりの氷の重さに耐えられず、思わず剣を下げそうになるが、意地でそれを阻止し続けてやった。
昴はそんな俺にニヤッと笑うと、
「賢。これ飲んで!」
と言って昴が持つウエストポーチから何かを取り出し、飲ませてやっていた。

それは渡瀬から渡されたポーションだった。

『MPが枯渇したらこれを飲んで。HPの枯渇はこっち。』
と言って、渡瀬は俺達3人にウエストポーチにポーションを入れて渡してくれたんだ。
さっきテント内で試しに飲んでみたが、どうせ薬っぽい味だろうと思ってた俺の考えの真逆を行くコーラ味のポーション(MP用)だったから驚いた。
「俺もコーラ飲みてぇ」
と小さくそう言うと、
「はい、勇!コーラ味ポーションだよ。ついでにこっちのHP用のも飲んどく?」
と言って昴が自分のウエストポーチから別の味某エナジードリンク味がするHP用のポーションを取り出し飲ませてくれた。
するとどうだ!俺の中にパワーがどんどんみなぎってくのが分かった。まさにエナジードリンクだ!
それは賢も同じだった様で、
「俺はパワーアップ出来そうです!勇!ドラゴンを炭にしてしまいましょう!」
と張り切っていた。
俺と賢はドラゴンを焼きつくそうと更に力を込めようとすると、
「あー!ダメだよ~。ドラゴン丸焦げにしたら~。クリスタルドロップ出来なくなっちゃうだろ?」
と昴が慌てて俺達を止めたんだ。

そうだ。渡瀬が言っていた。
『ドラゴンを戦闘不能にしたら、素早く急所にとどめを刺して、ドラゴンの息の根を止めて下さい。くれぐれもドラゴンを炭にはしないで。炭にしてしまうと、クリスタルがドロップ出来ないばかりではなく、ドラゴンの部位も売れなくなってしまいますから。』


「賢!昴!援護を頼む!俺はアイツの急所にとどめを刺す!」
「「了解!」」

俺は2人の声を背にドラゴンに向かって走り出した。
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