この世界には『私』が眠っている。〜記憶喪失で魔術の使えない男は、一言も喋らない少女と共に『魔力』を取り戻す旅に出る〜

夜葉@佳作受賞

文字の大きさ
5 / 169
第一章 忘却の通り魔編

05.持つ者と持たざる者

しおりを挟む
「それで……、私は何をしたらいいんだ」

 三人は空腹を満たした後、再び商店街の中を歩いていた。

「わたしの職業は賞金稼ぎ、またの名をバウンティハンターと呼ばれてるんだ。何してる人か分かるかな??」

「何って、賞金首を取っ捕まえて金を貰ってるのだろう」

「そうそうっ。それを手伝って☆」

「いやいやいや……急に何を言うかと思えば。私なんかより、そこらの冒険者でも雇った方がいいんじゃないのか」

「どーして?」

「先ほども言ったが、私には記憶が無い。故に戦い方も知らん。自分で言うのも何だが、こんな奴より猫の手でも借りた方がマシだろう」

「んー……」

 アイヴィは少し考え込む。そのままゆっくりと立ち止まった。

 不思議に思ったシキは、彼女に声をかけようとした。しかしシキが彼女に触れる直前、アイヴィはぽつりと呟く。

「ほんとに……」

「……?」

「そう……、かなっ!!」

「っ!?」

 不意に振り返ったアイヴィが拳を握り腕を振りかぶった。

 シキは咄嗟に身を反らし、アイヴィの一撃をかわす。

 だがアイヴィはそんなもの織り込み済みと言わんばかりに、腕を振り下ろした勢いを活かしながら身をねじり、逆の足で蹴りを放つ。

 なんだなんだと街中での突発的な戦闘へ注目が集まる。ざわざわと騒ぎを聞きつけた野次馬に見守られながら、シキはアイヴィの攻撃を必死で避けていた。

「はっ!!」

 威勢のいい掛け声と共に、アイヴィは二本の指を立てシキの瞳へ目掛けて突き出した。

「なっ……!?」

 咄嗟に腕を振り上げ、アイヴィの細い腕を掴む。
 アイヴィの指は、シキの瞳に触れる直前で止まっていた。

「お、お前……っ!」

「……ねっ?」

 アイヴィは腕を掴まれたまま、含みを持った笑みで答える。
 その目の奥に、殺意のような闘争心が渦巻いてるのをシキは感じた。

「……私を試したのか?」

 集まった人々へ手を振り、ゲリラ的な演武でも行ったかのように誤魔化すアイヴィ。
 野次馬が行き交う街の住民へと戻るのを見届けると、シキは彼女に疑念の目を向けた。

「うん。だってシキくん強そうだったもん。んふっ、わたしの感当たってたでしょ?」

「……チッ」

 思わず舌打ちをしてしまう。

 言うならば自分でも気づかなかった記憶の断片を、無理やり頭の中に手を突っ込み引っ張り出されたようなものだ。

 事態は喜ばしいが、素直になれず難しい顔をするシキがそこにいた。

「ごめんってばー、いきなり襲い掛かったのは謝るよ。だからそんなに怒らないで?」

「はぁ……。分かった分かった、いいからさっさと済ませるぞ。それで、私は何をしたらいいんだ?」

「まぁまぁそんなに焦らない~。その前に、あそこに行きましょ♪」

 アイヴィは商店街の一角にある店を指差す。
 そこには、やたら錆臭い建物に鉄を加工した看板が掲げられていた。

「トバル・ブラックスミス……鍛冶屋か?」

「うんっ。シキくんはエーテルの術ってより、わたしのように肉弾戦向きかなと思って」

「まぁ、先ほどの一幕からすればそうなるか」

 ぽつりと、言い当てられた自分の特徴を一つ受け入れる。
 エーテルが流れてない事は心の底に伏せながら。

「だがアイヴィ、悪いが今の私に武器を持つ資格はない」

「ん、どうして?」

 アイヴィは不思議そうにシキの顔を見つめる。

 シキは居心地が悪そうな様子でぼそりと答えた。

「……金が無い」

「あっ……」

 三人の歩く足が止まる。

 キーン、キーン、と鍛冶屋の鉄を叩く音がやたら鮮明に聞こえた。

「やーい貧乏人」

「なっ……! もう帰っていいか!? 帰るぞじゃあな!!」

「なーんてうそうそ、分かってるってば。これはケガさせちゃったお詫び。だから気にせず受け取ってくれたまえ~」

 先ほどの沈黙が嘘のように、アイヴィは明るい調子で一人歩き出す。

「はぁ……。何なんだあいつは」

 気分屋な彼女に終始振り回されっぱなしで、憂鬱な気持ちもいつの間にか薄れていた。

「…………」

 立ち止まっていると、数歩先からネオンが振り返りこちらを見つめてきた。

「分かった分かった、行けばいいのだろう」

 やれやれといった様子で、残った二人も鍛冶屋の中へと入っていった。


 ────────────────────


「おっちゃんたのもー!!」

「うおおっ!? って、誰かと思ったらアイヴィちゃんじゃないの」

 見知った様子で店主と会話をするアイヴィ。

「なんだ、やけに調子のいい事を言うと思えば、知り合いの店か」

「そんな感じー。おっちゃん、8000ゼノくらいでこの人にいい武器見繕ってあげてー!」

「あいよー」

 ゼノとはこの世界の通貨である。『ミコノスの宿』が一泊5000ゼノで泊れると言えば、どれだけの物を選んでもらっているか分かるだろう。

 ちなみに、現在シキの所持金はミコから貰った2000ゼノ(3000ゼノ貰ったが食事代500ゼノ×2支払い済み)である。

「8000ゼノありゃ並の奴ならどれでも選べるが……、好みの武器はあるかい?」

「いや……特には」

「そいつは困った。うーん、そうだなぁ。兄ちゃんエーテルは何色だい?」

「それは……」

 エーテルの色。

 シキにそんなものはない。

 ふと宿屋で医者にエーテルが無いと言われた時の事を思い出す。
 どこへ行ってもエーテルエーテルだ。この世界にとってエーテルはそれほど一般的なものなのか。

 しゅんとしたシキを見た店主は、おもむろにシキの肩に手を当て語り始めた。

「兄ちゃん……分かるぜ。俺もエーテルの術はからっきしだった。だからこうして力仕事で食ってける鍛冶屋やってるってもんだ」

「そうか…………ん?」

 よく分からないが、何かを悟ってくれたらしい。

「ちょっと待ってな。俺らみたいなのでも使える奴、探してくるからよ!」

 そういうと店主は武具の山へと入っていった。
 エーテルのないシキだが、そんな彼にも扱える武器を用意してくれるようだ。

「使いたい武器とかないのー?」

 店主を送り出したシキに、隣で待っていたアイヴィは話しかける。

「戦った覚えもないんだ。どの武器だって素人同然さ」

「そんなもんかねー」

「そんなもんだ」

 他愛もない話で適当に時間を潰ていると、ガシャガシャと鉄の塊を持って店主が戻ってきた。

「待たせたな! 槍に斧に鎌に爪、こん棒やハンマーもあるぞ! どれから試したい?」

 ここは本当に鍛冶屋か? 明らかにおかしな物まで混ざっていたが、色々試せるのは逆にありがたい。

 シキはお言葉に甘えて全て試してみる事にした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...