この世界には『私』が眠っている。〜記憶喪失で魔術の使えない男は、一言も喋らない少女と共に『魔力』を取り戻す旅に出る〜

夜葉@佳作受賞

文字の大きさ
42 / 169
第二章 鏡映しの兄弟編

02.要塞店舗と名店主

しおりを挟む
 シキとネオンはエリーゼと名乗ったエーテル使いの黒髪少女と共に、彼女が勤める魔術雑貨屋へ向かっていた。

 しかしシキは、彼女に案内された雑貨屋を前にして言葉を失っていた。

「…………本当に、ここなのか?」

「ええ、本当にここですよ。どうかしましたか?」

 どうしたもこうしたもない。
 事前にエリーゼから説明された魔術雑貨屋とは、森を出て丘を少し登った先にポツンとある、崖下の一軒家との事だった。

 だが実際に連られて崖下に来てみると、そこには巨大な岩の塊しかなかったのだ。

 シキはエリーゼを怪しむ。ネオンより少し年上ほどの見た目の幼さや雰囲気から美人局の線は薄いと思うが、盗賊や悪質な冒険者の一員である可能性が捨て切れなかったからだ。

 死角から襲って来るかもしれないと考え、シキはいつでも反撃出来るように戦闘態勢を取った。その時だった。

「エリーゼ、やっと帰って来たのかい?」

 どこからか、年老いた女性の乾いた声が響いた。

「おばあちゃん! 遅くなりました。ただいま戻りました」

 出所も分からぬその声にエリーゼは元気良く返答した。すると、なんと巨大な岩の一部が音を立てて地面へと沈み込んだのだ。

「なんだと……!?」

 シキは再び驚く。消えた岩の先には年季の入った立派な一軒家が、岩板へ囲われるように存在しているではないか。

 雑貨屋の扉が開くと同時に、クローズと書かれた吊り看板がガタガタと音を立てる。

 薄暗い店の奥からは、ほんのりとエリーゼに雰囲気の似た老婆が現れた。

「あんたどこで道草食ってたんだい! 全く、あんたまでいなくなったのかと…………ん、そちらさんは?」

 いの一番にエリーゼを怒鳴りつけた老婆だったが、彼女に並ぶ男と少女に気付き続きの言葉を胸の内に留めた。

「旅人のシキさんとネオンさんです。私が行き倒れていたところを助けて頂きました」

「ただの空腹だがな」

 紹介に預かったシキは軽く会釈をする。ネオンはというと食べ物を奪われた恨みをまだ忘れてないのか、老婆の顔をじっと見つめていた。

 すると一転、老婆の様子が打って変わった。

「おや、こりゃどうも~。この子の祖母のエランダです~。全くうちの孫が世話になりました~。ほら、あんたもちゃんとお礼しな!」

「もう何度もしておりますよ……っていたた、ご迷惑をおかけしました……」

 余所行きの声を出すエランダに腕を引っ張られながら、エリーゼは半ば無理やりに頭を下げた。

「それはいいが、何故またこんな岩の中に? 建築士もさぞかし苦労しただろうに」

「いやいやこの岩はアタシの術だよ。ちょっと訳ありでねぇ。話は長くなるし改めてキチンとお礼もしたいし、ひとまず中へ入っておくれ」

 そう言うとエランダとエリーゼは建物の奥へと入っていく。

 シキとネオンも続けて入ろうとしたが、扉を潜った段階でピタリと動きが止まった。

 シキはネオンの両手を掴み、頑なに動こうとしないのだ。

「……シキさん? どうかされました?」

 シキの様子を不思議に思ったエリーゼは、小首を傾げながら問いかける。

 魔術雑貨屋の中にある様々な魔道具を見て、シキはあるトラウマを掘り返されていた。

「ああ……。えー……っと、その…………悪いが、裏口から入っても良いか?」

 ネオンの手には、触れた魔道具を破壊してしまう暴君が潜んでいるのである。

 よって、この魔術と名の打たれた雑貨屋は、全てが彼女の破壊対象なのであった……。

「助けてもらっておいて何ですが、変わった客人ですね……」

 エリーゼは眉をひそめながら、建物裏にある崖の影を指差した。
 シキ達は店を囲む岩と崖の隙間に出来た裏口から、恐る恐る一歩を踏み入れるのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...