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第二章 鏡映しの兄弟編
03.岩石の中に美食あり
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裏口から雑貨屋に入った二人は建物の二階へ上り、エランダ達の住居にもなっている奥の部屋へと案内されていた。
テーブルで待つようにお願いされ、シキとネオンは椅子へ腰をかける。
「触れたエーテルを吸収する力ですか……。噂に聞いた事はありましたが、本当にそのような力を持つ方が存在していたのですねぇ」
「らしいな。この世界には僅かに存在していると聞いた。こいつとどんな関係があるのか分からないが、一度会って話でもしてみたいものだ」
二人から離れ台所で何かを探していたエリーゼは、適当な相槌を打ちながら会話を続ける。
「会って何を話すのです? 物を破壊した時の快感でも教えてもらうのですか……っと、あったあった」
エリーゼは四角い金属に長い取っ手が取り付けられた道具を手にすると、額の汗を拭いながら達成感へと満ち溢れた表情をしていた。
「なんだそれは……? 小型のハンマーか何かか?」
エリーゼの持った道具の平たい金属部分を見ながら、シキは適当に予想を立てた。
「違いますよう。これは調理用の魔道具です。しかもあの伝説の魔法使いクリプトが作ったとされる『クリプトの七つ道具』が一つ、何でもホットサンドメーカーです!」
ドヤ顔で語るエリーゼだったが、それに対してシキは疑問符を浮かべ彼女のいう事をあまり理解していない。伝説の魔法使いと言われても、シキにはその記憶は存在しないのだ。
そんな彼とは対照的に、ネオンはホットサンドという食欲をそそるワードにぴくりと反応していた。
「シキさんネオンさん、先ほどは餓死寸前の私を救って下さりありがとうございました。ここで一つお礼を致しましょう」
そういうとエリーゼはるんるんと鼻歌を歌いながら、何でもホットサンドメーカーを開き中に適当な食材を盛り付けた。
「行きますよー。それっ」
エリーゼは再び何でもホットサンドメーカーを閉じると、術をかけるような掛け声と共にエーテルを魔道具に込める。
シキとネオンが食い入るように見ていると、道具から不思議と優しさの感じる光が溢れ出す。そして。
「完成です!」
パカッと開いたホットサンドメーカーには、食欲のそそる濃厚な香りと共に、熱々のホットサンドが出来上がっていた。
しかしその調理工程を見ていたシキは、あまりの驚きに大きな声を漏らす。
「ばっ、馬鹿な!? エーテルを込めただけで何故ここまで丁寧な調理が……? いやそこではない!! パンだ! パンなど一枚も使用していなかったではないか!?」
突如として現れた美味しそうなホットサンドに、シキは蜃気楼でも見たように驚き、ネオンは曇り無き眼で見とれていた。
「ふふ。百点満点の反応ありがとうございますっ。それがこの『クリプトの七つ道具』がうちの一つ、何でもホットサンドメーカーの持つ効果なのですよ」
エリーゼはふふんと鼻で軽く笑いながら、得意気に魔道具の性能を語った。
「食材を入れてエーテルを込めると、込められたエーテルから調理方法を読み取って調理し、さらにもっとも適したパンを用意してくれる素晴らしい道具なのです」
またしてもドヤ顔で説明するエリーゼを見て、シキはなぜ彼女が空腹で倒れていたのか察しがついた。
「つまり、この素晴らしき道具を忘れたせいで、お前は食料を用意出来ず倒れていたのだな」
「なっ!? そ、そうですよ。おばあちゃんに貸したままだったのをすっかり忘れておりました。食材をそのまま食べて食いつないでおりましたが、やはりその程度では満たされる事なく……」
「それで人様に迷惑をかけたってかい? 人のせいにするんじゃないよ! 全くこの子は……」
話を聞いていたエランダが、一階の商売スペースから二階の居住スペースへと上がって来た。
エリーゼがホットサンドを四等分に切り分けるのを待ちながら、シキはこの岩の要塞と化した外観についてエランダへと質問を投げ掛ける。
「それで、どうしてまたこんな物騒な外観にしている? 別に洞窟暮らしが趣味な訳でも無いだろう」
エランダは少し溜め息をつくと、頭を抱えながらこれまでの経緯を説明する。
「ちょっと前までは普通に営業していたんだけどねぇ。急に盗賊達が近くへ居付くようになったんだよ。そのせいで北からは客が来なくなってしまってねぇ」
「ならば別の場所から客を誘導すれば良いのではないか?」
「それが今度は、富豪だか成金だかが東の橋へ勝手に関所を作ったんだよ。馬鹿みたいな通行料を取るせいでほとんど客が寄り付かなくなったのさ」
「なので今は、お二方の来た南方面へ出張販売をする形で経営をしていたのです」
そう言いながら用意の終えたエリーゼはホットサンドメーカーとお皿を用意し、四等分にされた濃厚な匂いを放つホットサンドを三人の座っていたテーブルへと並べる。
熱々のホットサンドと格闘するネオンを尻目に、彼女を除いた三人は会話を進める。
「ま、そんなこんなで行き倒れていたこの子を見つけたのがあんた達で良かったって話さ。あんた達旅をしているんだろ? 迷惑をかけた詫びだ。何か一つうちから持って行きな」
「ん、いいのか?」
「ああ、その方が後腐れもないさ。もっともここから先へは、自力で行ってもらう事になるがね」
エランダはホットサンドをかじりながら、片手を振り半ば諦めるように二人の旅路を祈っていた。
シキはそう言われ、これからの旅路について考える。
やって来た南へ戻るのは無いとして、盗賊を乗り越え北に行くか、それとも高い関税を払って東へ行くか。力になるか金になる物をと考えていると、ふと目の前にある貴重な魔道具が目に入った。
じっとそれを見つめるシキを見て、エリーゼの食べる手が止まった。
「うむ。ならばその『クリプトの七つ道具』とやらを貰うとしよう」
クリプトが何者かは知らないが、このホットサンドメーカーは高価な物に違いなさそうだ。
これで関所を乗り越えるかと頷くシキだが、それとは対照的にネオンは今後も無限にホットサンド食べられると知り、尊敬を含んだ眼差しでシキを見つめていた。
無論、ネオンの表情は一つも変わっていないのでシキには何一つ伝わっていないが。
しかしシキの言葉を聞いたエリーゼは、急に立ち上がり机を叩きつけながら大きな声を発した。
「これは私の私物です!! ダメに決まっているでしょうッ!!」
「なっ。そ、そうか。すまない……」
あまりの圧に思わずシキはすぐさま謝ってしまっていた。
エリーゼと出会って初めて、シキは彼女の本気の怒りを目の当たりにしたのであった。
テーブルで待つようにお願いされ、シキとネオンは椅子へ腰をかける。
「触れたエーテルを吸収する力ですか……。噂に聞いた事はありましたが、本当にそのような力を持つ方が存在していたのですねぇ」
「らしいな。この世界には僅かに存在していると聞いた。こいつとどんな関係があるのか分からないが、一度会って話でもしてみたいものだ」
二人から離れ台所で何かを探していたエリーゼは、適当な相槌を打ちながら会話を続ける。
「会って何を話すのです? 物を破壊した時の快感でも教えてもらうのですか……っと、あったあった」
エリーゼは四角い金属に長い取っ手が取り付けられた道具を手にすると、額の汗を拭いながら達成感へと満ち溢れた表情をしていた。
「なんだそれは……? 小型のハンマーか何かか?」
エリーゼの持った道具の平たい金属部分を見ながら、シキは適当に予想を立てた。
「違いますよう。これは調理用の魔道具です。しかもあの伝説の魔法使いクリプトが作ったとされる『クリプトの七つ道具』が一つ、何でもホットサンドメーカーです!」
ドヤ顔で語るエリーゼだったが、それに対してシキは疑問符を浮かべ彼女のいう事をあまり理解していない。伝説の魔法使いと言われても、シキにはその記憶は存在しないのだ。
そんな彼とは対照的に、ネオンはホットサンドという食欲をそそるワードにぴくりと反応していた。
「シキさんネオンさん、先ほどは餓死寸前の私を救って下さりありがとうございました。ここで一つお礼を致しましょう」
そういうとエリーゼはるんるんと鼻歌を歌いながら、何でもホットサンドメーカーを開き中に適当な食材を盛り付けた。
「行きますよー。それっ」
エリーゼは再び何でもホットサンドメーカーを閉じると、術をかけるような掛け声と共にエーテルを魔道具に込める。
シキとネオンが食い入るように見ていると、道具から不思議と優しさの感じる光が溢れ出す。そして。
「完成です!」
パカッと開いたホットサンドメーカーには、食欲のそそる濃厚な香りと共に、熱々のホットサンドが出来上がっていた。
しかしその調理工程を見ていたシキは、あまりの驚きに大きな声を漏らす。
「ばっ、馬鹿な!? エーテルを込めただけで何故ここまで丁寧な調理が……? いやそこではない!! パンだ! パンなど一枚も使用していなかったではないか!?」
突如として現れた美味しそうなホットサンドに、シキは蜃気楼でも見たように驚き、ネオンは曇り無き眼で見とれていた。
「ふふ。百点満点の反応ありがとうございますっ。それがこの『クリプトの七つ道具』がうちの一つ、何でもホットサンドメーカーの持つ効果なのですよ」
エリーゼはふふんと鼻で軽く笑いながら、得意気に魔道具の性能を語った。
「食材を入れてエーテルを込めると、込められたエーテルから調理方法を読み取って調理し、さらにもっとも適したパンを用意してくれる素晴らしい道具なのです」
またしてもドヤ顔で説明するエリーゼを見て、シキはなぜ彼女が空腹で倒れていたのか察しがついた。
「つまり、この素晴らしき道具を忘れたせいで、お前は食料を用意出来ず倒れていたのだな」
「なっ!? そ、そうですよ。おばあちゃんに貸したままだったのをすっかり忘れておりました。食材をそのまま食べて食いつないでおりましたが、やはりその程度では満たされる事なく……」
「それで人様に迷惑をかけたってかい? 人のせいにするんじゃないよ! 全くこの子は……」
話を聞いていたエランダが、一階の商売スペースから二階の居住スペースへと上がって来た。
エリーゼがホットサンドを四等分に切り分けるのを待ちながら、シキはこの岩の要塞と化した外観についてエランダへと質問を投げ掛ける。
「それで、どうしてまたこんな物騒な外観にしている? 別に洞窟暮らしが趣味な訳でも無いだろう」
エランダは少し溜め息をつくと、頭を抱えながらこれまでの経緯を説明する。
「ちょっと前までは普通に営業していたんだけどねぇ。急に盗賊達が近くへ居付くようになったんだよ。そのせいで北からは客が来なくなってしまってねぇ」
「ならば別の場所から客を誘導すれば良いのではないか?」
「それが今度は、富豪だか成金だかが東の橋へ勝手に関所を作ったんだよ。馬鹿みたいな通行料を取るせいでほとんど客が寄り付かなくなったのさ」
「なので今は、お二方の来た南方面へ出張販売をする形で経営をしていたのです」
そう言いながら用意の終えたエリーゼはホットサンドメーカーとお皿を用意し、四等分にされた濃厚な匂いを放つホットサンドを三人の座っていたテーブルへと並べる。
熱々のホットサンドと格闘するネオンを尻目に、彼女を除いた三人は会話を進める。
「ま、そんなこんなで行き倒れていたこの子を見つけたのがあんた達で良かったって話さ。あんた達旅をしているんだろ? 迷惑をかけた詫びだ。何か一つうちから持って行きな」
「ん、いいのか?」
「ああ、その方が後腐れもないさ。もっともここから先へは、自力で行ってもらう事になるがね」
エランダはホットサンドをかじりながら、片手を振り半ば諦めるように二人の旅路を祈っていた。
シキはそう言われ、これからの旅路について考える。
やって来た南へ戻るのは無いとして、盗賊を乗り越え北に行くか、それとも高い関税を払って東へ行くか。力になるか金になる物をと考えていると、ふと目の前にある貴重な魔道具が目に入った。
じっとそれを見つめるシキを見て、エリーゼの食べる手が止まった。
「うむ。ならばその『クリプトの七つ道具』とやらを貰うとしよう」
クリプトが何者かは知らないが、このホットサンドメーカーは高価な物に違いなさそうだ。
これで関所を乗り越えるかと頷くシキだが、それとは対照的にネオンは今後も無限にホットサンド食べられると知り、尊敬を含んだ眼差しでシキを見つめていた。
無論、ネオンの表情は一つも変わっていないのでシキには何一つ伝わっていないが。
しかしシキの言葉を聞いたエリーゼは、急に立ち上がり机を叩きつけながら大きな声を発した。
「これは私の私物です!! ダメに決まっているでしょうッ!!」
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