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第二章 鏡映しの兄弟編
09.頼みと交渉術
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何がどうしてこうなったのだろう。
シキとネオンは盗賊団がアジトに構える洞穴で、無数の盗賊に囲まれて正座していた。
東の関所近くで戦った屈強な男と他三人に加え、他にも武器を持った男が二人、さらには頭に茶色い猫を乗せた癖っ毛の少女が一人。そして荒々しさと気高さを感じさせる、本当の盗賊団頭首らしき女性が佇んでいた。
合計八人と一匹に四方八方を囲まれたシキは、ハチの巣を突いてしまったような後悔の念に包まれていた。
「それで、話とはなんだい? 言ってみな」
頭首の女性は近くにあった木箱へ艶めかしく腰かけると、冷や汗をかいているシキへと語り掛けた。
「……お前達はここから南にある、魔術雑貨屋を襲おうとしていた。それは間違いないな?」
「どうしてそう思う?」
「私を追いかけて来た事もそうだが、なにより私と店員の会話を盗み聞きしていた。つまり、あの雑貨屋を調べていた。それが他でもない証拠だ」
はぁ、とため息をつくと、頭首は屈強な男を睨み、ぽつりと呟く。
「…………ストウム」
「ひっ、すいやせんアネさん……。ついうっかり……口が滑りやした……」
全く……と部下の失態に呆れ返ると、アネさんと呼ばれた女性は改めてシキの顔をまじまじと見つめた。
「ああその通りだ、赤髪の旦那。それで、それがどうした?」
アネさんと呼ばれた女性は、シキとネオンの姿をじっくりと観察しながら会話を続ける。そんな盗賊団の頭首に対し、シキは臆する事無く言葉を返した。
「お前達が求めていたものは、これだろう!」
シキは懐から首飾りを取り出すと、盗賊団へ見せつけるように目の前へ掲げ上げる。
「『蜃気楼の首飾り』……術を共有する魔道具だ。私は魔術雑貨屋の店主へ確認は取った。お前達の求めるものはこれに違いないと。使い方は盗み聞きしていたそこのストウムやらにでも聞けば分かるはずだ」
空気が、ピリピリとした緊張に包まれる。
シキとネオンを囲んでいた盗賊団達は、各々の武器を手に持ち戦闘態勢へと入ろうとしていた。
「待て、まだ話し合いは終わっていない……!」
「……お前達、控えろ」
頭首の一声で、それぞれが向けた切っ先はシキから逸れていく。
「それで、赤髪の旦那。一応聞くが、状況は分かっているだろうな。話し合いなど、アタイ達が応じる必要は別に無いんだぞ?」
「私は赤髪の旦那ではない。シキだ。そんな事は分かっているさ。だからこれは交渉ではなく、頼みだ」
「頼みだぁ? ふん。シキ、言ってみろ」
「この首飾りを手土産に、私達をこの団に入れて欲しい!!」
は?
張り詰めた空気は一転。シキの一言で間の抜けた声が全員から漏れ出した。
その中で一人、驚くでもなく困惑するでもないただ一人の笑い声が響き渡る。
「……ふふ、ふっふっふ、あっはっはっは!! こりゃ面白い!! 入団希望なら先に言ってくれよ。だがなシキ、盗賊団ってのは仲良しこよしのお友達の集まりとは違うんだ。アンタ達がこの盗賊団『ノース・ウィンド』に入りたい理由とやらを教えてくれなきゃ、そうそう簡単に入団は認められないぞ」
「それは、だな……」
シキは盗賊団相手にとても長い、それは長い思い出話を語り明かした。
――――――――――――――――――――
何がどうしてこうなったのだろう。
いや、何をどうかしてしまったからこうなったのだ。
「うぅ……シキ……おめぇって奴はすげえよ……!! 戦争で村ごと焼かれて、生き残ったその子と二人必死に……うぅ、今日まで生きてたんだな……!!」
屈強な男ことストウムは、大粒の涙と鼻水を垂らしながら太い腕を目元へと押さえつけていた。
「ネオンちゃん……言葉が喋られなくなるほどショックだったんスね……! ウチが、このミルカがお姉ちゃんになってあげるっス! だからもう寂しくなんか無いんスよ……!!」
「フニャー!」
頭に茶色い猫を乗せた癖っ毛少女ことミルカは、ネオンを抱きながらなだめるように彼女の頭を撫でていた。
「ったく、そういう事なら先に言ってくれよ。アタイら『ノース・ウィンド』は戦争で困っている奴らを助けるため、戦争を企てる奴らの邪魔をするために立ち上げた盗賊団なんだ。そんな理由があるなら、断る意味なんざどこにもありゃしないさ……!!」
盗賊団『ノース・ウィンド』の頭首ことアネさん。もといアネッサは、シキに表情を見られないように顔を逸らしながら、頬から小さな涙の粒を落としていた。
(…………上手く行き過ぎたな)
ここで殺されぬよう盗賊団に取り入るため、シキは咄嗟に偽りの過去をでっち上げた。旅をしていた理由や金が必要な事、そして喋らないネオンという存在をいかにもそれっぽく伝え、この場をやり過ごそうとしたのだ。
しかし結果は思った以上だ。いや、思っていた以上に行き過ぎていた。ここまで気に入られてしまうと、こっそり抜け出すのも難しい。
「あ、ああ。これからよろしく頼む。アネッサ、団の皆よ!」
おうよ!!
盗賊団達の威勢の良い返事が、洞窟に作られたアジト内へとこだました。
「シキにネオン。うちに入団したからには、今日からアンタ達は兄弟だ。こちらこそよろしく頼むぜ!」
アネッサは二人を抱擁し、ポンポンと軽く背中を叩いた。
こうして、シキとネオンは盗賊団『ノース・ウィンド』の九人目と十人目のメンバーになってしまったのであった。
シキとネオンは盗賊団がアジトに構える洞穴で、無数の盗賊に囲まれて正座していた。
東の関所近くで戦った屈強な男と他三人に加え、他にも武器を持った男が二人、さらには頭に茶色い猫を乗せた癖っ毛の少女が一人。そして荒々しさと気高さを感じさせる、本当の盗賊団頭首らしき女性が佇んでいた。
合計八人と一匹に四方八方を囲まれたシキは、ハチの巣を突いてしまったような後悔の念に包まれていた。
「それで、話とはなんだい? 言ってみな」
頭首の女性は近くにあった木箱へ艶めかしく腰かけると、冷や汗をかいているシキへと語り掛けた。
「……お前達はここから南にある、魔術雑貨屋を襲おうとしていた。それは間違いないな?」
「どうしてそう思う?」
「私を追いかけて来た事もそうだが、なにより私と店員の会話を盗み聞きしていた。つまり、あの雑貨屋を調べていた。それが他でもない証拠だ」
はぁ、とため息をつくと、頭首は屈強な男を睨み、ぽつりと呟く。
「…………ストウム」
「ひっ、すいやせんアネさん……。ついうっかり……口が滑りやした……」
全く……と部下の失態に呆れ返ると、アネさんと呼ばれた女性は改めてシキの顔をまじまじと見つめた。
「ああその通りだ、赤髪の旦那。それで、それがどうした?」
アネさんと呼ばれた女性は、シキとネオンの姿をじっくりと観察しながら会話を続ける。そんな盗賊団の頭首に対し、シキは臆する事無く言葉を返した。
「お前達が求めていたものは、これだろう!」
シキは懐から首飾りを取り出すと、盗賊団へ見せつけるように目の前へ掲げ上げる。
「『蜃気楼の首飾り』……術を共有する魔道具だ。私は魔術雑貨屋の店主へ確認は取った。お前達の求めるものはこれに違いないと。使い方は盗み聞きしていたそこのストウムやらにでも聞けば分かるはずだ」
空気が、ピリピリとした緊張に包まれる。
シキとネオンを囲んでいた盗賊団達は、各々の武器を手に持ち戦闘態勢へと入ろうとしていた。
「待て、まだ話し合いは終わっていない……!」
「……お前達、控えろ」
頭首の一声で、それぞれが向けた切っ先はシキから逸れていく。
「それで、赤髪の旦那。一応聞くが、状況は分かっているだろうな。話し合いなど、アタイ達が応じる必要は別に無いんだぞ?」
「私は赤髪の旦那ではない。シキだ。そんな事は分かっているさ。だからこれは交渉ではなく、頼みだ」
「頼みだぁ? ふん。シキ、言ってみろ」
「この首飾りを手土産に、私達をこの団に入れて欲しい!!」
は?
張り詰めた空気は一転。シキの一言で間の抜けた声が全員から漏れ出した。
その中で一人、驚くでもなく困惑するでもないただ一人の笑い声が響き渡る。
「……ふふ、ふっふっふ、あっはっはっは!! こりゃ面白い!! 入団希望なら先に言ってくれよ。だがなシキ、盗賊団ってのは仲良しこよしのお友達の集まりとは違うんだ。アンタ達がこの盗賊団『ノース・ウィンド』に入りたい理由とやらを教えてくれなきゃ、そうそう簡単に入団は認められないぞ」
「それは、だな……」
シキは盗賊団相手にとても長い、それは長い思い出話を語り明かした。
――――――――――――――――――――
何がどうしてこうなったのだろう。
いや、何をどうかしてしまったからこうなったのだ。
「うぅ……シキ……おめぇって奴はすげえよ……!! 戦争で村ごと焼かれて、生き残ったその子と二人必死に……うぅ、今日まで生きてたんだな……!!」
屈強な男ことストウムは、大粒の涙と鼻水を垂らしながら太い腕を目元へと押さえつけていた。
「ネオンちゃん……言葉が喋られなくなるほどショックだったんスね……! ウチが、このミルカがお姉ちゃんになってあげるっス! だからもう寂しくなんか無いんスよ……!!」
「フニャー!」
頭に茶色い猫を乗せた癖っ毛少女ことミルカは、ネオンを抱きながらなだめるように彼女の頭を撫でていた。
「ったく、そういう事なら先に言ってくれよ。アタイら『ノース・ウィンド』は戦争で困っている奴らを助けるため、戦争を企てる奴らの邪魔をするために立ち上げた盗賊団なんだ。そんな理由があるなら、断る意味なんざどこにもありゃしないさ……!!」
盗賊団『ノース・ウィンド』の頭首ことアネさん。もといアネッサは、シキに表情を見られないように顔を逸らしながら、頬から小さな涙の粒を落としていた。
(…………上手く行き過ぎたな)
ここで殺されぬよう盗賊団に取り入るため、シキは咄嗟に偽りの過去をでっち上げた。旅をしていた理由や金が必要な事、そして喋らないネオンという存在をいかにもそれっぽく伝え、この場をやり過ごそうとしたのだ。
しかし結果は思った以上だ。いや、思っていた以上に行き過ぎていた。ここまで気に入られてしまうと、こっそり抜け出すのも難しい。
「あ、ああ。これからよろしく頼む。アネッサ、団の皆よ!」
おうよ!!
盗賊団達の威勢の良い返事が、洞窟に作られたアジト内へとこだました。
「シキにネオン。うちに入団したからには、今日からアンタ達は兄弟だ。こちらこそよろしく頼むぜ!」
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こうして、シキとネオンは盗賊団『ノース・ウィンド』の九人目と十人目のメンバーになってしまったのであった。
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