この世界には『私』が眠っている。〜記憶喪失で魔術の使えない男は、一言も喋らない少女と共に『魔力』を取り戻す旅に出る〜

夜葉@佳作受賞

文字の大きさ
50 / 169
第二章 鏡映しの兄弟編

10.盗賊団の流儀

しおりを挟む
 シキとネオンが盗賊団『ノース・ウィンド』へと入団してから数十分後。

 夕陽の差し込むとある洞窟の中で、アネッサは団の皆を中央へ置かれた円卓へと集めた。

「入団早々悪いが、明日行う作戦を再度考えようと思う。せっかく良い仲間と土産も加わった事だしな」

 そういうとアネッサはシキから貰った首飾りを掲げ、作戦の続きを説明した。

「『蜃気楼の首飾りネック・レス・ミラージュ』とか言ったな。早速だがこれを実践投入しようと思う。アンタ達、入団順に受け取りな!」

 アネッサは首飾りから小さな勾玉六つを取り外すと、一つずつ仲間達に渡していった。

 最初に副団長らしい屈強な男ことストウムが一つ受け取り、続けて五人の男達が並び、その後ろへ頭に猫を乗せた癖っ毛少女ことミルカ、最後にシキとネオンの順で列を作る。

 手際よく受け取って行きそろそろ順番が回って来そうなシキの前で、突然頭の猫が飛び上がりそうな大声でミルカが叫んでいた。

「ええーっ!? ウチの分は無いんスか!?」

 ガックリと肩を落とし落胆するミルカを前に、アネッサは大人な態度で対応する。

「そんな事言ったってな、元々アタイの分を入れて七つしか無かったんだ。文句を言ったって仕方が無いだろう?」

「そうっスけどー」

 唇を尖らせて不機嫌になるミルカに、最初に勾玉を受け取ったストウムが声をかける。

「ミルカにはチャタローがいるじゃねぇか。別にこんな魔道具無くたって困らねぇだろ?」

 ミルカの頭に乗っかっている茶色い猫へストウム手を伸ばし、そのふてぶてしい顔ごと撫でようとする。

 雰囲気から察するに、この猫の名がチャタローらしい。
 ストウムの大きな手が触れようとした瞬間、チャタローは逃げるようにミルカからネオンの頭へと飛び移った。

 飛び移られた衝撃でネオンはぐらぐらと揺れるが、その表情はほんの僅かも変わりはしない。

「この猫……チャタローがいると何かあるのか?」

 シキの命をあと一歩まで追い詰めるほどの手練れが、こんな猫一匹に一目置いている。シキにはその状況がいまいち理解出来なかったのだ。

「こいつはすげぇぜ。なんたってうちの……」

「そーれーはー、見てからのお楽しみっスよ!」

 ミルカはストウムの言葉を遮ると、両手をネオンの頭へ伸ばしチャタローを回収した。そのままポンと定位置に戻し、含みを持った笑みでニヤニヤと頬を上げる。

 そんなミルカのを見て機嫌が戻ったのを確認したアネッサは、再び話を作戦会議へと戻す。

「それで、この首飾りの力を使ってアタイの風馬をアンタ達にも使ってもらい、付近の屋敷を強襲する。機動力が格段に上がったんだ。予定よりもっと上の相手を狙ってみるのもありだな」

「風馬……? そんなもの私は使えないが、私達はどのように参加すれば良い?」

「シキとネオンはミルカと共に支援を頼む。盗んだ金品の運搬や、屋敷の外から陽動のサポートに参加してくれ」

「ふむ……了解した」

「それで、襲撃先についてだが……」

 アネッサは付近の様子が描かれた地図を取り出すと、マル印を一つとバツ印を三つほど付けより詳しい内容について話を始める。

「マル印はこの洞窟でバツ印がターゲットの位置だ。この中にある屋敷の一つから武器や金品を頂く。当初では東にある関所近くの屋敷を狙う予定だったが、今なら北西にある一際大きい方へ変更もありだとアタイは考える。アンタ達、何か気になる事はあるかい?」

 地図上でも分かるほど大きく切り抜かれた一帯を指差すアネッサに対し、ストウムが横から意見を述べる。

「アネさん、そこは話じゃ王族や軍の連中も出入りしているかなりの上玉じゃなかったですかい? 専属の部隊も控えているかもしれやせんし、それならこっちの北の屋敷が良いと思いますぜ」

 ストウムはそう言いながらマル印の上側、つまりこのアジトより更に北にある、先ほどより一回りほど小さな屋敷を指差した。

 しかしそれを聞いたミルカが驚いたように声を上げ、とんでもないと対抗して来た。

「ストウムのアニキ、そこだけはダメっスよ! 前も言ったじゃないッスか。偵察に行った時、誰の姿も見えないのに建物だけはやたら綺麗で、めちゃくちゃ不気味だったって……」

「だったらお前はもともと襲う予定だった、一番小せぇ東の屋敷が良いってのか? 折角チャンスだってのにビビッてんじゃねーよ!」

「んな事言われたって行きたくないっスもんー!!」

「そんなビビりで盗賊が務まると思ってんのか!?」

「ビ、ビビりじゃないっスよ! ウチはただ分からない敵と戦う事のリスクをっスねー……ってうわあ!?」

 ミルカは突然目の前に何かが現れ、驚いて後ろへひっくり返る。

「…………?」

 それが話の輪に入ろうと頭を出したネオンに気づいたのは、転がり回って頭を打ち付けた後だった。

 やいのやいのとあちらこちらで騒がしくなり、アネッサは頭を抱えながら別の新参者にも意見を問う事にしてみた。

「落ち着け二人とも。確かに北の屋敷は不明瞭な点も多い。なぁシキ、アンタならこの三つのうちどこが良い思う? 新しい知恵も借りてみようじゃないか」

 突然話を振られたシキは少しの間考え込む。そして、東の屋敷にまつわるとある話を思い出し、その事を添えて回答した。

「なぁアネッサ、この『ノース・ウィンド』は何のための組織か、もう一度聞いてもいいか」

「ん、そりゃ決まっている。戦争で困っている奴らを助けるため、つまり戦争で得している奴らの邪魔をするために立ち上げた組織だ。それがどうかしたか?」

「こんな話を聞いた事は無いか? 東の屋敷に住む貴族は、関所を強引に作って荒金を稼いでいるという噂を」

「……聞いたも何も、ここいらじゃ有名さ」

「ならば、襲う相手は自ずと決まっているではないか。王族と関わりのある連中や不気味な屋敷より先に、挫くべき相手はそこにいるだろう」

 なるほど。とアネッサは不敵な笑みを浮かべると、地図上の東の屋敷を叩きつけ高らかに宣言した。

「よぉし決まりだ。アタイら『ノース・ウィンド』は明日、東の屋敷を襲う事にする。予定通りじゃないぞ。関所ごと全て頂いてやろうではないか!」

 うおおおおお!! と盗賊団の一味は各々武器を掲げ、団長アネッサの意見に同調する。

(これで関所の問題は解決だ。後は隙を見つけて盗賊など辞め、旅を続けよう)

 シキはうんうんと自らの策が順調に進んでいる事をひっそりと喜んだ。後は流れに任せていれば何とかなる。それはそう思った矢先の出来事であった。

「そうと決まればお堅い話はここまでだ。お前ら!」

 へい!!

「ん?」

会議中の堅苦しい空気が一変、妙な熱気を帯び始める。

「早速二人の歓迎会と行こうじゃないか! さぁさぁ飯を作れ酒を注げ。期待の新人達にアタイらの血を流してやろうぞ!!」


 うおおおおお!!


「んん!?」

 鉄鍋を豪快に振るうストウムに、食器類を流れるように並べるミルカ。他のメンバーもそれぞれ手慣れた様子で調理や会場の用意を行い、宴の準備を進めていた。

 シキが驚く間もなく、とあるアジトと化した洞穴には一瞬で宴の会場が出来上がった。

「……正気か?」

 そんなシキとは対照的に、美味しそうな匂いに包まれるアジトの中でネオンはソワソワと落ち着かない様子だった。

 もちろん、その表情はただの一つも変える事はないままに……。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...