この世界には『私』が眠っている。〜記憶喪失で魔術の使えない男は、一言も喋らない少女と共に『魔力』を取り戻す旅に出る〜

夜葉@佳作受賞

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第三章 砂漠の魔女編

21.使役者へと吹く風

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 オアシスへ現れた正体不明の足跡を追い、オームギとシキ一行は砂漠をかけていた。
 朝日はとうに登り、昼時を知らせる灼熱へと変化を遂げながら砂上を進む一行を照らし出す。

「オームギ、焦り過ぎだ! そんなに急いでは敵を蹴散らす前に体力を消耗し切るぞ!!」

「大きなお世話よッ!! ただでさえ勝手に立ち入られて気が立っているというのに、これ以上存在が広まるなんて黙って許せる訳ないでしょ!!」

 オームギが危惧しているのは強敵の誕生ではない。誰も知らないはずのオアシスの情報が、魔物を通して外へと漏れる事が恐ろしかったのだ。

 万が一にでも、オアシスへ立ち入るほどの魔物を倒し、エーテルに刻まれた記憶から住処の情報を手に入れる人物が現れたら。それは今実質的に主導権を握っているシキ達とは程遠い、すぐにでも存在を断ち切りたい脅威でしかなかった。

 焦る気持ちは地平線の先を睨み、謎の足跡をなぞる身体の挙動を強く急かす。

 誰かに知られる前に、何者かの目に触れる前に。存在ごと命を刈り取る。始まりの魔術師が残した大鎌を握り締め、明確な敵意と殺意を持って一秒でも早く刃を突き付けてやる。

 他でもない自分を守るために。その刃を振るう相手を、ついにオームギは捉えるのであった。

「見つけ……ッ、た!?」

 オームギの眼前に立ちはだかるのは、予想だにしない存在だった。

「そんな……どうして!!」

 見た目も、サイズも、凶暴さも。その全ては、前日に狩った群れと遜色のない、ただの魔物の集まりに過ぎなかったのだ。

 獣型の魔物達は相も変わらず敵の存在を捉えると、その狂暴な牙を剥きながら襲い掛かる。数は十から二十か。そんな当たり前の光景が、異常を追い求めて駆けてきたオームギにとっては理解の外にあった。

「気を抜くなッ!!」

 掛け声と共に、オームギの背後から炎をまとった拳と氷の刃が飛び出して来る。白の魔女へと襲い掛かった敵意の牙は、後から追いついた協力者達によって遮られた。

「オームギさん! 足跡の正体は彼らなのですか!?」

 咄嗟にエリーゼが確認に入る。倒すべき敵は奴らなのか、それとも他に居るのか。しかしオームギは、混乱した様子を拭えず呆然と起こった出来事を口にするのみであった。

「足跡は奴らのものだった……。でも何で普通のディビアードが? そんな事あり得ない! あっていいはずがないのよ……!!」

 その時だった。

「賢人と言えど、罠に掛け錯乱させてしまえばただの人に過ぎないのだな。正直がっかりだ」

 魔物の群れの奥から、人影が現れる。

 シキ達がその正体を探るよりも前に、人影は両手を広げ大きく叫んだ。

「ハロエリ、ハルウェル!!」

 それぞれ赤と青の色をした二羽の鳥が、人影の背後から飛翔する。そして男の声と共に、一方からは焼けつくような熱風が、また一方からは凍てつくような冷風がシキ達を目掛けて放たれたのだ。

「ッ!? 氷結精製:フリージングビルド:氷河の盾グレイシャルプレートッ……!!」

 放心状態のオームギと攻撃直後で反応出来ないシキを見て、エリーゼは無理やり意識を振り向かせ巨大な氷の盾を精製する。何とか二つの風を凌いだ一行を前に、現れた人影は油断を許さず次の攻撃を仕掛けてきた。

「舐めるな! 砂乱の翼サンドストームッ!!」

 砂漠を飲み込む巨大な砂嵐が、無防備になった一行へと襲い掛かる。シキ達は砂嵐と共に宙へと待った後、身体中へ擦り傷を作り砂上へと叩きつけられた。

 多量の砂と全身へ襲い掛かる痛み。身体中の嫌悪感を振り払いながら、シキは真っ先に再び立ち上がった。

「クソ……ッ!! 何者だ!!」

 魔物の中心で佇む男へと叫ぶ。

 銀髪に褐色の肌をした謎の男は、二羽の鳥を肩に乗せ立ち上がったシキを睨む。その後ろで倒れる白の魔女を気にしながら、立ちはだかる彼をまるで障害とも思わないかのように、率直に用件だけを口にした。

「エルフの女をこちらに渡せ。お前達の命に微塵も興味など無い」

 エルフの血。それはかつて長寿の薬と呼ばれ、種族ごと刈り取られた未知の力。寄り添う二羽の命を救うため、褐色の男レンリはシキ達へと襲い掛かるのであった。
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