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第三章 砂漠の魔女編
23.敵、来襲
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エリーゼの放った一撃によって、砂上の戦地は不気味な無音に包まれていた。雪と砂が巻き上がり、混ざり合って白と黄色がまだらに乱れる砂埃へと化し、敵も味方も関係なく視界を奪われる。
「小癪な……! ハロエリ! ハルウェル! 砂煙を蹴散らせッ!!」
何も見えない一色の世界の中で、褐色肌の男は二羽の相棒を呼び障害を取り払おうとする。
しかし誰も位置を把握できない中で声を上げたのが男の失態。熱風と冷風により砂煙が晴れたその時であった。
「勝機ッッッ!!」
砂漠に似つかわしくない黒の衣服に身を包んだ赤髪の男が、拳に真っ赤な炎をまとわせ寸前のところまで近づいていた。
シキの取った作戦とは、数的有利を無理やり覆す力技であった。エリーゼの放った雪と巻き上がる砂により双方の視界と、魔物の嗅覚を封じ込める。数の利で戦うのが敵の策であるならば、褐色肌の男は必ずこの不利な戦況を覆しに来ると踏んだのだ。
まんまと術中にはまった敵の男は、犬歯を剥き出し苦渋の顔でシキを睨み付ける。それでもシキは止まらない。雪の混じった白と黄色の地面をギシギシと踏み締め、燃え盛る拳を突き上げる。
だが、だとしてもレンリは負ける訳にはいかなかった。空を舞い彼を援護する赤と青の鳥。病を抱えた二羽を救うために、彼もまた、エルフの血を手に入れなければならなかったのだ。
だからレンリには、ギリギリの状態であっても諦める事など出来なかった。だからレンリは、炎の拳が肌を焦がす寸前においても、勝利を奪い去るべく反撃の一撃を放つのであった。
「そんなものォ! 砂乱の翼ーーーッ!!」
あと僅かで勝負は決するはずであった。あと少し、ほんの少しだけシキの攻撃が早ければ。あるいは、レンリの反撃が遅れていたならば。
だが命がけの戦いに、もしもなど存在しない。
シキの拳は砂嵐に飲まれ、身体ごと吹き飛ばされる。砂の上を滑り、煙を巻き起こしながら無残にも地に伏せる。
「しっ、シキさん!!」
作戦の失敗を前に、思わずエリーゼは声を上げる。そんな彼女の悲痛な叫びを聞き、レンリは攻撃を受け切った。そう確信していた。
しかし。
「上等よシキ! さぁこれで終わりっ、一期狩りッ!!」
安堵するレンリの頭上から、突如として影が落とし込む。今まで戦場から身を消していた、白の魔女オームギが満を持して姿を現す。
オームギはレンリの後方から大鎌を掲げ、彼の目の前へとその巨大な刃を振り被った。
初撃の大雪に魔物の群れは翻弄され、その対処に二羽の鳥は術を使用済み。そして二撃目の炎に対し、レンリの砂嵐も放ったばかり。全てを織り込んだ上で、シキ達の方が一枚上手であった。
主人のピンチに気付き、赤の鳥と青の鳥が向かって来るのが男の目に入った。しかしそれ以上に、振り被られた刃の方が早かった。
防ぐ。避ける。耐える。凌ぐ。どの手法をもってしても、今のレンリには襲い掛かる大鎌へ対処する手段が無かったのだ。
せめて二羽の相棒だけでも安全な所へ。レンリが最後の言葉をかけようとしたその時、虚空より現れた一筋の赤い光が戦場のド真ん中を刺し貫く。
「な、にっ……!?」
赤い光はオームギの大鎌を照射する。エーテルで構成された大鎌の刃には穴が空き、ヒビが広がり粉々に砕け散った。元の棒だけの姿になった集断刀を見て、オームギはすぐさま周囲へ敵意を振りかざした。
瞬間、赤い光は角度を変えてオームギへの脇腹へと襲い掛かった。
「うぐっ……!」
宙を浮いていたオームギは衝撃を受けて身体をくの字に歪ませると、そのまま熱を帯びた砂上へと叩き落される。地面を転がりながらもすぐさま受け身を取り、オームギは立ち上がる。
褐色肌の男の右隣り。砂漠には似つかわしくない小奇麗な黒の繊維に、真っ赤な差し色が散りばめられた異質な給仕服をまとった妖艶な女が、ニヤニヤと不気味な笑みを作りながら佇む。
その手に持つ斧と槍が複合された双武器へ細く長い指を這わせ、痛みに悶え苦しむオームギを眺めながら満足そうに声を漏らした。
「噂に名高い賢人とやらもこの程度。勝手に死ぬのは構いませんが、せめてワタクシ達の役に立ってから亡くなって下さいまし」
「チッ、わざと遅れておいて何を言う」
「あらあら、人聞きの悪い事を」
「全員で迎え撃つと打ち合わせたはずだ……! それより、他の奴らは?」
「そうそう心配せずとも、ほら」
何やらこそこそと話す褐色肌の男と赤黒い給仕服の女。突如現れた増援を前に警戒心を最大限まで上げていると、女はふとエリーゼを見てニヤリと笑った。
「……!?」
身の毛もよだつような薄気味悪さを感じた直後、エリーゼは周りのエーテルが乱れるのを肌で感じ取る。その直後。
「スワンプ・スタンプゥ!!」
「ッ、氷結精製:氷河の盾!!」
真横から岩石のように巨大な拳をした大男が腕を振り被り、華奢なエリーゼの身体を粉砕しようとしていた。とっさにエリーゼは氷の壁を生み出し、大男の繰り出す衝撃波を寸前で受け止める。
砕け散る氷片。容易に氷の壁を砕いた拳は、エリーゼの側の地面を貫き勢いを失った。大男はすぐさま拳を引き抜き、かわしたエリーゼを獣のような視線で睨み付けると、すぐさま次の一撃を放つ。
ただでさえ数的に不利だったのに、さらに異質な強さを持った二人が戦場へと加わる。シキ、エリーゼ、そしてオームギは魔物を撒き立ち尽くしていたネオンの元へと集まり、戦況のリセットと互いのカバーへとまわった。
同じように魔物の群れの中へ集まる三人の敵。そんな彼らの元へ、さらに多くの魔物を連れた馬車が到着した。
「……っ! ラボン様ぁ!」
斧槍を抱き、全身で喜びを表す赤黒い給仕服の女。彼女の声へ応えるように、馬車の奥からは落ち着いた声色の男が周りの仲間達へ語り掛けた。
「おやおや、何をやっているのです。皆さんちゃんと協力しましょうと言ったではないですか」
舌打ちをする褐色肌の男に、周りの見えていない給仕服の女。そして彼らの言動に一切干渉しない大男と何十匹と集まった獣型の魔物達。
ぞろぞろと群れを成して集まった悪意の中心は、真っ白な砂漠の魔女を見てポツリと言葉を口にした。
「お遊びはこの辺りにしておいて、それでは頂きましょうか。長寿の血、エルフのエーテルとやらを……!」
百年以上隠れ過ごしたエルフ族の生き残りの前に、今再び血を求める人間が立ち塞がる。
「小癪な……! ハロエリ! ハルウェル! 砂煙を蹴散らせッ!!」
何も見えない一色の世界の中で、褐色肌の男は二羽の相棒を呼び障害を取り払おうとする。
しかし誰も位置を把握できない中で声を上げたのが男の失態。熱風と冷風により砂煙が晴れたその時であった。
「勝機ッッッ!!」
砂漠に似つかわしくない黒の衣服に身を包んだ赤髪の男が、拳に真っ赤な炎をまとわせ寸前のところまで近づいていた。
シキの取った作戦とは、数的有利を無理やり覆す力技であった。エリーゼの放った雪と巻き上がる砂により双方の視界と、魔物の嗅覚を封じ込める。数の利で戦うのが敵の策であるならば、褐色肌の男は必ずこの不利な戦況を覆しに来ると踏んだのだ。
まんまと術中にはまった敵の男は、犬歯を剥き出し苦渋の顔でシキを睨み付ける。それでもシキは止まらない。雪の混じった白と黄色の地面をギシギシと踏み締め、燃え盛る拳を突き上げる。
だが、だとしてもレンリは負ける訳にはいかなかった。空を舞い彼を援護する赤と青の鳥。病を抱えた二羽を救うために、彼もまた、エルフの血を手に入れなければならなかったのだ。
だからレンリには、ギリギリの状態であっても諦める事など出来なかった。だからレンリは、炎の拳が肌を焦がす寸前においても、勝利を奪い去るべく反撃の一撃を放つのであった。
「そんなものォ! 砂乱の翼ーーーッ!!」
あと僅かで勝負は決するはずであった。あと少し、ほんの少しだけシキの攻撃が早ければ。あるいは、レンリの反撃が遅れていたならば。
だが命がけの戦いに、もしもなど存在しない。
シキの拳は砂嵐に飲まれ、身体ごと吹き飛ばされる。砂の上を滑り、煙を巻き起こしながら無残にも地に伏せる。
「しっ、シキさん!!」
作戦の失敗を前に、思わずエリーゼは声を上げる。そんな彼女の悲痛な叫びを聞き、レンリは攻撃を受け切った。そう確信していた。
しかし。
「上等よシキ! さぁこれで終わりっ、一期狩りッ!!」
安堵するレンリの頭上から、突如として影が落とし込む。今まで戦場から身を消していた、白の魔女オームギが満を持して姿を現す。
オームギはレンリの後方から大鎌を掲げ、彼の目の前へとその巨大な刃を振り被った。
初撃の大雪に魔物の群れは翻弄され、その対処に二羽の鳥は術を使用済み。そして二撃目の炎に対し、レンリの砂嵐も放ったばかり。全てを織り込んだ上で、シキ達の方が一枚上手であった。
主人のピンチに気付き、赤の鳥と青の鳥が向かって来るのが男の目に入った。しかしそれ以上に、振り被られた刃の方が早かった。
防ぐ。避ける。耐える。凌ぐ。どの手法をもってしても、今のレンリには襲い掛かる大鎌へ対処する手段が無かったのだ。
せめて二羽の相棒だけでも安全な所へ。レンリが最後の言葉をかけようとしたその時、虚空より現れた一筋の赤い光が戦場のド真ん中を刺し貫く。
「な、にっ……!?」
赤い光はオームギの大鎌を照射する。エーテルで構成された大鎌の刃には穴が空き、ヒビが広がり粉々に砕け散った。元の棒だけの姿になった集断刀を見て、オームギはすぐさま周囲へ敵意を振りかざした。
瞬間、赤い光は角度を変えてオームギへの脇腹へと襲い掛かった。
「うぐっ……!」
宙を浮いていたオームギは衝撃を受けて身体をくの字に歪ませると、そのまま熱を帯びた砂上へと叩き落される。地面を転がりながらもすぐさま受け身を取り、オームギは立ち上がる。
褐色肌の男の右隣り。砂漠には似つかわしくない小奇麗な黒の繊維に、真っ赤な差し色が散りばめられた異質な給仕服をまとった妖艶な女が、ニヤニヤと不気味な笑みを作りながら佇む。
その手に持つ斧と槍が複合された双武器へ細く長い指を這わせ、痛みに悶え苦しむオームギを眺めながら満足そうに声を漏らした。
「噂に名高い賢人とやらもこの程度。勝手に死ぬのは構いませんが、せめてワタクシ達の役に立ってから亡くなって下さいまし」
「チッ、わざと遅れておいて何を言う」
「あらあら、人聞きの悪い事を」
「全員で迎え撃つと打ち合わせたはずだ……! それより、他の奴らは?」
「そうそう心配せずとも、ほら」
何やらこそこそと話す褐色肌の男と赤黒い給仕服の女。突如現れた増援を前に警戒心を最大限まで上げていると、女はふとエリーゼを見てニヤリと笑った。
「……!?」
身の毛もよだつような薄気味悪さを感じた直後、エリーゼは周りのエーテルが乱れるのを肌で感じ取る。その直後。
「スワンプ・スタンプゥ!!」
「ッ、氷結精製:氷河の盾!!」
真横から岩石のように巨大な拳をした大男が腕を振り被り、華奢なエリーゼの身体を粉砕しようとしていた。とっさにエリーゼは氷の壁を生み出し、大男の繰り出す衝撃波を寸前で受け止める。
砕け散る氷片。容易に氷の壁を砕いた拳は、エリーゼの側の地面を貫き勢いを失った。大男はすぐさま拳を引き抜き、かわしたエリーゼを獣のような視線で睨み付けると、すぐさま次の一撃を放つ。
ただでさえ数的に不利だったのに、さらに異質な強さを持った二人が戦場へと加わる。シキ、エリーゼ、そしてオームギは魔物を撒き立ち尽くしていたネオンの元へと集まり、戦況のリセットと互いのカバーへとまわった。
同じように魔物の群れの中へ集まる三人の敵。そんな彼らの元へ、さらに多くの魔物を連れた馬車が到着した。
「……っ! ラボン様ぁ!」
斧槍を抱き、全身で喜びを表す赤黒い給仕服の女。彼女の声へ応えるように、馬車の奥からは落ち着いた声色の男が周りの仲間達へ語り掛けた。
「おやおや、何をやっているのです。皆さんちゃんと協力しましょうと言ったではないですか」
舌打ちをする褐色肌の男に、周りの見えていない給仕服の女。そして彼らの言動に一切干渉しない大男と何十匹と集まった獣型の魔物達。
ぞろぞろと群れを成して集まった悪意の中心は、真っ白な砂漠の魔女を見てポツリと言葉を口にした。
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