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第三章 砂漠の魔女編
29.生き残った意味
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砂漠の地下空間に現れた巨大な白蛇。その存在にその場の皆が意識を奪われる。
「あれが、オームギの探し求めていたもの……。エルフの記憶が蓄積された、橙のエーテルコア。そんなものを、奴らに奪われる訳には……!!」
「ハ……! よそ見、スルナァ!!」
雪崩が起きたような衝撃が、シキの周辺へと襲い掛かり大量の砂が巻き上がる。仲間達が動けない中、何としてもコアを守ろうとするシキ。そんな彼を、赤の国の刺客であるスワンプは執拗に狙い続けた。
長寿の血を求めた攻防の末ついに戦場へと舞い降りた、砂漠に眠る最後のエーテルコア。巨大な白蛇の額に埋め込まれたコアを見て、赤の国グラナートの刺客ラボンは恍惚の表情で見とれていた。
白蛇のラボンへの攻撃を塞ぐため割って入った、斧槍を操る給仕服の女ミネルバ。そして長寿の正体という言葉を耳にして思わず意識を奪われる褐色の鳥使いレンリ。二人の手が離れシキへと迫る脅威が巨大な拳を持つスワンプ単体になったその時、ゆらりと戦場で逃げ回っていたネオンが、動けなくなっていたオームギとエリーゼへと触れる。
「っ! 助かりました、ネオンさん」
「…………」
「はぁはぁ……まさか砂漠の地下にあんな生物が住んでいたなんて。いくら探してもコアが見つからなかったのは、生物として動き回っていたからなのね……」
「それでオームギさん。あの白蛇はなんなのでしょうか。この地を治める主……とかでしょうか」
「まさか。治めるも何も、この砂漠に生き物なんてほとんどいないんだから。ただ湖の水を飲んで肥大化したそこら辺の蛇……」
オームギは適当にあたりを付け、知らない存在を切り捨てようとした。しかし最後まで言いかけようとした時、頭の中で何かが引っ掛かった。
「エーテルを取り込んだ蛇……いや、そんな事って」
「オームギさん、何か心当たりが?」
「……昔、オアシスも私の持つコアも見つけてなかったほど昔の事よ。この砂漠で生まれた魔物となった同胞を狩っていた時、回収したエーテルは無理くり調理して食べ物として私が取り込んでいたの。でも回収したエーテルなんて味も無ければ食感も悪いしで、それはもう最悪だった」
オアシスが作られるよりずっと前。百年を優に超えるはるか昔の事だ。エルフという種族を過去のものへとするため、エーテルの残る遺物を集めていたオームギは砂漠の中を彷徨っていた。
何度倒しても復活する仲間の亡霊達。彼らを蘇る事無く倒すには、大地に眠るエーテルを集め再び魔物とならないように対策する事であった。
最初こそコツコツと狩りをし回収したエーテルを空の結晶へと取り込ませていた。しかし一般的なエーテルを貯め込める結晶には貯蔵限度がある。
処理しきれなくなったエーテルをオームギは食べる事で自らの身へと吸収させ、同胞のエーテルを集めていた。だが無理やり固形化させたエーテルなど雑多な情報が混ざり味と呼べるものなんて僅かにもしなかった。食べる事も嫌になったオームギは、ふと目の前に現れた存在に新たな策を思いついたのであった。
「捨ててしまってはエーテルは大地へ返ってまた魔物になってしまう。でも集めるのも食べるのも限界だった。どこかへ隠すか貯めてしまおうかと考えていた時、目の前に今にも干からびそうな一匹の蛇が居たの」
どこか儚げなオームギは、一拍置いた後改めて話の続きを口にする。
「きっと迷い込んでしまったのでしょうね。エルフの亡霊のせいでまともに生物の寄り付かなかったこんな砂漠の中じゃ、蛇の食料なんて住んでいるはずもない。きっともうすぐ息絶えるんだろうと感じた時、ふと思ったの。この集めたエーテルを与えれば、蛇は一命を取り止め、私も処理が出来るんじゃないかなってね」
オームギが考えた溢れかえったエーテルの対処策。それは、餓えた生き物に与える事で生き物を器としてエーテルを貯蔵する方法。
そうしたならばオームギはエーテルを無理に抱える事は無く、最終手段として器にした生き物を食ってしまえばエーテルはオームギの中へと収まる。オームギはすぐさま行動に移し、刈り取ったばかりのエーテルを死にそうな蛇へと与えた。
「結果は上々。思惑通り蛇はエーテルの球を丸呑みしたわ。その後体調も戻ったようで元気に動き回っていた。でもその後が誤算だった」
「何が、あったのです……?」
「…………逃げられたの」
「え」
「エーテルを与えた蛇が、砂の中へと潜って行っちゃったの。もう最悪よ。その後も探したけど見つからないし、とっくに死んでいるものだと思っていたわ。それがまさか、こんな姿になってまで生き永らえていたなんて……」
エルフのエーテルを与えられ、さらにオームギの手から逃れた蛇は、その後もエーテルを取り込みながら生き続けていた。
この不毛の地において唯一の生命線を見つけた蛇は、砂漠に現れるエルフの亡霊を襲い、食らい、取り込み続け、いつの日か飲み込んでいたのだ。エルフの持つ長寿の血の源、砂漠に眠る橙のエーテルコアを。
そうしてコアそのものとなった蛇は、オームギの持つコアのように砂漠に散ったエルフの残滓を吸収し続け、いつしかエルフのエーテルに眠る知識を使えるようになった。
そしてオームギと同じように認識の阻害を使い、彼女すらも居場所を探し出せない存在へと進化していた。進化を続けた結果蛇はコアから供給され続けるエーテルにより肥大し、現在の姿へと至ったのだろう。
自分が起こした失態の末路。オームギは力無く崩れ落ち、水気を帯びた砂へと座り込む。
「何よ、結局全て私が悪いって訳じゃない。私のミスでコアはずっと行方不明になり、私のミスでこんな罠にまでハマっちゃってさ。何が仲間のためエーテルを集めるよ。結局、私だけが生き残った意味なんて……」
「それは違うと思います」
全てが上手く行かず悲観的になるオームギを、エリーゼは強い言い方で否定した。彼女がかつての仲間達を思って行っていた事。その全てを彼女自身が否定するのを止めるために。
「違うって、何が。貴方に私の何が分かるって言うのよ……!!」
「分かりますよ。確かにオームギさんの想いは分からないですけど、でもオームギさんが生き残った意味は分かります」
「何を言って……」
「先ほど現れた亡霊達の事。覚えていますか」
エリーゼは、敵の獣型の魔物達に襲われていた時の事をオームギに問いただす。圧倒的な数の差で押されていた時、現れたエルフの亡霊達の事を。
「彼らはただ私達を襲わなかったのではありません。オームギさん、あなたを助けていたのですよ……!」
「私を……?」
「そうです。思えば私やシキさんが初めて接触した時もそうでした。突然の来訪者に囲まれていたオームギさんを見て、すかさず助けに入った。だからシキさんを目掛けて彼らは襲い掛かったのではないでしょうか?」
「……どういう事」
「この地下空間には、オームギさんの作り上げたオアシスの水が流れている。つまり、オームギさんの記憶が混ざったエーテルが、地下空間を通してこの砂漠全土に張り巡らされていたという事になります。そんなエーテルすら取り込み生まれた魔物達は。きっと、オームギさんの思いを果たすために、彼らは協力してくれていたのではないでしょうか……?」
エリーゼに言われて、オームギはハッと驚く。言われてみれば、確かに辻褄は合っている。
オームギがオアシスを作ってから、魔物達はオームギへとその存在が伝わるようにエーテルを帯びて生まれていた。オアシスに住み始めてから百年以上誰の姿も見なかったのも、認識阻害の効果にしては上手く行き過ぎていた。
そして現れた巨大な白蛇。その存在は、オームギがエーテルを集めるという行動そのものを模して進化した生き物。
一人生き残った彼女の助けとなるために、この砂漠は、砂漠に眠る魂達は。
「私の、ために……」
戦いの戦禍は、たった一人の仲間を守るため、あらゆる手を使って彼女を支えていたのだ。
そんな仲間達の結晶である白蛇が、襲い掛かる刺客達へと全力を挙げて戦っている。自分達ですら敵わなかった敵の群れを相手にして、それでも引けを取らず暴れ回る。
オームギは、何も言わず大鎌を握り直す。仲間達の想いを不意にしないために、彼女は今一度希望を抱き、立ち上がる。
「あれが、オームギの探し求めていたもの……。エルフの記憶が蓄積された、橙のエーテルコア。そんなものを、奴らに奪われる訳には……!!」
「ハ……! よそ見、スルナァ!!」
雪崩が起きたような衝撃が、シキの周辺へと襲い掛かり大量の砂が巻き上がる。仲間達が動けない中、何としてもコアを守ろうとするシキ。そんな彼を、赤の国の刺客であるスワンプは執拗に狙い続けた。
長寿の血を求めた攻防の末ついに戦場へと舞い降りた、砂漠に眠る最後のエーテルコア。巨大な白蛇の額に埋め込まれたコアを見て、赤の国グラナートの刺客ラボンは恍惚の表情で見とれていた。
白蛇のラボンへの攻撃を塞ぐため割って入った、斧槍を操る給仕服の女ミネルバ。そして長寿の正体という言葉を耳にして思わず意識を奪われる褐色の鳥使いレンリ。二人の手が離れシキへと迫る脅威が巨大な拳を持つスワンプ単体になったその時、ゆらりと戦場で逃げ回っていたネオンが、動けなくなっていたオームギとエリーゼへと触れる。
「っ! 助かりました、ネオンさん」
「…………」
「はぁはぁ……まさか砂漠の地下にあんな生物が住んでいたなんて。いくら探してもコアが見つからなかったのは、生物として動き回っていたからなのね……」
「それでオームギさん。あの白蛇はなんなのでしょうか。この地を治める主……とかでしょうか」
「まさか。治めるも何も、この砂漠に生き物なんてほとんどいないんだから。ただ湖の水を飲んで肥大化したそこら辺の蛇……」
オームギは適当にあたりを付け、知らない存在を切り捨てようとした。しかし最後まで言いかけようとした時、頭の中で何かが引っ掛かった。
「エーテルを取り込んだ蛇……いや、そんな事って」
「オームギさん、何か心当たりが?」
「……昔、オアシスも私の持つコアも見つけてなかったほど昔の事よ。この砂漠で生まれた魔物となった同胞を狩っていた時、回収したエーテルは無理くり調理して食べ物として私が取り込んでいたの。でも回収したエーテルなんて味も無ければ食感も悪いしで、それはもう最悪だった」
オアシスが作られるよりずっと前。百年を優に超えるはるか昔の事だ。エルフという種族を過去のものへとするため、エーテルの残る遺物を集めていたオームギは砂漠の中を彷徨っていた。
何度倒しても復活する仲間の亡霊達。彼らを蘇る事無く倒すには、大地に眠るエーテルを集め再び魔物とならないように対策する事であった。
最初こそコツコツと狩りをし回収したエーテルを空の結晶へと取り込ませていた。しかし一般的なエーテルを貯め込める結晶には貯蔵限度がある。
処理しきれなくなったエーテルをオームギは食べる事で自らの身へと吸収させ、同胞のエーテルを集めていた。だが無理やり固形化させたエーテルなど雑多な情報が混ざり味と呼べるものなんて僅かにもしなかった。食べる事も嫌になったオームギは、ふと目の前に現れた存在に新たな策を思いついたのであった。
「捨ててしまってはエーテルは大地へ返ってまた魔物になってしまう。でも集めるのも食べるのも限界だった。どこかへ隠すか貯めてしまおうかと考えていた時、目の前に今にも干からびそうな一匹の蛇が居たの」
どこか儚げなオームギは、一拍置いた後改めて話の続きを口にする。
「きっと迷い込んでしまったのでしょうね。エルフの亡霊のせいでまともに生物の寄り付かなかったこんな砂漠の中じゃ、蛇の食料なんて住んでいるはずもない。きっともうすぐ息絶えるんだろうと感じた時、ふと思ったの。この集めたエーテルを与えれば、蛇は一命を取り止め、私も処理が出来るんじゃないかなってね」
オームギが考えた溢れかえったエーテルの対処策。それは、餓えた生き物に与える事で生き物を器としてエーテルを貯蔵する方法。
そうしたならばオームギはエーテルを無理に抱える事は無く、最終手段として器にした生き物を食ってしまえばエーテルはオームギの中へと収まる。オームギはすぐさま行動に移し、刈り取ったばかりのエーテルを死にそうな蛇へと与えた。
「結果は上々。思惑通り蛇はエーテルの球を丸呑みしたわ。その後体調も戻ったようで元気に動き回っていた。でもその後が誤算だった」
「何が、あったのです……?」
「…………逃げられたの」
「え」
「エーテルを与えた蛇が、砂の中へと潜って行っちゃったの。もう最悪よ。その後も探したけど見つからないし、とっくに死んでいるものだと思っていたわ。それがまさか、こんな姿になってまで生き永らえていたなんて……」
エルフのエーテルを与えられ、さらにオームギの手から逃れた蛇は、その後もエーテルを取り込みながら生き続けていた。
この不毛の地において唯一の生命線を見つけた蛇は、砂漠に現れるエルフの亡霊を襲い、食らい、取り込み続け、いつの日か飲み込んでいたのだ。エルフの持つ長寿の血の源、砂漠に眠る橙のエーテルコアを。
そうしてコアそのものとなった蛇は、オームギの持つコアのように砂漠に散ったエルフの残滓を吸収し続け、いつしかエルフのエーテルに眠る知識を使えるようになった。
そしてオームギと同じように認識の阻害を使い、彼女すらも居場所を探し出せない存在へと進化していた。進化を続けた結果蛇はコアから供給され続けるエーテルにより肥大し、現在の姿へと至ったのだろう。
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「何よ、結局全て私が悪いって訳じゃない。私のミスでコアはずっと行方不明になり、私のミスでこんな罠にまでハマっちゃってさ。何が仲間のためエーテルを集めるよ。結局、私だけが生き残った意味なんて……」
「それは違うと思います」
全てが上手く行かず悲観的になるオームギを、エリーゼは強い言い方で否定した。彼女がかつての仲間達を思って行っていた事。その全てを彼女自身が否定するのを止めるために。
「違うって、何が。貴方に私の何が分かるって言うのよ……!!」
「分かりますよ。確かにオームギさんの想いは分からないですけど、でもオームギさんが生き残った意味は分かります」
「何を言って……」
「先ほど現れた亡霊達の事。覚えていますか」
エリーゼは、敵の獣型の魔物達に襲われていた時の事をオームギに問いただす。圧倒的な数の差で押されていた時、現れたエルフの亡霊達の事を。
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「私を……?」
「そうです。思えば私やシキさんが初めて接触した時もそうでした。突然の来訪者に囲まれていたオームギさんを見て、すかさず助けに入った。だからシキさんを目掛けて彼らは襲い掛かったのではないでしょうか?」
「……どういう事」
「この地下空間には、オームギさんの作り上げたオアシスの水が流れている。つまり、オームギさんの記憶が混ざったエーテルが、地下空間を通してこの砂漠全土に張り巡らされていたという事になります。そんなエーテルすら取り込み生まれた魔物達は。きっと、オームギさんの思いを果たすために、彼らは協力してくれていたのではないでしょうか……?」
エリーゼに言われて、オームギはハッと驚く。言われてみれば、確かに辻褄は合っている。
オームギがオアシスを作ってから、魔物達はオームギへとその存在が伝わるようにエーテルを帯びて生まれていた。オアシスに住み始めてから百年以上誰の姿も見なかったのも、認識阻害の効果にしては上手く行き過ぎていた。
そして現れた巨大な白蛇。その存在は、オームギがエーテルを集めるという行動そのものを模して進化した生き物。
一人生き残った彼女の助けとなるために、この砂漠は、砂漠に眠る魂達は。
「私の、ために……」
戦いの戦禍は、たった一人の仲間を守るため、あらゆる手を使って彼女を支えていたのだ。
そんな仲間達の結晶である白蛇が、襲い掛かる刺客達へと全力を挙げて戦っている。自分達ですら敵わなかった敵の群れを相手にして、それでも引けを取らず暴れ回る。
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