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第三章 砂漠の魔女編
32.逃げろと言っている
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崩壊を始めた砂漠の地下。橙のエーテルの輝きに染まる空間の中、エーテルコアの膨大な出力により暴走する巨大な白蛇。
暴れ狂う白蛇をネオンの力で止めようとするシキと、洗脳を終わらせ支配下に置こうとする赤の国の刺客ラボン。二組の勢力が白蛇に触れようとしたその時、双方の前へ立ち塞がったのはオームギと刺客の一人レンリであった。
「オームギ、やめろとはどういう事だ!? 奴の魔術により暴れる白蛇を止めるにはネオンが触れるしかない。ネオンの力ならお前もその身で感じただろう!?」
「分かっている。分かっているから、その子が触れたらダメなのよ……!」
「なに……?」
ネオンのエーテル吸収能力により、敵の洗脳から解放されたオームギ。
まとわりついていた敵のエーテルが、ネオンの手が触れた瞬間に溶けるように消えて行くのを彼女は肌で感じていた。だからこそ、エルフのエーテルの塊と化した白蛇に触れ、白蛇の存在そのものが消えてしまう事を彼女は恐れたのだ。
「この子には同胞のエーテルがたくさん眠っているはずなの! それに、こんな姿になってまで生き永らえていたのはコアからの供給に他ならない。もしネオンが触れてコアが壊れてしまったら……仲間の魂はまたこの砂漠を彷徨ってしまう。だから、その子が触れるのだけはダメなの!!」
「しかし……!」
オームギの言い分にも理解出来る部分はあった。シキ自身、ネオンの持つ能力については詳しく分かっていない。彼女のいる付近では空間全体へ効果の及ぶ術は無効化されていたり、彼女に触れる事でかけられた術から解放される事もあった。
だが物体の絡むエーテル術においては、込められたエーテルのみを吸収する性質から攻撃を無効化する事は出来ない。そして最大の弱点でもある、魔道具に触れると破壊してしまう性質。この能力の詳細がまだ判断付かないのだ。
体内へコアを吸収しているシキに彼女が触れても影響は無いが、それは完全に体内へ埋まっているからなのかもしれない。では額へと浮き出ている白蛇の場合どうなるのか。もしかするとオームギの言っているように、コアまで破壊されるかもしれないのだ。
そうなってしまえば、コアに眠るとされるシキの記憶はどうなるか。コアとネオンの関係性が分からない今、不用意にネオンが白蛇に触れるのはオームギの言う通り危険であった。
シキとオームギが言い争う横で、ラボンへと攻撃の手を向けるレンリ。彼の不審な行動を前にして、ラボンは心底不快そうに彼の意を聞き出す。
「レンリ君……。この期に及んで邪魔をするとは。今であれば聞き間違いとして処理します。退きなさい」
「……ダメだ! こいつは……この白蛇は俺達に『逃げろ』と言っている!! こいつの意識が奪われた瞬間、この空間は崩壊するぞ!!」
「…………何を言い出すかと思えば。自ら襲っておいて逃げろですか。私の支配下に置けば逃げる必要も無くなるのですよ。そうでしょう、レンリ君」
「暴走状態に追い込んだのはお前だろう! 俺は相棒達の病を取り除いてもらうためお前に協力しているんだ。だが長寿の血などというものは存在せず、その正体はエーテルの塊だった。仮にお前が長寿の力を手に入れたとして、お前はどうやってハロエリとハルウェルを救うと言う? このままお前に協力して生き埋めにされるぐらいなら、俺はこいつの言う通りここから脱出するぞ!!」
レンリがラボンへと協力する目的。それは最初から、相棒である二羽の鳥ハロエリとハルウェルの病を取り除くためであった。
生き物のエーテル研究を進め生態に詳しいラボンが言うには、長寿の血と呼ばれるものを飲ませ病を克服する必要があるとの事だった。だからレンリは、ラボン達が進める研究をいち早く成就させるため彼の力となっていた。そのために、オームギを襲い彼女の血を狙っていた。
しかし辿り着いた先は、橙のエーテルコアというエルフの持つエーテルそのものであった。レンリが信じていた薬とは似ても似つかない、身体を巡るエーテルそのものを塗り替える物質。それをもしラボンが手に入れれば、レンリの相棒達はどうやって病を治すというのか。
魔物すら駒として使い捨てる彼のやり方が最初から気に入らなかった。だが、それしかなかったからレンリは協力していた。それでも、今目の前の男は言葉巧みに周りの者達を操り、自らの悲願のための犠牲にしようとしていたのだ。
このまま彼に従っていては助けたい相棒達ごと見殺しにされる。そんな事だけは絶対に避けたかった。だからレンリは、彼の命令に反し白蛇の声に耳を傾けた。そして皆助かるための選択として、白蛇の声をその場にいる全員に届けたのだ。
レンリから白蛇の言葉を聞き、オームギはどうにか助ける方法が無いか考える。シキと白蛇の間へ立ち塞がるように立っていたオームギは後ろへと振り返り、悶え苦しむその姿を目に焼き付ける。
どうにか、ネオンの力以外で助け出す方法はないのか。白蛇を苦しめる力、その源を止める事が出来れば……!
オームギは咄嗟に振り返る。隣に立つレンリが手を向ける相手。白蛇に洗脳を行おうとする諸悪の根源の存在を。
「貴方を……ここで倒せば……!!」
一度シキへと向けた大鎌を、改めて倒すべき相手に構え直す。こいつさえ倒してしまえば。仲間達を殺し今もまだ魂を苦しめるこの敵を倒しさえすれば。
大鎌を握る拳に、何百年と生きて来た中で最大の力が込められる。とんがり帽子の端から、殺意を込めた鋭い視線が放たれる。
一撃で決める。
刺客も、魔物も、操られた同胞の亡霊も関係ない。一撃で倒してしまえば、それで全て終わるのだから。オームギは渾身の力で踏み込み、一瞬にしてラボンの首を跳ね飛ばそうとした。だが、オームギの身体は動かなかった。
(な……に……!?)
「二人とも、邪魔をする暇があるなら私の力となりなさい。さぁ、背後で今にも屈しそうな化け物の意識を奪うのです……!」
オームギとレンリは、ラボンの洗脳によりエーテルの動きを制御され、一切の身動きを取れなくなっていた。そして彼の言葉により、二人は意に反して守ろうとしていた存在に牙を剥く事となる。
歯を食いしばり必死に抵抗するオームギ。懐に潜ませた回収用のコアにより完全に敵の手には落ちていないが、それでも抗う事が精一杯であった。そして同じく洗脳を受けたレンリは、抵抗する事すら出来ず相棒達と共に攻撃の手を背後で苦しむ白蛇へと向ける。
攻撃をしてはいけないのに。白蛇の意識が奪われたその瞬間、この空間は崩壊するというのに。レンリは絶望を覚えながら、助けたい相棒達へ死へと繋がる命令を口にしてしまう。
「ハロ……エリ、ハル……ウェル……。砂乱の翼……ッ!!」
「ネオン!! 二人に触れろッッッ!!」
「…………!!」
レンリが攻撃するよりも先に、感情を乗せたシキの声が空間へ響き渡る。
シキの声を聞いたネオンは、すかさず二人へ触れラボンの術を解除。それと同時にレンリも自我を取り戻し、構えた腕を戻し相棒達へ出した攻撃の命令を取り消した。
暴れ狂う白蛇をネオンの力で止めようとするシキと、洗脳を終わらせ支配下に置こうとする赤の国の刺客ラボン。二組の勢力が白蛇に触れようとしたその時、双方の前へ立ち塞がったのはオームギと刺客の一人レンリであった。
「オームギ、やめろとはどういう事だ!? 奴の魔術により暴れる白蛇を止めるにはネオンが触れるしかない。ネオンの力ならお前もその身で感じただろう!?」
「分かっている。分かっているから、その子が触れたらダメなのよ……!」
「なに……?」
ネオンのエーテル吸収能力により、敵の洗脳から解放されたオームギ。
まとわりついていた敵のエーテルが、ネオンの手が触れた瞬間に溶けるように消えて行くのを彼女は肌で感じていた。だからこそ、エルフのエーテルの塊と化した白蛇に触れ、白蛇の存在そのものが消えてしまう事を彼女は恐れたのだ。
「この子には同胞のエーテルがたくさん眠っているはずなの! それに、こんな姿になってまで生き永らえていたのはコアからの供給に他ならない。もしネオンが触れてコアが壊れてしまったら……仲間の魂はまたこの砂漠を彷徨ってしまう。だから、その子が触れるのだけはダメなの!!」
「しかし……!」
オームギの言い分にも理解出来る部分はあった。シキ自身、ネオンの持つ能力については詳しく分かっていない。彼女のいる付近では空間全体へ効果の及ぶ術は無効化されていたり、彼女に触れる事でかけられた術から解放される事もあった。
だが物体の絡むエーテル術においては、込められたエーテルのみを吸収する性質から攻撃を無効化する事は出来ない。そして最大の弱点でもある、魔道具に触れると破壊してしまう性質。この能力の詳細がまだ判断付かないのだ。
体内へコアを吸収しているシキに彼女が触れても影響は無いが、それは完全に体内へ埋まっているからなのかもしれない。では額へと浮き出ている白蛇の場合どうなるのか。もしかするとオームギの言っているように、コアまで破壊されるかもしれないのだ。
そうなってしまえば、コアに眠るとされるシキの記憶はどうなるか。コアとネオンの関係性が分からない今、不用意にネオンが白蛇に触れるのはオームギの言う通り危険であった。
シキとオームギが言い争う横で、ラボンへと攻撃の手を向けるレンリ。彼の不審な行動を前にして、ラボンは心底不快そうに彼の意を聞き出す。
「レンリ君……。この期に及んで邪魔をするとは。今であれば聞き間違いとして処理します。退きなさい」
「……ダメだ! こいつは……この白蛇は俺達に『逃げろ』と言っている!! こいつの意識が奪われた瞬間、この空間は崩壊するぞ!!」
「…………何を言い出すかと思えば。自ら襲っておいて逃げろですか。私の支配下に置けば逃げる必要も無くなるのですよ。そうでしょう、レンリ君」
「暴走状態に追い込んだのはお前だろう! 俺は相棒達の病を取り除いてもらうためお前に協力しているんだ。だが長寿の血などというものは存在せず、その正体はエーテルの塊だった。仮にお前が長寿の力を手に入れたとして、お前はどうやってハロエリとハルウェルを救うと言う? このままお前に協力して生き埋めにされるぐらいなら、俺はこいつの言う通りここから脱出するぞ!!」
レンリがラボンへと協力する目的。それは最初から、相棒である二羽の鳥ハロエリとハルウェルの病を取り除くためであった。
生き物のエーテル研究を進め生態に詳しいラボンが言うには、長寿の血と呼ばれるものを飲ませ病を克服する必要があるとの事だった。だからレンリは、ラボン達が進める研究をいち早く成就させるため彼の力となっていた。そのために、オームギを襲い彼女の血を狙っていた。
しかし辿り着いた先は、橙のエーテルコアというエルフの持つエーテルそのものであった。レンリが信じていた薬とは似ても似つかない、身体を巡るエーテルそのものを塗り替える物質。それをもしラボンが手に入れれば、レンリの相棒達はどうやって病を治すというのか。
魔物すら駒として使い捨てる彼のやり方が最初から気に入らなかった。だが、それしかなかったからレンリは協力していた。それでも、今目の前の男は言葉巧みに周りの者達を操り、自らの悲願のための犠牲にしようとしていたのだ。
このまま彼に従っていては助けたい相棒達ごと見殺しにされる。そんな事だけは絶対に避けたかった。だからレンリは、彼の命令に反し白蛇の声に耳を傾けた。そして皆助かるための選択として、白蛇の声をその場にいる全員に届けたのだ。
レンリから白蛇の言葉を聞き、オームギはどうにか助ける方法が無いか考える。シキと白蛇の間へ立ち塞がるように立っていたオームギは後ろへと振り返り、悶え苦しむその姿を目に焼き付ける。
どうにか、ネオンの力以外で助け出す方法はないのか。白蛇を苦しめる力、その源を止める事が出来れば……!
オームギは咄嗟に振り返る。隣に立つレンリが手を向ける相手。白蛇に洗脳を行おうとする諸悪の根源の存在を。
「貴方を……ここで倒せば……!!」
一度シキへと向けた大鎌を、改めて倒すべき相手に構え直す。こいつさえ倒してしまえば。仲間達を殺し今もまだ魂を苦しめるこの敵を倒しさえすれば。
大鎌を握る拳に、何百年と生きて来た中で最大の力が込められる。とんがり帽子の端から、殺意を込めた鋭い視線が放たれる。
一撃で決める。
刺客も、魔物も、操られた同胞の亡霊も関係ない。一撃で倒してしまえば、それで全て終わるのだから。オームギは渾身の力で踏み込み、一瞬にしてラボンの首を跳ね飛ばそうとした。だが、オームギの身体は動かなかった。
(な……に……!?)
「二人とも、邪魔をする暇があるなら私の力となりなさい。さぁ、背後で今にも屈しそうな化け物の意識を奪うのです……!」
オームギとレンリは、ラボンの洗脳によりエーテルの動きを制御され、一切の身動きを取れなくなっていた。そして彼の言葉により、二人は意に反して守ろうとしていた存在に牙を剥く事となる。
歯を食いしばり必死に抵抗するオームギ。懐に潜ませた回収用のコアにより完全に敵の手には落ちていないが、それでも抗う事が精一杯であった。そして同じく洗脳を受けたレンリは、抵抗する事すら出来ず相棒達と共に攻撃の手を背後で苦しむ白蛇へと向ける。
攻撃をしてはいけないのに。白蛇の意識が奪われたその瞬間、この空間は崩壊するというのに。レンリは絶望を覚えながら、助けたい相棒達へ死へと繋がる命令を口にしてしまう。
「ハロ……エリ、ハル……ウェル……。砂乱の翼……ッ!!」
「ネオン!! 二人に触れろッッッ!!」
「…………!!」
レンリが攻撃するよりも先に、感情を乗せたシキの声が空間へ響き渡る。
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