ONE LIMIT

ゆきみまんじゅう

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疑問

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午前中に授業は終わり、海花の事を颯太に任せた俺は、身支度を済ませて椎菜の家に向かった。

予定では、颯太が海花を連れて遊びに行っているうちに、おれと椎菜がパーティーの準備をすることになっている。

昨日の件もあり、椎菜と2人きりというのは気まずかったが、仕方がない。
今更嫌なんて言える訳がないし、元はと言えば俺があんな話をしなければよかったんだ。

むしろ謝るにはちょうどいい。
学校ではお互いいつも通りに振る舞ったはずだ。
意外と椎菜は怒っていないのかもしれない。

そうして気持ちの整理をしているうちに、椎菜の家に着いた。
インターホンを鳴らそうとしたら、勝手に扉が開いたので、心臓が飛び出しそうになった。

「いらっしゃいませ。陸斗さん。」

そこにはいつもの笑顔で、椎菜がいた。
なので俺も笑顔で返して、家に入った。

椎菜の家は父親と2人暮らしということもあってか、やけに殺風景だ。
無駄な家具などがないというか、生活に必要な物しかない。

それは椎菜の部屋も同様だ。
女の子らしい物は何一つ置いておらず、勉強をするか、寝るくらいしかやれることがない感じだ。

逆にいえば、余計な物がない分、部屋の空いているスペースが広いので、こうして俺たちが寝泊まりする場所も確保できるということだ。

俺はひとまず、荷物を椎菜の部屋に置いてもらうことにした。

いつもとなんら変わらない様子の椎菜に一安心しながらも、やはり昨日の事はきちんと謝らなければならないと思った。

「椎菜、その…昨日は気分を悪くするようなことを言って、悪かった。ごめん…。」

すると椎菜は、キョトンとした表情を見せた。

「昨日、ですか?何かありましたか?」

この時俺は瞬時に理解した。
椎菜は昨日の話をなかったことにしたいのだ。
なら俺も、これ以上何も言う必要はない。

「いや、なんでもない。それよりも…。」

俺はリュックから色画用紙や折り紙を取り出した。

「せっかくだから、料理だけじゃなくて、部屋の飾り付けもしたいんだ。」
「それはいい考えですね。それでは早速やりましょう。」

すぐにリビングに向かった俺たちは、折り紙を折り始めた。
俺はうさぎや猫など動物系を、椎菜はひまわりや朝顔などの花を折っていった。

「椎菜、折り紙上手くなったな。」

昔2人で折っていたことを思い出しながら、俺は椎菜をほめた。

「えっ…⁉︎そっそんなこと、ないですよ…。」

椎菜は恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
そのせいで手が滑ったのか、思い切り折り間違えてしまった。

そんな椎菜がおかしくて、つい笑ってしまう。
今度は膨れっ面になった彼女の頭をそっと撫でる。

「ごめんごめん。もう笑わないから。」

こんなやりとりを繰り返しながら、俺たちは作業を進めていく。

折り紙で作った輪っかを壁にかけたり、折り紙を壁に貼りつけていった。
画用紙で文字を作り、それも一番目立つ場所に貼り付けた。

「ふう。結構時間がかかったな。」
「そうですね。そろそろ海花ちゃんたちが来てもおかしくないですね。」

その時インターホンが鳴った。

「グッドタイミングだな。」

俺たちは互いに頷くと、玄関に向かった。


「改めて、お誕生日おめでとう!」

俺はクラッカーを鳴らすと、海花を祝った。
次に颯太がシャンパンを思い切り開けたため、蓋が吹き飛んでしまった。

「ちょっと~。なにやってんの、颯太~。」
「嫌ぁ。シャンパンの威勢が良すぎだったぜ。」
「いや、お前のせいだろ。」

俺がツッコむと、その場で笑いが起こった。

やっぱりこの2人がいるだけで、賑やかになる。
椎菜と2人でいるのも悪くないが、やっぱり4人揃う方が断然いい。

わいわい食事を囲み、楽しい時間が流れる。

この楽しい時間が、当たり前ではないことを、俺は知っている。
あの時俺たちがああしていなければ、今ここで笑い合っていることはなかっただろう。

「ほら、ももちゃん。美味しそうでしょ~。全部陸斗にぃと椎菜が作ったんだよ~。」

俺があげた人形を膝下に抱き、海花は食事をあげるジェスチャーをした。

本当に持ってきたんだな。

「みなさん、お待ちかねのケーキですよ。」

その時、椎菜がキッチンからケーキを抱えて現れた。
みんながケーキに注目する中、俺は椎菜に目が向いた。

椎菜は微動だにせず、海花に釘付けだった。
いや、正確には海花の持っている人形にだ。

まるで親の仇を見るような様子を見て、もしかしたら、人形をもらった海花に嫉妬しているのではないかと思った。

このままでは嫌な流れになりそうだったので、俺はすぐにケーキを受け取り、ろうそくを立てた。

「俺が火をつけるから、颯太は電気を消してくれ。」
「へいへい。」

部屋の電気が落ちると、海花は勢いよく息を吹きかけた。

再び電気が付いたときには、もう椎菜は普通に戻っていた。
俺は一安心すると、ケーキを4等分に切り分けた。


その後は特にトラブルは起こらず、気がつけばもう寝る時間が迫っていた。

だがまだ興奮が収まらない俺たちは、椎菜の部屋に集まって、怪談話をすることにした。

じゃんけんで話す順番が決まり、俺が一番初めになった。

「ある日のこと。とある男が轢き逃げをしたんだ。その日の夜、電話が鳴り、『私、メリーちゃん。今、あなたの後ろにいるよ。』って言ったんだ。」
「いや、それじゃあもう、話が終わるっつーの。」

しまった。
もう結末を言ってしまった。

俺の話で悲鳴が上がるどころか、苦笑いが起こった。
これはもう、完全に失敗だった。

「は~い。じゃあ、次は私ね。」

今度は海花が、意気揚々と話し出した。

「ある日の夜、若い男が家に帰るために夜道を歩いていると、若い女に会ったの。その女は、赤いワンピースを着ていて、口には大きなマスクをしていたの。そしてその女は、『テンソウメツ』と言いながら、車の屋根を歩き回ったり、くねくねと踊ったりしていたの。」
「それ、なんか色々混ざってんだろ。」

すかさず颯太の鋭いツッコミが入った。
たしかにいろんな都市伝説が混ざっているのだが、想像したらそれはそれで怖かった。

「そうですね。みんなが都市伝説でいくのなら、私もその流れでいきますね。」

俺は思わず息を呑んだ。
椎菜は俺たちと違って、まともな話をするに違いないからだ。

「夢日記って、知っていますか?夢日記とは、寝ているときに見た夢を書いた日記のことです。夢というものは、現実ではあり得ないことが起こったりしますよね。人間は記憶の整理をするために夢を見るため、起きた途端に、夢の内容を忘れていきます。しかし夢日記を書き続けると、夢の記憶が残ってしまうため、夢と現実の区別がつかなくなり、発狂してしまうそうです。夢というものは、不安や恐怖が現れるものだそうです。それらを忘れないということは、嫌なことと向き合い続けなければいけないということです。なので、夢日記を書くのでしたら、それなりの覚悟をどうぞ。」
「それ、医学的にやべーやつじゃんか。笑えねーよ…。」

いやいや、笑うのもおかしいだろう。
まあこの流れなら、笑い路線だと勘違いしてもおかしくはないか。

海花の方は、すっかりビビってしまった。
まあこれが、本来の流れなのだ。

椎菜のおかげで恐怖路線になったところで、満を辞した様子で颯太が語り出した。

「発狂繋がりで、この村の近くにある、亜比土山について話すぜ。ご存知、入ったら狂うっていう、くだらねー噂のある森がある山だ。だけど、なんでそう言われるようになったは、知らねーだろ?なんでも昔、あの山の中で、ある儀式が行われていたらしい。それは、人を人ならざるものにするための儀式なんだとよ。んで、その儀式にかけられた人が、狂った様に暴れ回ったっちゅーことで、いつ日かそういう噂ができたんだってよ。」

颯太の話を真剣に聞いていたが、ある違和感が浮かんだ。

「その話、矛盾してないか?儀式っていうことは、輪廻神社が関係しているんじゃないのか。なんで自分たちで儀式をしたのに、わざわざ犠牲者を弔う必要があるんだよ。」
「お~、確かに~。」

俺に指摘され、颯太はしばらく考え込んだ様子だった。

「…。知るかそんなこと。外山さんにでも聞け!」

どうやら考えてもいい答えが思い浮かばず、やけくそになったようだ。
これ以上は、何を聞いてもダメそうだ。

「はい、そこまでです。もうそろそろ寝る支度をしましょう。」

キリがいいところで、椎菜が号令をかけた。

部屋に明かりがついたことで、午後11時を示す壁掛け時計に気が付いた。
もうこんなに時間が経っていたのかと驚きながら、俺と颯太は部屋を後にした。


俺と颯太は、椎菜の部屋の隣で寝ることになっている。
その部屋は、かつては椎菜の母親が使っていた場所だった。
今はベッドとタンスがあるくらいで、ほとんど何もなかった。

疲れているのもあり、俺たちは寝る準備を済ませ、俺は床に敷いた布団に横になった。

それから数分後、颯太がまだ起きているのを確認してから、俺は話しかけることにした。

「なあ、颯太。なんでさっき、あの山の話をしたんだ?だって、あの場所は…。」

この先は、口に出したくなかった。
それに言わなくても、颯太なら理解できる筈だ。

「さあな。まあ、気にすんなよ。もう済んだことだしよ。」

そうやって気に留めずにできたら、どれだけ気持ちが楽だろうか。
だけど俺には、どうしてもできなかった。

これ以上話す気がなくなった俺は、寝る挨拶をして、そのまま眠りについた。
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