ONE LIMIT

ゆきみまんじゅう

文字の大きさ
5 / 8

禁断

しおりを挟む
ここは一体、どこだろう。

どこかの森のようだが、炎に巻かれ、本来の姿を失っていた。

このままこの場に留まれば、俺は焼け死んでしまうだろう。
なのに何故か、逃げようとは思わなかった。

俺は、何を知りたいのだろうか。
自分でもよくわからないまま、前に進んで行く。

しばらくすると、森の開けた場所にたどり着いた。

そこにあったものを見た瞬間、俺はここに来たことを後悔した。

中央にあったもの、それは石を積み上げて造られた祭壇だった。

人1人くらいを寝かせられるほどの祭壇、そこに誰かが横になっている。

俺は瞬時に、あの時の巫女だと気づいた。
直感で逃げなければと思ったが、体が動かない。

次第に巫女が体を起こし、俺の方へ振り返る。
その目には、正気を感じられず、巫女はただ俺を見つめていた。

その表情は、まるで人形だった。

「うわああああ!!」

叫ぶと同時に、体の硬直が解け、すぐに振り返って走り出した。
しかし行手を次々と炎に阻まれ、とうとう逃げ道がなくなってしまった。

ふと背後に気配がなくなり、恐る恐る振り返る。
やはりそこには、渦巻く炎しかない。

これからどうすればいいかと悩んでいたら、突然背後から右腕を掴まれた。

恐怖のあまり、悲鳴すら出なかった。

振り返りたくはない。
そう思っているのに、体は勝手に後ろに向いた。

そこには先ほどとは打って変わって、不敵な笑みを浮かべていた。

「あなたは、ここで──。」


「うわあああああ!!」

気がつくと俺は、布団から飛び起きていた。
荒い呼吸を整えて、横に目をやると、ベッドでは颯太がすやすやと眠っていた。

時間を見ると、ちょうど朝の6時だった。

夢だとわかって少し気持ちが落ち着いたが、心臓はまだバクバクしている。

普段なら、起きると夢の内容は薄れていくのだが、俺の脳裏から巫女の姿が消えずにいたからだ。
それに俺は、あの巫女を知っている気がしてならなかった。

「あの巫女、何を言っていたんだ?」

どうしても気になって、必死の言葉を思い出そうとした。

その時、俺の頭に激痛が走った。
まるでそれは、思い出すなと警告しているようだった。

「…きっと、ただの夢だ。気にするな…。」

俺は布団から出ると、カーテンを開けた。


それからは気を取り直した俺は、みんなと朝食を取ったあと、川遊びに出かけた。
その川は山の上流にあり、昔からの遊び場だった。

川に着いた後、俺たちはそれぞれに水着に着替えた。
そして各々に、持参物を取り出した。

「ねえ~。ビーチボールしようよ~。」

そう言って海花は、スイカ模様のビーチボールを両手で持った。

「いいや。暑いこんな日は、水鉄砲バトルだろーよ!」

一方颯太は、水鉄砲を二丁構えた。

「え~、やだ~。ビーチボールがいい!」
「うるせー。こういうときは、年上に従うもんだろ。」
「なんで~。年上なんだから、遠慮してよ~。」

またいつものように、2人が言い争いを始めた。

俺はというと、どちらでもよかった。
何故かというと、今日はなんだか遊ぶ気分ではなかったからだ。

「はい、そこまで。こういうときは、じゃんけんで決めましょう。」

そこへ椎菜が割って入り、喧嘩を止めた。
颯太と海花は、お互い納得した様子で、じゃんけんを始めた。

「やった~!海花の勝ち。」

海花はガッツポーズを決めると、大はしゃぎで飛び跳ねた。
負けた颯太は、渋々水鉄砲を鞄にしまった。

「そんなに落ち込まないで。今度来たときに、水鉄砲で遊びましょう。」

椎菜は慰めるが、颯太は不貞腐れたままだ。

「ほら、行きますよ。」

すると椎菜はまんべんの笑みを浮かべながら、颯太の左手を掴んで海花の元へ引きずっていった。

相変わらず、椎菜を怒らせると怖いな。
そう思いながら、俺も重い腰を上げた。

「それじゃあ、チーム分けですが、どうやって決め──。」
「陸斗にぃがいい!」

椎菜の言葉を遮って、海花が俺に抱きついた。

「ふん、なら臨むところだ。行くぜ、椎菜!」

すでに元気を取り戻していた颯太は、臨戦態勢に入った。

椎菜は少し困った顔で俺を見つめた後、颯太の元へ向かった。

もしかしたら、俺と組みたかったのかもしれない。
それでも椎菜は、海花に譲ったようだ。

こうして、俺たちの対決が始まった。

ビーチボールといっても、当然ネットやコートはない。
なので互いにボールを回し、落とした方が点を取られるというルールになった。

序盤は互角の戦いだったが、俺が本調子ではないこともあり、次第に押されていった。

「受けてみやがれ。俺の必殺技、超スーパーウルトラアターーック!!」

颯太の鋭いアタックについていけず、俺の頭にボールが直撃した。

「──ッ!」

あまりの衝撃に、俺は頭を押さえてその場に蹲った。
すぐに椎菜が、心配して駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか⁉︎すぐに冷やさないと。」

そう言って椎菜は鞄からハンドタオルを取り出し、それを川に浸けて濡らした。

「ほら、颯太くん!ぼうっとしていないで、陸斗さんを木陰まで運んでください!!」
「はっはい。わかりました!」

椎菜に促された颯太によって、俺は近くの木の根元に寝かされた。
それから椎菜はタオルを絞り、俺の頭に乗せた。

俺にとっては大したことなかったのだが、椎菜はすっかり慌てふためいていた。

「どうしよう…。陸斗さんの体調が良くないってわかっていたのに。私のせいで…。」

気が動転している椎菜は、俺の手当てをするために、一旦家に帰って救急セットを持ってくると言い出した。
俺は止めようとしたが、椎菜は話も聞かないまま、颯太も連れて家に戻っていった。

残された俺の元に、海花が歩み寄る。

「頭、まだ痛いの?」

心配そうに海花は、俺の頭を撫でた。

「いや、もう平気だ。」

俺は体を起こし、健在ぶりを見せた。
その姿に、海花に笑顔が戻った。

「よかった~。どうなるかって心配したよ~。…立てる?」

差し伸ばされた手を握った俺は、海花に引っ張り起こされた。

椎菜の家はここから30分ほど歩いた先にある。
ということは、1時間は帰ってこないのか。

その間、海花と何をして時間を潰そうかと考えていたら、いつの間にか海花が虫かごを持っていた。

「ねえ、陸斗にぃ。この前の話、覚えてる~?実はね、この近くなの、秘密の場所。」

そういえばそんな話をしていたな。
一体どこへ向かっていたのかとは思っていたが、まさかこんな山奥だとは思わなかった。

「ねえ~、今から行こうよ~。陸斗にぃだけに、教えてあげる。」

ちょうど暇を持て余していたので、俺はその誘いに乗った。


すぐ近くだと言っていたので、気軽についていったのだが、なかなか目的地に着かない。
進めば進むほど足元は険しくなり、とうとう獣道のようになった。

「おい、いったいどこまで行くんだよ?」

俺の質問に対して、海花は振り向くこともなく、突き進んでいく。
仕方なく俺も、黙ってついていくしかなかった。

それからしばらくすると、『立ち入り禁止』と書かれた看板がいくつも立てられている場所に着いた。
さらにはそこにはロープが張り巡らせてあり、完全に行く手を阻んでいた。

俺はこの場所に見覚えがあった。
この先が例の、入ったら狂うとされる場所だったのだ。
しかも俺たちは、ここであいつを──。

しかしどうして海花は、わざわざここに来ているのだろうか。
海花にだって、いい思い出ではないはずだ。

それにも関わらず、海花は平然とロープを潜ると、さらに進んでいく。

正直これ以上先には行きたくなかったが、今更引けるわけもない。
渋々俺も、ロープを跨いでさらに進んだ。

するとすぐに、不思議な光景を目にする。

至る所に、赤、青、黄色が混ざったような色の花が咲き乱れていた。
さらにそこで飛び交う蝶も、同じような色をしていた。
見た目はアゲハチョウのようだが、突然変異だろうか。

あの時は夜だったので、こんな光景だったとは、全く気づかなかった。

俺が周囲を眺めている間、海花は蝶を素手で捕まえては虫かごに入れている。
俺のことなど、全く眼中にない様子だった。

しばらくその様子を眺めていたら、あることに気がついた。

まさか、ここは、夢の中に出てきた森…?

ということは、もしかすると──。

嫌な予感がしつつも、何故か足はあの場所へと向かった。
そしてそれは、やはりあった。

「あっ…ああっ……!!」

あの祭壇を見た瞬間、俺の頭の中で、何かの光景がフラッシュバックした。
それと同時に、さらに激しい頭痛に襲われ、意識が薄れていく。

「陸斗にぃ⁉︎」

近くで海花の声が聞こえた気がした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

だから言ったでしょう?

わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。 その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。 ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

処理中です...