乙女ゲームのバグ令嬢〜婚約破棄からの断罪劇が始まるようですが、冤罪は良くないと思います!〜【完結】

モナカ

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2部

2-4


※視点変わります

◇◇◇◇***◇◇◇◇***◇◇◇◇***◇◇◇◇

王城内の騎士棟側には鍛錬場が広がっている。
第一騎士団の騎士となったオリオン・レイスは午前中の鍛錬を終えて騎士棟に戻る途中で足を止めた。
騎士棟は第一棟、第二棟、第三棟で分かれているが渡り廊下でつながった建物を総じて「騎士棟」という。
自分の戻るべき第一棟ではなく第二棟に向って歩くチョコレート色の髪を見つけ、昼の食堂へと向かう仲間から離れ、気付かれぬよう近く。

チョコレート色の髪は既婚者らしく一つに纏められ、白いうなじが見えている。好奇心旺盛な榛色の瞳がキョロキョロとあちこちを見て「奥様、余所見しない!」後ろに従う侍女に叱られている。両手で籐籠を持って深緑色のワンピースのスカートを揺らし、第二棟ヘ向って足早に進む。目的の人物を見つけ、嬉しそうに表情を綻ばせた。

「息子よ!お母様と愛妻弁当が来ましたよ!」
「どういうことですか?」

籐籠を受け取った男性が苦笑いで問う。脇を通り食堂へと向かう第二騎士隊の者達が「お母様」「愛妻」の言葉に首を傾げてゆく。

「ですから、貴方の愛妻キャメロンさんが作ったお弁当を泊まり込みお仕事で頑張る息子のために、母が配達のお使いに来たのです!」

ただお使いをしただけなのに、彼女はなぜか自慢げにドヤ顔をしている。

「左様ですか。ありがとうごいます、母上」
「あと偵察です」
「はい?」
「騎士様はモテモテで入れ食いだと聞いております」

彼女のそれは一体どこからの情報なのか。

「身重の嫁の代わりに、もしも仕事を理由に女の影でもあったら母は責任を持って爆破しなければなりません!」

拳を握り、きりりとした表情で強く宣言する彼女。爆破とはなんだ?

「爆破……(何を、どこを!?)それはありえません。団長が体調を崩されているので、副団長として滞る仕事を処理して補うべく、こちらに泊まり込んでいるだけです」
「…では、爆破は?」
「必要ありません。それから何度も申し上げますが、大衆紙をお読みになるのはお控えください」

少し残念そうな彼女の後ろで侍女がため息を

「団長様のお見舞いは赤蝮と生卵どちらが良いでしょう?」
「なぜその二択!?」

反射的侍女が突っ込んでしまった様だ。

「ただの風邪だそうですから、あと二、三日もすれば復帰なさるでしょう。お見舞いは必要ないかと思います」

息子と呼ばれた男は苦笑して彼女を見送った。彼はそのまま近くのベンチに座り、籐籠から小さな手紙を取り出して読むと、サンドイッチも取り出して食べ始める。
その場を離れようとした時、小枝を踏んで物音を立ててしまった。

「ずっとそこで見ていらっしゃったんですか?」

声をかけられ、そちらを向く。サンドイッチを手に持ったまま、探るような鋭さを持ってブルーサファイアの瞳がこちらを見ていた。

「失礼しました。第一騎士団 オリオン・レイスと申します」

こちらの名前を聞いて、彼は一瞬目を瞠った。

「レイス伯爵家の…確か先日、近衛隊への配置をけったとか」
「はい」

近衛は騎士の憧れだが、近衛になるためには実力はもちろん、貴族子息である生まれも関係してくる。父が伯爵となってレイス家の兄弟に声がかかった。だがオリオン・レイスはこの申し出を断った。自分が王族の…第一王子妃の側に近づくべきではないと考えたからだ。ちなみに兄ハロルド・レイスは近衛騎士団団長の秘書官補佐として働き始めている。

「ジーク・ボルト、第二騎士団副団長を勤めています」

一呼吸置き、握る拳に力を込めたオリオン・レイスが意を決したように尋ねた。

「…私が聞けた義理ではないのですが……彼女は、元気にしていますか?」
「全くだ。貴方が聞けた義理ではありませんね」

彼からの嫌味を受け止め、瞼を伏せる。
ーーそれでも知りたい。彼女がどうしているのか

「元気にしていると思いますよ。もうじき私の妻に子が生まれるので、それをとても楽しみにしているようです。庭で甲虫を獲ったり、鹿を追いかけてみたり、畑仕事をしてみたり」

その様子を思い出しているのか、ジークは軽く笑いながらサンドイッチを口に放り込んでいる。

「そう…ですか」
「ただ、屋敷の外にはあまり出ようとしない。今日も妻がわざと使いを頼んで外に出したようです。様子を見てこれからも頼むつもりだと書いてありましたから、またこちらで見かけることもあるでしょう」
「!」

その言葉に知らずオリオンは伏していた顔を上げた。
ーーまた、彼女の姿を見られるかもしれない

「ありがとうございます」深く頭を下げ、去って行く男の背中を見送りながら残りのサンドイッチをつまむ。
最近気力を取り戻した父は、少々変わり者の新妻を愛でることに楽しみを見出しているようだ。最愛の妻も当初年若い子爵令嬢を母に迎えるということで、緊張し警戒もしていたようだが、今は妹のように案じて何くれと無く世話を焼いている。自分にとってもすっかり放っておけない存在となっている義理の母。その彼女を傷つけた男…

「さて、あの男のことを報告すべきかどうか…」



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