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2部
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旦那様の葬儀がしめやかに行われました。
社交の場に出ることも結婚式もありいませんでしたから、この場が初めて「ボルト男爵夫人」としての公の場です。
旦那様に恥じぬよう淑女として毅然とした態度で、お客様をお迎えいたします。
ご友人や騎士団の同僚だった方々、私の実家の家族も顔を出してくれました。落ち着いたら実家に戻っておいでと言ってくれましたが、今は何も考えられません。
驚いたのはシセーラ・フロスト公爵令嬢が来てくださったことです。数ヶ月前から王都にお戻りになっているとは聞いていましたが、来てくださるとは思いませんでした。少し大人びて美しさを増したシセーラ様は、赤ん坊を抱く私を見て「お産みになったのですか!?」と驚かれていましたが、孫です。と紹介すると、さらに驚かれたご様子でした。
「あまり気を落とされませんよう…」
「ありがとうございます」
「ご結婚されたとお手紙を頂いた時は、悔やみました。側にいれば私にも何かできることがあったのではないかと、もっと良い」
「シセーラ様」
できる限りの笑顔でシセーラ様の言葉を止めさせていただきました。
どうかそれ以上仰らないでください。
私の結婚は可哀想なものであったと、思ってほしくはないのです。
ーー私は幸せでした。だから、どうか…
あまり上手には笑顔を作れなかったようです。シセーラ様の方が泣きそうな表情になってしまわれました。
そっと私の手を取り「落ち着いたら色々お話を聞かせてくださいね。私も話したいことがいっぱいあるの」と微笑でくださいました。
さらに驚いたことに、
「…オリオン様?」
あの頃より身長がさらに伸びて、騎士らしい体格に。漆黒の髪は少し伸びて後ろに流されて、切れ長のアメジストの瞳は相変わらず神秘的です。
呆然と立ち尽くす私の代わりに、息子が挨拶をしてくれました。どうやら騎士団で息子と顔見知りだったようです。初耳ですよ!
「では、あれは幻覚ではなかったのですね」
「むしろ幻覚で済ませておられたのですか、母上…」
息子が残念なものを見る目で見てきます。致し方ありません、今回は認めましょう。
ロバートがグズりだしてしまい、息子とキャメロンさんが外へ連れ出しあやしています。
オリオン様は棺の前で静かに旦那様とお別れを済ませ、献花され、こちらに戻ってこられました。
「…ありがとうございました」
動揺を抑えてボルト男爵夫人としてきちんと礼をします。旦那様の最期に泥を塗る真似は致しません。
「………」
「………」
けれど、次の言葉が出ません。
何か言わなくてはと思うのに、口を開いたら首元まで渦巻く感情が堪えられなくなりそうで
「…大丈夫か?」
「………っ」
やめてください、こんな時に優しい声で聞かないで
その紫の瞳でまっすぐこちらを見ないでください
「セレナ」
そんな風に呼ばないで、溢れてしまうから
「…だいじょうぶじゃ、ありません」
「…そうか」
「そうか」じゃないんです、オリオン様。
私は堪えなきゃいけないんです。
男爵夫人として毅然としてなきゃいけないんです!
だからこんな風に泣いてはいけないんです。
だから、抱きしめないでください
溢れたものが止まらなくなってしまうから
社交の場に出ることも結婚式もありいませんでしたから、この場が初めて「ボルト男爵夫人」としての公の場です。
旦那様に恥じぬよう淑女として毅然とした態度で、お客様をお迎えいたします。
ご友人や騎士団の同僚だった方々、私の実家の家族も顔を出してくれました。落ち着いたら実家に戻っておいでと言ってくれましたが、今は何も考えられません。
驚いたのはシセーラ・フロスト公爵令嬢が来てくださったことです。数ヶ月前から王都にお戻りになっているとは聞いていましたが、来てくださるとは思いませんでした。少し大人びて美しさを増したシセーラ様は、赤ん坊を抱く私を見て「お産みになったのですか!?」と驚かれていましたが、孫です。と紹介すると、さらに驚かれたご様子でした。
「あまり気を落とされませんよう…」
「ありがとうございます」
「ご結婚されたとお手紙を頂いた時は、悔やみました。側にいれば私にも何かできることがあったのではないかと、もっと良い」
「シセーラ様」
できる限りの笑顔でシセーラ様の言葉を止めさせていただきました。
どうかそれ以上仰らないでください。
私の結婚は可哀想なものであったと、思ってほしくはないのです。
ーー私は幸せでした。だから、どうか…
あまり上手には笑顔を作れなかったようです。シセーラ様の方が泣きそうな表情になってしまわれました。
そっと私の手を取り「落ち着いたら色々お話を聞かせてくださいね。私も話したいことがいっぱいあるの」と微笑でくださいました。
さらに驚いたことに、
「…オリオン様?」
あの頃より身長がさらに伸びて、騎士らしい体格に。漆黒の髪は少し伸びて後ろに流されて、切れ長のアメジストの瞳は相変わらず神秘的です。
呆然と立ち尽くす私の代わりに、息子が挨拶をしてくれました。どうやら騎士団で息子と顔見知りだったようです。初耳ですよ!
「では、あれは幻覚ではなかったのですね」
「むしろ幻覚で済ませておられたのですか、母上…」
息子が残念なものを見る目で見てきます。致し方ありません、今回は認めましょう。
ロバートがグズりだしてしまい、息子とキャメロンさんが外へ連れ出しあやしています。
オリオン様は棺の前で静かに旦那様とお別れを済ませ、献花され、こちらに戻ってこられました。
「…ありがとうございました」
動揺を抑えてボルト男爵夫人としてきちんと礼をします。旦那様の最期に泥を塗る真似は致しません。
「………」
「………」
けれど、次の言葉が出ません。
何か言わなくてはと思うのに、口を開いたら首元まで渦巻く感情が堪えられなくなりそうで
「…大丈夫か?」
「………っ」
やめてください、こんな時に優しい声で聞かないで
その紫の瞳でまっすぐこちらを見ないでください
「セレナ」
そんな風に呼ばないで、溢れてしまうから
「…だいじょうぶじゃ、ありません」
「…そうか」
「そうか」じゃないんです、オリオン様。
私は堪えなきゃいけないんです。
男爵夫人として毅然としてなきゃいけないんです!
だからこんな風に泣いてはいけないんです。
だから、抱きしめないでください
溢れたものが止まらなくなってしまうから
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