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1章 暗殺者から冒険者へジョブチェンジ!
7、ケイはバイコーンと手合わせする
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整備されていない石や穴ぼこだらけのけもの道をガタガタと二頭立ての馬車が進んでいく。
御者席にはエリオットさんの店の従者、ハッシュさんが乗って手綱を引き、その隣にエリオットさんが座っている。二人とも細身なのでそんなに御者席は狭そうじゃないけれど、道が悪くて馬車が揺れるのには閉口しているようだ。
馬が引くのは幌のついた箱型の荷車で、普段はそこに荷物と共に護衛として雇った冒険者を一人ないし二人ほど乗せるのだが、今回は誰も乗っていなかった。
それは僕たちがエリオットさんの護衛をしているからだった。
僕がレオンハルトのベッドを占領して寝てしまった日。あの後、レオンハルトは再び食事処へ下りて、エリオットさんと飲んだらしい。
その時に、エリオットさんの次の行き先が辺境の地ライムライトであり、レオンハルトも僕を連れてライムライトへ戻ろうと思っていたことから、どうせ行き先が同じなんだから、同行ついでに護衛もしてやろうという話になったようだ。
エリオットさんからすれば護衛を雇う金が浮いたのみならず、一般の護衛よりもはるかに強い人物が同行してくれることになりずいぶんと恐縮していたのだが、天幕と、酒を含む食事の提供をエリオットさん側が持つということで話が決まった。護衛代よりうわばみのレオンハルトの酒代の方が高くつくのではないかと思ったのは秘密だ。
そんなわけで、僕たちはライムライトへ向けて、エリオットさんたちの荷馬車のあとを、馬でついて走っているという訳だ。
馬といっても、乗っているのは角が二本ある馬の魔獣、バイコーンだ。レオンハルトが怪我をして動けなくなっていたバイコーンを拾い、治療してやったら懐かれたので、そのたてがみの色から『青白色』と名づけて従魔にしたんだそう。
ペイルは最初、僕を乗せるのに難色を示していた。その様子を見たレオンハルトはペイルの鼻先に手を当て、落ち着いたトーンで何かを話していたかと思うと、一つ頷いてから僕の方を向いた。
「よし! んじゃ、ケイは今からペイルと手合わせしろ。勝ったら背中に乗ってもいいって言ってるから」
従魔契約をしているからなのか、レオンハルトはペイルの言っていることがなんとなく分かるそうだ。
レオンハルトは当然のようにペイルの背に二人乗りする気でいた。通常、雇った護衛は荷台に乗るので、僕も同じような扱いにしてもらえればわざわざペイルと手合わせする必要もない、そう提案したが首を横に振られた。
「だってよォ、一頭の馬に二人乗りするのが普通の恋人同士ってモンだろ?」
どこ情報だろう、それ。
「なぁ~~。頼むって。一緒にペイルに乗ってイチャイチャしてくれよ~~」
「………………」
SSS級冒険者がこんな残念な感じでいいのだろうか……。ペイルも呆れたのかブルルンと鼻を鳴らした。
僕もペイルも不満そうな顔をしているのに気付いたのか、レオンハルトは自分のマジックバッグをゴソゴソと漁りだし、中から鈍色に光る籠手を取り出した。
「あ、それ僕の!」
思わず声を上げた。そのガントレットは、レオンハルト暗殺失敗の時に取り上げられた僕の武器の一つだ。肘から手首を守る本来の防具の役目の他に、相手を殴るのにも使えるし、継ぎ目には暗器を仕込む細工をしやすい。材質は王蛇の牙で、魔法を弾いてくれる効果があるため、盾の代わりにもなる優れものだ。
「取引だ。ガントレットを返して欲しかったらペイルと手合わせしろ。勝てばコレを返してやるし、これから先、俺がいない時でもペイルに乗せてもらえる」
「う……」
二人で馬の背に乗ってイチャイチャは絶対嫌だ。でもガントレットを返してもらえれば、魔物や盗賊に襲われた時に戦うのに役立つし、急に足が必要な事態に陥る時があるかもしれない。
「……分かった。ここでやる?」
「裏でな」
敷き藁がたっぷりと積まれた厩舎からペイルを連れ出し、宿の裏の広場へと移動した。広場の隅には井戸と物干しがある。洗われて真っ白になったタオルとシーツが風にはためいて目に眩しい。レオンハルトは被害が出ないように建物の前に立った。
「制限時間は十分間。どっちかが戦闘不能あるいは負けを認めた場合は時間前でも終了な~~。ケガしたら治癒するから安心しろ」
治癒魔法は魔力を持つ者なら誰にでも使え、簡単な怪我くらいならすぐ治る。レオンハルトが僕の抜けた歯の痕を治してくれたのも治癒魔法だ。一方、より深刻な怪我などは聖職者や光属性持ちの回復職に回復をしてもらったり、ポーションで治す。
広場の真ん中でペイルと対峙する。バイコーンは頭に付いている二本の角での攻撃、体当たり、噛みつき、後脚による蹴りがある。しかしどれも近距離攻撃なので、近寄らせないようにしつつ遠距離から攻撃すれば、そこまで勝つのは難しい相手じゃない。
ーーはずなんだけど。
「んじゃ、はじめ」
やる気のなさそうなレオンハルトの声に、かぶせるように嘶きを上げたペイルが僕に向かって突進し、目の前でジャンプして後ろに回り、そのまま後脚でキックしてきた。咄嗟に片手を地面につけて後ろ向きに回転して回避した。いわゆるバク転というやつだ。
「【氷陣】!」
ペイルに近づかせないように僕の周りを氷のフィールドにする。足元の地面がピキピキと音を立てて凍り、僕を取り囲むように何本もの氷の氷柱が立つ。
「【氷球】」
そして幾つもの氷の球を作って一部はペイルに向かって飛ばし、いくつかは自分の周りに浮かしていつでも放てるようにしておく。ペイルは素早く動いて球を避け、当たりそうになった球は首を振って、角で器用に弾き落とした。
球を避けていたペイルだが、球が残り少なくなったところで急に立ち止まった。
瞬間、辺りの空気が一気に凝縮したような感覚がした。周囲の魔素が集まってペイルの身体をくるくると回り、二本の角に凝縮していく。魔素とは空気や草花、土、鉱物など、この世の全てのありとあらゆるものに存在する物質で、生き物は自然から魔素を取り込んで心臓で魔力に変換し、それを動力エネルギーとして魔法を使う。
ペイルの角と角の間に目も眩むような光の筋が何本も走り、バチバチッという音が聞こえる。
これはーー雷?
まさか。バイコーンは魔法は使えないはず。
バチン、という音と共に二本の角から雷撃が撃ち出される。それは途中で一つの大きな塊になり僕を襲う。
「マジかよっ! バイコーンが魔法使えるなんて聞いたことないっ!!」
目の前の氷に大きく罅が入った。
膝立ちで何度も空気を取り込んで息を整える。
とっさに張った防御魔法【氷壁】が間に合った。氷には割れ目が入り、今にも崩れ落ちそうだ。
雷撃が来ると思った瞬間、僕は水魔法で純水を出し、凍らせて壁にした。普段は空気中に含まれる水分を冷やして氷にするが、空気中の水には不純物が入っているため電気を通してしまう。そこで水魔法で電気を通さない純水を出し、凍らせて壁にしたのだ。
短縮詠唱出来て良かった……。普通の魔法士だと「氷よ、壁となりて攻撃を防ぎ全てのものを守れ」といった長ったらしい詠唱になり、氷の防御が間に合わなかったところだ。
「はーーい。しゅーりょーーう」
レオンハルトの間延びした声がした。時間切れだ。僕とペイルどちらにも怪我はなく、手合わせは引き分けとなった。
レオンハルトにたてがみを撫でられたペイルは、嫌々ながらも僕の肩にコツンと頭を当てた。頭をぐいぐいとこすりつけるのではなくソフトに押し付けてくるのは、親愛の証だと言ってレオンハルトは笑った。どうやら僕はペイルのお眼鏡に適ったらしい。
「それはそうとペイルは凄いね。雷撃が使えるなんて」
ペイルを褒めたら、どうだとばかりに鼻をグンと伸ばした。
「普通のバイコーンは魔法なんて使えない。そいつはユニーク個体だ。ペイルは雷属性の青白色が体表に出てるだろ? ペイルは色が違うってだけで親からも仲間からも見捨てられたんだ」
ユニーク個体というのは、神様から何かしらの『恩恵』を受けた特殊個体のこと。ペイルの場合は雷神の恩恵を受けたのだろう。
「身体の色を見て、もしやと思って鑑定できるやつに見てもらったら、ペイルが雷属性を持っててびっくりしたぜ。で、俺がテキトーに魔力の使い方を教えてやったら、すぐにさっきの雷撃魔法が撃てるようになった」
バイコーンに魔法を教えようと思ったレオンハルトもすごいと思うが、教えられて雷撃魔法を使えるようになったペイルもすごい。
ペイルとの手合わせは引き分けだったけれど、籠手は無事レオンハルトから返してもらった。僕はほくほくとさっそく自分のマジックバッグに片付けた。残りの武器も返してもらいたいが、脱走の危険性がなくなるまでは無理だろう。
一応、今のところは逃げる気はないのだけれど。
こんな経緯があってペイルが僕を背に乗せてくれたのだが、当然のようにレオンハルトが僕の後ろに乗り、両腕の間に抱き込むような形で前に手を回して手綱を握ったのは言うまでもない。
そして荷台で積み込み作業をしていたエリオットさんとハッシュさん、外まで見送りに出てくれたドーラさんがペイルに二人乗りした僕たちに生暖かい目を向けたのだった。
ああ。ゆっくりと一人で乗れる従魔が僕も欲しい。
……………………………………………………………………
【おまけの補遺】
(side.ペイル ボクのご主人サマ)
ボクはバイコーンのペイル。いい名前でしょ。ご主人サマが付けてくれたんだ。
ボクはね、生まれた時からおとうさんやおかあさんやきょうだいたちとからだの色が違ったんだ。群れのみんなは艶やかな漆黒の身体に黒いたてがみだったんだけど、ボクはなんだか黒いペンキが剥げてしまったような薄青灰色の身体に青白いたてがみだったの。
周りからは色がどうして自分たちと違うんだとか、灰をかぶったみたいで汚いとか言われて仲間外れにされて、いじめられるようになったんだ。おとうさんもおかあさんもきょうだいたちもみんな見て見ぬフリで、傷つけられてケガしても誰もボクを庇ってくれなかった。
そんなある日、ボクは群れの仲間に寄ってたかっていじめられて、高い崖の上から落とされた。きっともう群れにボクのような異分子はいらなかったんだろう。群れの仲間もおとうさんもおかあさんもきょうだいたちも誰も助けにきてくれなかった。途中で樹に引っかかってボクは死ななかったけど、ケガをしてその場から動けなくなっちゃった。
でもそこに颯爽と現れたのがボクのご主人サマのレオンハルトさん。竜人だからか魔力が滲み出るほど強くて、近くにいると魔力に当てられてすっごく怖いけれど、実際はボクを助けてくれて、食べ物もくれたから、とっても優しい良い人なんだよ。
助けてもらった時、一生ボクはこの人についていこうと決めたんだ。絶対にボクの背にはご主人サマしか乗せない! そう思ってたのに……。
こんなヤツよりもずっとずーーっとボクのほうがご主人サマのことが好きなんだぞ! いくらご主人サマのつがいだからって、こんな弱そうな人間なんて絶対に背に乗せてやるもんかっ! 強いご主人サマを守れるような、ご主人サマにふさわしい人間になってから出直してこいっ!!
ヒヒ~~ン、この人むっちゃ強かったーー!
……………………………………………………………………
御者席にはエリオットさんの店の従者、ハッシュさんが乗って手綱を引き、その隣にエリオットさんが座っている。二人とも細身なのでそんなに御者席は狭そうじゃないけれど、道が悪くて馬車が揺れるのには閉口しているようだ。
馬が引くのは幌のついた箱型の荷車で、普段はそこに荷物と共に護衛として雇った冒険者を一人ないし二人ほど乗せるのだが、今回は誰も乗っていなかった。
それは僕たちがエリオットさんの護衛をしているからだった。
僕がレオンハルトのベッドを占領して寝てしまった日。あの後、レオンハルトは再び食事処へ下りて、エリオットさんと飲んだらしい。
その時に、エリオットさんの次の行き先が辺境の地ライムライトであり、レオンハルトも僕を連れてライムライトへ戻ろうと思っていたことから、どうせ行き先が同じなんだから、同行ついでに護衛もしてやろうという話になったようだ。
エリオットさんからすれば護衛を雇う金が浮いたのみならず、一般の護衛よりもはるかに強い人物が同行してくれることになりずいぶんと恐縮していたのだが、天幕と、酒を含む食事の提供をエリオットさん側が持つということで話が決まった。護衛代よりうわばみのレオンハルトの酒代の方が高くつくのではないかと思ったのは秘密だ。
そんなわけで、僕たちはライムライトへ向けて、エリオットさんたちの荷馬車のあとを、馬でついて走っているという訳だ。
馬といっても、乗っているのは角が二本ある馬の魔獣、バイコーンだ。レオンハルトが怪我をして動けなくなっていたバイコーンを拾い、治療してやったら懐かれたので、そのたてがみの色から『青白色』と名づけて従魔にしたんだそう。
ペイルは最初、僕を乗せるのに難色を示していた。その様子を見たレオンハルトはペイルの鼻先に手を当て、落ち着いたトーンで何かを話していたかと思うと、一つ頷いてから僕の方を向いた。
「よし! んじゃ、ケイは今からペイルと手合わせしろ。勝ったら背中に乗ってもいいって言ってるから」
従魔契約をしているからなのか、レオンハルトはペイルの言っていることがなんとなく分かるそうだ。
レオンハルトは当然のようにペイルの背に二人乗りする気でいた。通常、雇った護衛は荷台に乗るので、僕も同じような扱いにしてもらえればわざわざペイルと手合わせする必要もない、そう提案したが首を横に振られた。
「だってよォ、一頭の馬に二人乗りするのが普通の恋人同士ってモンだろ?」
どこ情報だろう、それ。
「なぁ~~。頼むって。一緒にペイルに乗ってイチャイチャしてくれよ~~」
「………………」
SSS級冒険者がこんな残念な感じでいいのだろうか……。ペイルも呆れたのかブルルンと鼻を鳴らした。
僕もペイルも不満そうな顔をしているのに気付いたのか、レオンハルトは自分のマジックバッグをゴソゴソと漁りだし、中から鈍色に光る籠手を取り出した。
「あ、それ僕の!」
思わず声を上げた。そのガントレットは、レオンハルト暗殺失敗の時に取り上げられた僕の武器の一つだ。肘から手首を守る本来の防具の役目の他に、相手を殴るのにも使えるし、継ぎ目には暗器を仕込む細工をしやすい。材質は王蛇の牙で、魔法を弾いてくれる効果があるため、盾の代わりにもなる優れものだ。
「取引だ。ガントレットを返して欲しかったらペイルと手合わせしろ。勝てばコレを返してやるし、これから先、俺がいない時でもペイルに乗せてもらえる」
「う……」
二人で馬の背に乗ってイチャイチャは絶対嫌だ。でもガントレットを返してもらえれば、魔物や盗賊に襲われた時に戦うのに役立つし、急に足が必要な事態に陥る時があるかもしれない。
「……分かった。ここでやる?」
「裏でな」
敷き藁がたっぷりと積まれた厩舎からペイルを連れ出し、宿の裏の広場へと移動した。広場の隅には井戸と物干しがある。洗われて真っ白になったタオルとシーツが風にはためいて目に眩しい。レオンハルトは被害が出ないように建物の前に立った。
「制限時間は十分間。どっちかが戦闘不能あるいは負けを認めた場合は時間前でも終了な~~。ケガしたら治癒するから安心しろ」
治癒魔法は魔力を持つ者なら誰にでも使え、簡単な怪我くらいならすぐ治る。レオンハルトが僕の抜けた歯の痕を治してくれたのも治癒魔法だ。一方、より深刻な怪我などは聖職者や光属性持ちの回復職に回復をしてもらったり、ポーションで治す。
広場の真ん中でペイルと対峙する。バイコーンは頭に付いている二本の角での攻撃、体当たり、噛みつき、後脚による蹴りがある。しかしどれも近距離攻撃なので、近寄らせないようにしつつ遠距離から攻撃すれば、そこまで勝つのは難しい相手じゃない。
ーーはずなんだけど。
「んじゃ、はじめ」
やる気のなさそうなレオンハルトの声に、かぶせるように嘶きを上げたペイルが僕に向かって突進し、目の前でジャンプして後ろに回り、そのまま後脚でキックしてきた。咄嗟に片手を地面につけて後ろ向きに回転して回避した。いわゆるバク転というやつだ。
「【氷陣】!」
ペイルに近づかせないように僕の周りを氷のフィールドにする。足元の地面がピキピキと音を立てて凍り、僕を取り囲むように何本もの氷の氷柱が立つ。
「【氷球】」
そして幾つもの氷の球を作って一部はペイルに向かって飛ばし、いくつかは自分の周りに浮かしていつでも放てるようにしておく。ペイルは素早く動いて球を避け、当たりそうになった球は首を振って、角で器用に弾き落とした。
球を避けていたペイルだが、球が残り少なくなったところで急に立ち止まった。
瞬間、辺りの空気が一気に凝縮したような感覚がした。周囲の魔素が集まってペイルの身体をくるくると回り、二本の角に凝縮していく。魔素とは空気や草花、土、鉱物など、この世の全てのありとあらゆるものに存在する物質で、生き物は自然から魔素を取り込んで心臓で魔力に変換し、それを動力エネルギーとして魔法を使う。
ペイルの角と角の間に目も眩むような光の筋が何本も走り、バチバチッという音が聞こえる。
これはーー雷?
まさか。バイコーンは魔法は使えないはず。
バチン、という音と共に二本の角から雷撃が撃ち出される。それは途中で一つの大きな塊になり僕を襲う。
「マジかよっ! バイコーンが魔法使えるなんて聞いたことないっ!!」
目の前の氷に大きく罅が入った。
膝立ちで何度も空気を取り込んで息を整える。
とっさに張った防御魔法【氷壁】が間に合った。氷には割れ目が入り、今にも崩れ落ちそうだ。
雷撃が来ると思った瞬間、僕は水魔法で純水を出し、凍らせて壁にした。普段は空気中に含まれる水分を冷やして氷にするが、空気中の水には不純物が入っているため電気を通してしまう。そこで水魔法で電気を通さない純水を出し、凍らせて壁にしたのだ。
短縮詠唱出来て良かった……。普通の魔法士だと「氷よ、壁となりて攻撃を防ぎ全てのものを守れ」といった長ったらしい詠唱になり、氷の防御が間に合わなかったところだ。
「はーーい。しゅーりょーーう」
レオンハルトの間延びした声がした。時間切れだ。僕とペイルどちらにも怪我はなく、手合わせは引き分けとなった。
レオンハルトにたてがみを撫でられたペイルは、嫌々ながらも僕の肩にコツンと頭を当てた。頭をぐいぐいとこすりつけるのではなくソフトに押し付けてくるのは、親愛の証だと言ってレオンハルトは笑った。どうやら僕はペイルのお眼鏡に適ったらしい。
「それはそうとペイルは凄いね。雷撃が使えるなんて」
ペイルを褒めたら、どうだとばかりに鼻をグンと伸ばした。
「普通のバイコーンは魔法なんて使えない。そいつはユニーク個体だ。ペイルは雷属性の青白色が体表に出てるだろ? ペイルは色が違うってだけで親からも仲間からも見捨てられたんだ」
ユニーク個体というのは、神様から何かしらの『恩恵』を受けた特殊個体のこと。ペイルの場合は雷神の恩恵を受けたのだろう。
「身体の色を見て、もしやと思って鑑定できるやつに見てもらったら、ペイルが雷属性を持っててびっくりしたぜ。で、俺がテキトーに魔力の使い方を教えてやったら、すぐにさっきの雷撃魔法が撃てるようになった」
バイコーンに魔法を教えようと思ったレオンハルトもすごいと思うが、教えられて雷撃魔法を使えるようになったペイルもすごい。
ペイルとの手合わせは引き分けだったけれど、籠手は無事レオンハルトから返してもらった。僕はほくほくとさっそく自分のマジックバッグに片付けた。残りの武器も返してもらいたいが、脱走の危険性がなくなるまでは無理だろう。
一応、今のところは逃げる気はないのだけれど。
こんな経緯があってペイルが僕を背に乗せてくれたのだが、当然のようにレオンハルトが僕の後ろに乗り、両腕の間に抱き込むような形で前に手を回して手綱を握ったのは言うまでもない。
そして荷台で積み込み作業をしていたエリオットさんとハッシュさん、外まで見送りに出てくれたドーラさんがペイルに二人乗りした僕たちに生暖かい目を向けたのだった。
ああ。ゆっくりと一人で乗れる従魔が僕も欲しい。
……………………………………………………………………
【おまけの補遺】
(side.ペイル ボクのご主人サマ)
ボクはバイコーンのペイル。いい名前でしょ。ご主人サマが付けてくれたんだ。
ボクはね、生まれた時からおとうさんやおかあさんやきょうだいたちとからだの色が違ったんだ。群れのみんなは艶やかな漆黒の身体に黒いたてがみだったんだけど、ボクはなんだか黒いペンキが剥げてしまったような薄青灰色の身体に青白いたてがみだったの。
周りからは色がどうして自分たちと違うんだとか、灰をかぶったみたいで汚いとか言われて仲間外れにされて、いじめられるようになったんだ。おとうさんもおかあさんもきょうだいたちもみんな見て見ぬフリで、傷つけられてケガしても誰もボクを庇ってくれなかった。
そんなある日、ボクは群れの仲間に寄ってたかっていじめられて、高い崖の上から落とされた。きっともう群れにボクのような異分子はいらなかったんだろう。群れの仲間もおとうさんもおかあさんもきょうだいたちも誰も助けにきてくれなかった。途中で樹に引っかかってボクは死ななかったけど、ケガをしてその場から動けなくなっちゃった。
でもそこに颯爽と現れたのがボクのご主人サマのレオンハルトさん。竜人だからか魔力が滲み出るほど強くて、近くにいると魔力に当てられてすっごく怖いけれど、実際はボクを助けてくれて、食べ物もくれたから、とっても優しい良い人なんだよ。
助けてもらった時、一生ボクはこの人についていこうと決めたんだ。絶対にボクの背にはご主人サマしか乗せない! そう思ってたのに……。
こんなヤツよりもずっとずーーっとボクのほうがご主人サマのことが好きなんだぞ! いくらご主人サマのつがいだからって、こんな弱そうな人間なんて絶対に背に乗せてやるもんかっ! 強いご主人サマを守れるような、ご主人サマにふさわしい人間になってから出直してこいっ!!
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