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3章 辺境の地ライムライトへ
12、グランダンナはドワーフの街(まだ未到着)
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冒険者ギルドで依頼を受け、別の窓口でライムライトへ送る郵便を受け取ったあと、商業ギルドの馬車留めでバークレー商会の馬車と合流した。馬たちと一緒に待っていたペイルに、待たせやがってとばかりに頭突きされた。
「では出発しましょうか」
「はい」
順当に行けばここからライムライトまでおおよそ四日。セイレーン川に沿って源流があるという山岳地帯を二日かけて越え、グランダンナの街で一泊してライムライトへと入るという旅程となる。
「ほい、ケイはこっちな」
今度こそバークレー商会の荷台に乗せてもらおうと思っていたのに、レオンハルトにひょいっと持ち上げられてペイルの背に乗せられた。文句を言う隙もない早業だった。
これから二日間は野営となるため魔獣や盗賊の襲撃に警戒が必要だ。特に高く売れる品物を載せた商会の馬車は盗賊に狙われやすい。
スクロールを展開するし、誰もが顔を知っているだろうレオンハルトの姿が見えれば襲ってくることはないだろうけど、万が一がないとも限らない。暗闇で顔の判別がつかなかったり、たまたまレオンハルトが席を外していてその場にいなかったり、など様々な最悪を考え、警戒しておくに越したことはない。
移動中も気配察知と目視による警戒は怠らない。ただ、気配察知はあまり広げないようにして、ある程度の力を持つものしか察知しないようにしている。なぜなら小動物や魔蟲など誰でも倒せるような力の弱いものまで察知してしまうと、あまりに数が多すぎて脳の処理能力や許容量が超えてしまうし、範囲を広げすぎてしまうと、正確さが欠ける上に、魔力をその分多く使ってしまうからだ。
魔力は無尽蔵にあるわけではないので、力を抑えるところは抑えて、いざという時のために温存しておく。何事もほどほどが一番だ。
「あ、三百メトル(=300m)先に水辺スライム発見」
気配察知にそれらしいものが反応したので、眉の上に手を置いて庇を作り、眼を眇めて前方に目を向けると、青く透き通ったスライムが河原でうねうねと動き、大きな魚を溶かして体内に取り込んでいるのが見えた。
「一匹だけか。下りるか?」
「いちいち止まるのも面倒。このままでいい。スライムがびっくりして逃げ出さないように『威圧』はしないで」
「りょーかいっと」
レオンハルトにペイルから下りるか聞かれたけど、下りなくても簡単に倒すことが可能だし、僕たちが止まればエリオットさんたちも止まらなければいけなくなる。時間も使いたくないし、ここは遠距離魔法で対処するのがいいだろう。
「うーーん、じゃあ【氷槍】」
いつもより数を減らして二本だけ氷の槍を作る。一本は本命で、もう一本は予備だ。外すことはないと思うけれど、これも万が一ってやつだ。
レオンハルトがペイルの手綱を操ってスライムに近づけ、僕の射程距離に入ったところで核めがけて投擲。本命の槍が核のど真ん中を貫くと、水辺スライムはとろりとその身体を水に変えて小石を濡らした。
わざわざ魔法で槍を作り出さなくても、せめて投げナイフの一本でも手元にあれば楽に倒せるのに、レオンハルトに武器を取り上げられたままだ。それに、できればこの機会に武器のメンテナンスもしたい。グランダンナはドワーフが多く住む鍛治の街なのだ。
グランダンナは周囲を山地で囲まれ、昔から鉄を多く含む鉱石の採掘が盛んに行われてきた。鍛治をするために必要な豊富な谷川の水と鉱石。その二つが揃っていた土地に、高度な鍛治の技能を持つドワーフが集まり形成した街である。
ドワーフというのは背丈が低く、屈強な体つきで男女ともに長い髭を蓄えた種族だ。ものづくりに関する高度な技能を持っていて、特に鍛治の腕は他の追随を許さない。ドワーフが作った武器や魔装具、魔道具しか使わないという冒険者も多い。
手先が器用でものづくりが得意なため、鍛冶の他にも農具、大工道具、料理で使う包丁など各種の刃物、細工物や工芸品にも優れ、修理業者も多い。
のちに同じような特性を持ち、ドワーフと友好な関係を築いている小人族も街に住み着き、今ではグランダンナの住人の半数以上が小さき者たちだ。
小人族は成人した大人でも身長や外見は人間の子供とほとんど変わりない種族だ。唯一の違いは耳の先がエルフのように尖っていることで、人間の子供と区別する時は耳を見るといい。
体格が小柄なので短弓や小剣を好んで使い、手先の器用さと優れた敏捷性を活かして的確に防具の隙間や急所を狙って攻撃してくるので、小さいからといって油断できない。性格は楽観的で図太く、機転に優れている。また、精神攻撃系魔法への耐性が高く、強毒や重度の怪我にも耐え抜くほどタフで、精神的、肉体的な強さに秀でている。
「ねえ、せっかくグランダンナ行くなら武器のメンテナンスをしてもらいたいんだけど。マジックバッグに入っていた暗器を返してくれない?
「うーーん、それは難しいなあ。あ、もしかしてお前の得物ってグランダンナ製か?」
「ほとんどそう」
僕が好んで使う暗器はグランダンナ製が多い。軽くて丈夫で鋭利で手に馴染む。他の場所で作られたものと比べると全然手応えが違うのだ。唯一僕の手元にある籠手もグランダンナ製。小さな弓や小刀、鉤爪が装備できるようになっているので、できればその装備品の方も早く返してもらいたい。
「う~ん、そうだなぁ……」
しばらく考えていたレオンハルトが顔を上げた。
「じゃあ俺も一緒に鍛冶屋へ行ってそこで武器を出す。で、メンテしてもらってからまた俺が預かる。それじゃダメか?」
「駄目って言ってもついてくるだろ? メンテナンスさえできればいい」
「りょーかいっと」
グランダンナに着いたらさっそく鍛冶屋を訪ねることにしよう。
「いい鍛冶屋さん知ってたら紹介して」
「んーー、そうだなぁ……。オーインのとこか、ガンダールヴルんとこか……」
レオンハルトがドワーフの名前らしきものをブツブツ呟いているけれど、その名前は僕でも知っている。ドワーフの中でも超一流の腕を持つ有名な職人さんだ。
川に架かる橋を越え、森の中に入る。たまに小動物が慌てたように走り去っていくくらいで大型魔獣の気配はない。左前にバークレー商会の荷馬車。御者はエリオットさんで、ハッシュさんは幌を張った荷台の中だろう。
グランダンナの話をレオンハルトとしていると、エリオットさんが荷馬車のスピードを少し落とし、嬉々として話しかけてきた。
「グランダンナには地底竜が住んでいる迷宮があるって聞きました! それに竜が入った温泉があるって話も!」
それを聞いてレオンハルトが吹き出した。
「ぶっ、くくっ、あははは!! ああ、あの頭にタオルを乗っけた竜が温泉に入ってたってやつか!」
「はあ? なんだよそれ。明らかに眉唾ものだろ、その話」
初耳だったので思わずつっこんでしまった。集客したい宿屋が流した噂だということが丸わかりだ。
「ははっ! ああ、んーーじゃあグランダンナじゃその宿に泊まるかぁ!」
「はい、ぜひ!」
嬉しそうな返事にエリオットさんの竜好きの片鱗が垣間見えた。
「迷宮の地底竜も見てみたいですが、最下層のボス部屋まで行かないと駄目なので私には無理ですね……。残念」
「グランダンナの迷宮って、確かイヌアシフリー廃坑迷宮だっけ」
「犬の足ってなんだケイ。イニシアフーリだ」
「イニシアフーリ」
ドワーフの言葉は難しい。
この迷宮はその昔、廃鉱山跡に地竜が棲みついて出来た二十階層の小規模ダンジョンだ。
階層が一階層から五十階層までが小規模ダンジョン、五十階層から百階層までのものを中規模ダンジョン、百以上の階層があるダンジョンを大迷宮と呼ぶ。ライムライトにあるダンジョン『エレクタール』は百以上もの階層が確認されているため、名前の前に『大迷宮』がつく。
大迷宮エレクタールは今なお誰も最下層に達していないため、何階層あるのか不明だが、まさしくエクラン王国最大級の迷宮だろう。
「そうだなあ。さすがにエリオットは迷宮に連れて行けねえな。一応グランダンナの管轄の迷宮だが、山奥にあるんで遠くて行くのに時間がかかる。あ、でもその代わり、その地底竜の逆鱗があるけど見るか?」
「え、持ってるんですか!? み、見たいです!!」
「次の昼休憩の時にな」
エリオットさんは昼休憩が待ち遠しいのかうずうずしている。荷馬車を引く馬たちもそんなエリオットさんの気持ちが移ったのか、なんとなく早足になった。
今何時頃か確認するために空を見上げたけれど、びっしりと生い茂った葉に邪魔されて、陽球(※この世界での太陽のこと)の位置は分からなかった。
と、その時、気配察知が届かないほど遠くから何か聞こえたような気がした。レオンハルトも同時に気付いたのか、手綱を強く握り締めて物音が聞こえた方に目を向けた。
「レオンハルトさん。何か見えますか?」
「いや。なんだろ。獣か野鳥の鳴き声か……。遠すぎて俺の気配察知にも引っかかってねえ」
それからしばらくの間、耳をそばだてて警戒をしたが、もう音は聞こえてこなかった。
…………………………………………………………………………
【補遺】
(side.レオンハルト 「竜」と「龍」、竜の序列)
レオンハルトだ。
本文も説明ばっかだったけど、今日は補遺も説明だ。字ばっかでヤんなっちまうな。許せ。
さて、俺はずいぶん前、エリオットに『竜』はゴルイニチ山脈に住んでるって説明した。じゃあなんで地底竜は山脈じゃなくってグランダンナの迷宮に住んでんだよ? と思ったやつもいるんじゃねえか?
それはな、ゴルイニチ山脈に住む竜は歴とした『竜』であるのに対し、この地底竜は一応竜の分類ではあるものの、限りなくトカゲに近い、竜の中では最底辺の存在だからだ。竜の里に居場所がない彼らは自分で住処を探してそこに住み着く。
じゃ、竜の序列を上位から説明するぜ。神様に近い力を持った上位の竜には『龍』の字が宛てられるんだ。覚えとくといいぜ。
で、竜の中で一番すげえ力を持っているのは『古代龍』だ。身体もでっかくて魔力も桁違いに多く、長命で千年以上生きるまさに伝説級の存在だ。『神龍』と呼ぶやつもいる。俺もエンシェントドラゴンと会ったことはねえ。
次がゴルイニチ山脈に住む『竜』族の王たち。紅龍王、青龍王、黄龍王、白龍王、金龍王、黒龍王がいて、その下に俺たち紅竜、青竜、黄竜、白竜、金竜、黒竜がいる。
ちなみに俺のオヤジは紅龍王で、母親は落ち人の男だ。母はニホンでチュウニビョウっていう病気を患ってたようだが、こっちの世界に来てもその病気は治らなかったみてえだ。ただ死に直結する病気じゃねえらしいから安心だな。(※レオンハルトは厨二病を知りません)
ここまで紹介した竜は魔力を使って人の姿を取ることができる。竜がヒトと番えるのもそのおかげだ。
そしてここからが下位竜。本文にも出てきた地底竜、天空竜、火山竜、海竜とかだな。
で、最後に、竜に似ているが竜じゃないやつらの紹介だ。この駄文や別の素晴らしい作家さんの小説に名前がよく出てくるワイバーン、火蜥蜴、毒の吐息を吐くファフニールなんかはトカゲの分類。
多頭蛇、水蛇、バシリスクは蛇の分類になる。
だからワイバーンは翼が生えたトカゲってことだ。俺がワイバーン食べても共食いじゃねえんだよ!
…………………………………………………………………………
「では出発しましょうか」
「はい」
順当に行けばここからライムライトまでおおよそ四日。セイレーン川に沿って源流があるという山岳地帯を二日かけて越え、グランダンナの街で一泊してライムライトへと入るという旅程となる。
「ほい、ケイはこっちな」
今度こそバークレー商会の荷台に乗せてもらおうと思っていたのに、レオンハルトにひょいっと持ち上げられてペイルの背に乗せられた。文句を言う隙もない早業だった。
これから二日間は野営となるため魔獣や盗賊の襲撃に警戒が必要だ。特に高く売れる品物を載せた商会の馬車は盗賊に狙われやすい。
スクロールを展開するし、誰もが顔を知っているだろうレオンハルトの姿が見えれば襲ってくることはないだろうけど、万が一がないとも限らない。暗闇で顔の判別がつかなかったり、たまたまレオンハルトが席を外していてその場にいなかったり、など様々な最悪を考え、警戒しておくに越したことはない。
移動中も気配察知と目視による警戒は怠らない。ただ、気配察知はあまり広げないようにして、ある程度の力を持つものしか察知しないようにしている。なぜなら小動物や魔蟲など誰でも倒せるような力の弱いものまで察知してしまうと、あまりに数が多すぎて脳の処理能力や許容量が超えてしまうし、範囲を広げすぎてしまうと、正確さが欠ける上に、魔力をその分多く使ってしまうからだ。
魔力は無尽蔵にあるわけではないので、力を抑えるところは抑えて、いざという時のために温存しておく。何事もほどほどが一番だ。
「あ、三百メトル(=300m)先に水辺スライム発見」
気配察知にそれらしいものが反応したので、眉の上に手を置いて庇を作り、眼を眇めて前方に目を向けると、青く透き通ったスライムが河原でうねうねと動き、大きな魚を溶かして体内に取り込んでいるのが見えた。
「一匹だけか。下りるか?」
「いちいち止まるのも面倒。このままでいい。スライムがびっくりして逃げ出さないように『威圧』はしないで」
「りょーかいっと」
レオンハルトにペイルから下りるか聞かれたけど、下りなくても簡単に倒すことが可能だし、僕たちが止まればエリオットさんたちも止まらなければいけなくなる。時間も使いたくないし、ここは遠距離魔法で対処するのがいいだろう。
「うーーん、じゃあ【氷槍】」
いつもより数を減らして二本だけ氷の槍を作る。一本は本命で、もう一本は予備だ。外すことはないと思うけれど、これも万が一ってやつだ。
レオンハルトがペイルの手綱を操ってスライムに近づけ、僕の射程距離に入ったところで核めがけて投擲。本命の槍が核のど真ん中を貫くと、水辺スライムはとろりとその身体を水に変えて小石を濡らした。
わざわざ魔法で槍を作り出さなくても、せめて投げナイフの一本でも手元にあれば楽に倒せるのに、レオンハルトに武器を取り上げられたままだ。それに、できればこの機会に武器のメンテナンスもしたい。グランダンナはドワーフが多く住む鍛治の街なのだ。
グランダンナは周囲を山地で囲まれ、昔から鉄を多く含む鉱石の採掘が盛んに行われてきた。鍛治をするために必要な豊富な谷川の水と鉱石。その二つが揃っていた土地に、高度な鍛治の技能を持つドワーフが集まり形成した街である。
ドワーフというのは背丈が低く、屈強な体つきで男女ともに長い髭を蓄えた種族だ。ものづくりに関する高度な技能を持っていて、特に鍛治の腕は他の追随を許さない。ドワーフが作った武器や魔装具、魔道具しか使わないという冒険者も多い。
手先が器用でものづくりが得意なため、鍛冶の他にも農具、大工道具、料理で使う包丁など各種の刃物、細工物や工芸品にも優れ、修理業者も多い。
のちに同じような特性を持ち、ドワーフと友好な関係を築いている小人族も街に住み着き、今ではグランダンナの住人の半数以上が小さき者たちだ。
小人族は成人した大人でも身長や外見は人間の子供とほとんど変わりない種族だ。唯一の違いは耳の先がエルフのように尖っていることで、人間の子供と区別する時は耳を見るといい。
体格が小柄なので短弓や小剣を好んで使い、手先の器用さと優れた敏捷性を活かして的確に防具の隙間や急所を狙って攻撃してくるので、小さいからといって油断できない。性格は楽観的で図太く、機転に優れている。また、精神攻撃系魔法への耐性が高く、強毒や重度の怪我にも耐え抜くほどタフで、精神的、肉体的な強さに秀でている。
「ねえ、せっかくグランダンナ行くなら武器のメンテナンスをしてもらいたいんだけど。マジックバッグに入っていた暗器を返してくれない?
「うーーん、それは難しいなあ。あ、もしかしてお前の得物ってグランダンナ製か?」
「ほとんどそう」
僕が好んで使う暗器はグランダンナ製が多い。軽くて丈夫で鋭利で手に馴染む。他の場所で作られたものと比べると全然手応えが違うのだ。唯一僕の手元にある籠手もグランダンナ製。小さな弓や小刀、鉤爪が装備できるようになっているので、できればその装備品の方も早く返してもらいたい。
「う~ん、そうだなぁ……」
しばらく考えていたレオンハルトが顔を上げた。
「じゃあ俺も一緒に鍛冶屋へ行ってそこで武器を出す。で、メンテしてもらってからまた俺が預かる。それじゃダメか?」
「駄目って言ってもついてくるだろ? メンテナンスさえできればいい」
「りょーかいっと」
グランダンナに着いたらさっそく鍛冶屋を訪ねることにしよう。
「いい鍛冶屋さん知ってたら紹介して」
「んーー、そうだなぁ……。オーインのとこか、ガンダールヴルんとこか……」
レオンハルトがドワーフの名前らしきものをブツブツ呟いているけれど、その名前は僕でも知っている。ドワーフの中でも超一流の腕を持つ有名な職人さんだ。
川に架かる橋を越え、森の中に入る。たまに小動物が慌てたように走り去っていくくらいで大型魔獣の気配はない。左前にバークレー商会の荷馬車。御者はエリオットさんで、ハッシュさんは幌を張った荷台の中だろう。
グランダンナの話をレオンハルトとしていると、エリオットさんが荷馬車のスピードを少し落とし、嬉々として話しかけてきた。
「グランダンナには地底竜が住んでいる迷宮があるって聞きました! それに竜が入った温泉があるって話も!」
それを聞いてレオンハルトが吹き出した。
「ぶっ、くくっ、あははは!! ああ、あの頭にタオルを乗っけた竜が温泉に入ってたってやつか!」
「はあ? なんだよそれ。明らかに眉唾ものだろ、その話」
初耳だったので思わずつっこんでしまった。集客したい宿屋が流した噂だということが丸わかりだ。
「ははっ! ああ、んーーじゃあグランダンナじゃその宿に泊まるかぁ!」
「はい、ぜひ!」
嬉しそうな返事にエリオットさんの竜好きの片鱗が垣間見えた。
「迷宮の地底竜も見てみたいですが、最下層のボス部屋まで行かないと駄目なので私には無理ですね……。残念」
「グランダンナの迷宮って、確かイヌアシフリー廃坑迷宮だっけ」
「犬の足ってなんだケイ。イニシアフーリだ」
「イニシアフーリ」
ドワーフの言葉は難しい。
この迷宮はその昔、廃鉱山跡に地竜が棲みついて出来た二十階層の小規模ダンジョンだ。
階層が一階層から五十階層までが小規模ダンジョン、五十階層から百階層までのものを中規模ダンジョン、百以上の階層があるダンジョンを大迷宮と呼ぶ。ライムライトにあるダンジョン『エレクタール』は百以上もの階層が確認されているため、名前の前に『大迷宮』がつく。
大迷宮エレクタールは今なお誰も最下層に達していないため、何階層あるのか不明だが、まさしくエクラン王国最大級の迷宮だろう。
「そうだなあ。さすがにエリオットは迷宮に連れて行けねえな。一応グランダンナの管轄の迷宮だが、山奥にあるんで遠くて行くのに時間がかかる。あ、でもその代わり、その地底竜の逆鱗があるけど見るか?」
「え、持ってるんですか!? み、見たいです!!」
「次の昼休憩の時にな」
エリオットさんは昼休憩が待ち遠しいのかうずうずしている。荷馬車を引く馬たちもそんなエリオットさんの気持ちが移ったのか、なんとなく早足になった。
今何時頃か確認するために空を見上げたけれど、びっしりと生い茂った葉に邪魔されて、陽球(※この世界での太陽のこと)の位置は分からなかった。
と、その時、気配察知が届かないほど遠くから何か聞こえたような気がした。レオンハルトも同時に気付いたのか、手綱を強く握り締めて物音が聞こえた方に目を向けた。
「レオンハルトさん。何か見えますか?」
「いや。なんだろ。獣か野鳥の鳴き声か……。遠すぎて俺の気配察知にも引っかかってねえ」
それからしばらくの間、耳をそばだてて警戒をしたが、もう音は聞こえてこなかった。
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【補遺】
(side.レオンハルト 「竜」と「龍」、竜の序列)
レオンハルトだ。
本文も説明ばっかだったけど、今日は補遺も説明だ。字ばっかでヤんなっちまうな。許せ。
さて、俺はずいぶん前、エリオットに『竜』はゴルイニチ山脈に住んでるって説明した。じゃあなんで地底竜は山脈じゃなくってグランダンナの迷宮に住んでんだよ? と思ったやつもいるんじゃねえか?
それはな、ゴルイニチ山脈に住む竜は歴とした『竜』であるのに対し、この地底竜は一応竜の分類ではあるものの、限りなくトカゲに近い、竜の中では最底辺の存在だからだ。竜の里に居場所がない彼らは自分で住処を探してそこに住み着く。
じゃ、竜の序列を上位から説明するぜ。神様に近い力を持った上位の竜には『龍』の字が宛てられるんだ。覚えとくといいぜ。
で、竜の中で一番すげえ力を持っているのは『古代龍』だ。身体もでっかくて魔力も桁違いに多く、長命で千年以上生きるまさに伝説級の存在だ。『神龍』と呼ぶやつもいる。俺もエンシェントドラゴンと会ったことはねえ。
次がゴルイニチ山脈に住む『竜』族の王たち。紅龍王、青龍王、黄龍王、白龍王、金龍王、黒龍王がいて、その下に俺たち紅竜、青竜、黄竜、白竜、金竜、黒竜がいる。
ちなみに俺のオヤジは紅龍王で、母親は落ち人の男だ。母はニホンでチュウニビョウっていう病気を患ってたようだが、こっちの世界に来てもその病気は治らなかったみてえだ。ただ死に直結する病気じゃねえらしいから安心だな。(※レオンハルトは厨二病を知りません)
ここまで紹介した竜は魔力を使って人の姿を取ることができる。竜がヒトと番えるのもそのおかげだ。
そしてここからが下位竜。本文にも出てきた地底竜、天空竜、火山竜、海竜とかだな。
で、最後に、竜に似ているが竜じゃないやつらの紹介だ。この駄文や別の素晴らしい作家さんの小説に名前がよく出てくるワイバーン、火蜥蜴、毒の吐息を吐くファフニールなんかはトカゲの分類。
多頭蛇、水蛇、バシリスクは蛇の分類になる。
だからワイバーンは翼が生えたトカゲってことだ。俺がワイバーン食べても共食いじゃねえんだよ!
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