“魔剣" リルムリート

さよなら本塁打

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序章3 新たなる恋? 川岸で、脱がされて……!

最終話 嫉妬と快楽

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 隼人に想いをうちあけたあと、和美は自分の中のなにかが壊れていることを再認識した。大人の自分が子供に愛を告白したのである。二度と、まともな人生には戻れないのではないか、と覚悟もした。


 昨日、寝泊まりをしているキャンピングカーの中で和美は自慰をした。隼人と別れたあと、自分の性器が潤っていることに気づいた彼女は、性欲に逆らうことができなかったのだ。EXPERに貸し出される公用の車内で行うことに、うしろめたさも感じたが、若い肉体は正直に反応し、感じた。 


 指先がもたらす快楽によろこびを感じながらも、頭の中は隼人のことでいっぱいだった。童話の世界の姫のような美しい顔を持つ彼。その美貌の少年が自分のせいで、まだ毛も生えていない小さな性器を大人のように逞しくさせていたのだ。それを思い出すだけで、たまらなかった。まだ陽が高い時間に、和美は夢中で自慰にふけった。 


 ことが終わり、罪の意識にさいなまれながら、和美は眠ってしまった。夢にまで隼人が出てきた。夕方、目を覚ましたとき、パンティを履いていない自分の姿に彼女は苦笑してしまった。 


 ゆうべ、隼人が和美とのいやらしい夢を見て、そのあと啓子の枕を嗅ぎながら、ふけったことと同類のことを、和美は数時間も前にしていたのである。お互い、想いあっていたのだ。 


 彼女は隼人の内面など、まだ知らない。出会ったばかりであった。和美は単純に隼人の美しさにひかれたのである。所有したいだけでなく、占有したいとまで思わせる美貌は、かつて香代をも狂わせたほどである。 


「好き、って……?」 


 和美の腕をなんとか離れ、見上げた隼人が訊いた。いつも、元気な彼女が泣いている。ほんの少しだけ期待もあった。 


 一方の和美は、なんとか理性を呼び戻していた。本当は、キスをしたかった。隼人の白い美肌に自分の唇をつけたあと、それをスライドさせるように彼の唇に重ね、粘膜の感触を楽しんでみたかった。だが、目の前の美しい少年にそれをしたら、どこかに堕ちてゆくのではないかと思ったのだ。だから、我慢をした。 


「う、うん。好きよ、だいすき……だから……健一くんと、お友達になりたいの」 


 和美はまだ、隼人の偽名しか知らない。だが、名前など、どうでもいいことなのかもしれなかった。ただ、目の前の少年を愛おしく思う心があれば、それでいい。 


「トモダチ……?うん、いいよ」 


 少し期待を外されはしたが、隼人は和美の告白を受け入れた。このとき、彼女が“EXPER"であるという事実など頭の中から消し飛んでいた。 


「本当?」 

「うん」 

「本当にホント?」 

「うん」 

「歳が、うんと離れてるのよ」 

「知ってる」 

「話が、合わないかも?」 

「合わせるよ」 

「もう、怒ってない?」 

「まだ、ちょっと……怒ってる」 

「でも、許してくれる?」 

「いっこだけ、お願いをきいてくれたら……」 

「そしたら、許してくれる?」 

「うん」 






「あーン!健一くゥん!」 






 和美は泣きべそをかいたまま、隼人を抱きしめた。 


「あなたって、やっぱりとってもものすごくわっぜか優しいのね!お姉さん、大好きよ!」 


 和美の大きな胸の中に顔を強く押しつけられ、隼人は、じたばたともがいた。彼女の背中をタップする。 


(これで、いいのよね……) 


 ちいさな体を抱きながら和美は思った。隼人に対するいやらしい想いは自分の心にしまっておけばいいのである。また、彼のことを考えながら自慰にふけってしまうかもしれないが、それで足りるのなら良いのではないか。誰に相談できることでもない。


 一方で、隼人が大人になったとき、自分はいくつになっているのだろうかと考えもした。隼人が18歳になったころ、和美は25歳になっている。 


(あら?意外と、イケるじゃない……) 


 なぜか一瞬、彼女は前向きに思った。隼人が面食いではなく、さらに年上趣味があれば、ありえないことではない。そして、超常能力者の自分を愛してくれるのか、などと現実的なことまで考えてしまった。 


「和美さん、ギブ……ギブ……」 


 その言葉を聴き、和美はあわてて隼人を解放した。自分の胸に押しつけた美少年の鼻が真っ赤になってしまっている。 


「きゃああぁ!健一くん、ごめんなさい!」 


 和美は焦った。彼の美しい鼻を曲げでもしたら、美の女神から天罰の雷がくだっても、おかしくはない。一生懸命に隼人の鼻をつまみ、伸ばそうとする。


「和美さん。ふざけてるでしょ?」


 と、隼人の声。


「ちっ、違うわよォ。本気ですわよ、わたし」


 和美のテンションが、いつも以上に高い。そうでもしなければ、またキスをしたくなる。










 ふたりは川岸に並んで座った。その距離が、とっても近い。真夏の熱い輝きを乱反射する水の光が、ふたりの和解を祝福しているように見える。和美が、隼人の肩に頭を置いた。 


「ところで、健一くんのさっきの“お願い"って、なぁに?」 


 隼人の目の前に、彼女の黒いショートヘアがゆれる。その髪は綺麗だった。 


「きいてくれるの?」 


 隼人が訊きかえした。それに対する和美の悪ノリが、また始まった。 


「エッチなこと?」 


 和美が隼人の耳元で、囁くようにした。 


「あなたになら、わたしのバージン……あげてもいいのよ?」 

「また、怒ろッかなぁ……」 

「あン、冗談冗談!」 


 和美は、ぽかぽかと隼人の肩を叩いた。 


「“死なない"って、約束してよ……」 


 隼人は、滝の方角を見ながら言った。長い睫毛におおわれたその瞳は、周辺周囲の光をすべて吸い込むほどに美しかったが、表情は影をさしている。見ているのは滝ではなく、もっと遠くだった。


 和美は、それに見惚れながらも、暗い言葉に驚いた。それが11歳の少年の希望であるのなら、厳しい約束となる。自分は“EXPER"として、いつ何が起こるかわからない身であった。そして、そんなことを言う子供の過去に、若干の興味もひかれた。しかし…… 


(何が、あったの……) 


 以前、啓子が隼人に訊くことができなかったその言葉を、同様に和美も、胸の奥底に流し込んだ。彼の繊細な一面を傷つけてしまうことがある可能性を回避した。誰か、近しい大切な人を失くしたことがあるのではないかと、推測はできる。それほどに、隼人の美しい顔にさす影が濃かった。 


 隼人が以前、恋をしていた香代は戦場に散った。美人だったのに、その身体は跡形も残らなかったという。香代の人格を傷つけるような暴言を吐き、そのまま別れてしまった後悔は、隼人の心に大きな傷を残していた。 


 “あたしたちは、人のために生きていくべきなんじゃないかしら。特別な力を持っている以上、どこの誰だか知らない人であっても、その人たちのために……"


 常に前向きだった香代の言葉である。だが、そんな彼女を戦場へ行かせた奈美坂精神病院と“組織"を、隼人はまだ許せなかった。自分にそれと立ち向かう手段はないが、和美には、そうならないでほしい。隼人は和美が“EXPER"として、極端な責任感を持つことをおそれた。 


「だ……大丈夫よォ。お姉さん、頑丈に出来てるから、大砲が飛んできたくらいじゃ死なないわ。食糧が尽きたら、ヤバいけど……」 


 和美の目を見て隼人は思った。覚悟を決めて“EXPER"になったのだろうと。姿形は違っても、和美は、あのときの香代と同じ目をしているように感じたからだ。 


(あぁ……この人も、超常能力者としての自分に……戦士としての自分に、微塵ほどの疑問もないのだ……香代と同じく) 


 そう思ったとき、隼人は和美の膝に突っ伏した。なんとか、涙だけはこらえた。 


「ど……どォしたのよ……?こ、こらっ……エッチで、甘えんぼさんだぞぉ……」 


 和美が言った。それでも隼人は彼女から離れなかった。結局、和美は自分の髪を優しく撫でてくれたからだ。その手の感触に、今はひたっていたかった。










 そして、そんなふたりのやりとりを、木陰からのぞく者がいた。おさげの髪をした日に焼けた少女である。 


(どうして……) 


 唇を噛み、啓子は震えていた。隼人をつけていたのだ。 


「隼人くん……なぜ、あの女の人と……」 


 その目が、嫉妬に狂う少女の心の暗黒を映すほどに、暗かった。




 
 


 
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