“魔剣" リルムリート

さよなら本塁打

文字の大きさ
37 / 146
第一章 首払村の魔剣! 美女の血を吸う神を斬れ!

第17話 超常能力

しおりを挟む
 
 現在、発見されている超常能力は26種類ある。それらは、タイプ別に、AからZまでのアルファベットで区別されており、EXPERは、それを使いこなす超常能力の“実行者"ということになる。全世界が人外の存在に悩まされている昨今、超常能力者の組織は、各国に存在し、活動をしている。


 隼人が持つ超常能力は“D型"である。それは“驚異的な反射神経"であり、発動している間は、相手の攻撃が当たることはない。


 このとき、彼の目には、化け物が袈裟斬りに放った手刀の軌跡がスローモーションに見える。化け物の先制攻撃は空振りし、いつの間にか隼人は、十歩ほどの距離をとっていた。


「ほう、面白い力を持っているな。少年……」


 のっぺらぼうの口が言った。目鼻がないが、姿からしてショートヘアの女だとわかる。再び突進してきた化け物が、今度は両手で二撃目と三撃目を振るう。これも隼人の目にはスローモーション再生のように映る。難なくかわした。


「逃げるだけか?それでは、我は倒せんぞ」


 化け物の言うとおりであった。回避し続けても、勝てるわけがない。そして、ある理由から、長期戦は、隼人の不利となる。攻めていかなければならないが、問題は、彼自身の攻撃力ということになる。


 奈美坂精神病院で、ある程度の戦闘訓練を受けてはいたが、隼人は小柄で非力なため、たとえ攻撃を当てたとしても、それが化け物に対する大きなダメージになるかどうかはわからない。例え、なったとしても、すぐに立ち上がられたら意味はない。


(武器があれば……)


 隼人は考えた。ふと、“魔剣"のことを思い出してしまった。もし、それがあれば、なんとかなるものだろうか。


 彼は周囲を見回し、凶器になるものがないか確認した。少年の手には、汗を吹くために一郎の家から持参したタオルしかない。


 化け物の姿勢が低くなった。猛然とダッシュで近づき、隼人を襲う。


(一か八か……!)


 対する隼人も、化け物に向かって走った。いや。正確には、すれ違うような角度である。最接近したとき、化け物の手刀が横手に繰り出されたが、超常能力を発揮し、飛んで、くぐるような格好でかわした。


 地面に石が落ちていた。隼人は飛びついてそれを拾うと、右膝をついたまま、アンダースローで化け物の頭に投げつける。石は手で払われた。その瞬間が彼の狙いだった。素早く立ち上がった隼人は、がら空きになった化け物の腹に、体重を乗せたパンチを放った。


 だが、それより早く、化け物の蹴りが隼人を襲った。このとき、超常能力を発動させていなければ、その餌食になっていただろう。その蹴りがスローモーションに見えたため助かった。隼人は後ろに飛び退いて、化け物の脚の射程外へと逃げた。


 再び、化け物の手刀が連打された。そのすべてを隼人は“驚異的な反射神経"で避け続けた。だが、このままでは埒が明かない。


 突然に、“リミット"が近づいた。肩で息をする隼人の疲労の色が濃い。


(まずいな。思ったより早く“来た"か……)


 予想外の事態に、隼人は内心で苦笑してしまった。それは、“D型"最大の欠点である。


 極めれば、銃弾すらかわすことができるほどの驚異的な反射神経は、戦闘での活躍が期待される反面、気力体力の消耗が激しいことでも知られる。短時間の能力発揮で片をつけられなければ、不利となっていくのである。事実、D型超常能力者の敗北原因の多くは、“戦闘行為の長期化"であり、今、隼人も、その状況に陥っていた。


 ましてや彼は、久々に超常能力を発動させている。それも未成熟な少年の体には、大きな負担となっていた。


 次第に、化け物の攻撃がスローに見える間合いが、こちら側に“近く"なっていくように感じる。限界は近い。


 後退を続けた隼人の背中に硬いものが当たった。それは道端の大木だった。後ろには逃げられない。化け物の手刀が一直線に飛んできた。“突き"である。なんとか、目の前でスローに見えた。そこまではかわした。横に体をずらす。


 なびいた隼人の長い髪が数本、切れて散らばり、手刀が大木を貫通した。化け物は、それを抜くのに時間がかかった。チャンスだ。


 後ろに回り込んだ隼人は、化け物の背中におぶさるような格好で飛びついた。そして、そのまま、手に持ったタオルを巻きつけ、首を締めた。これなら、子供の手でも絞殺できる。彼は、せいいっぱいの力を一本のタオルに込めた。


 至近距離で嗅いだ化け物の匂いは甘かった。香代が、これと似たような匂いをしていた。もうひとり、こんな匂いの持ち主を知っている。誰だっただろうか。


(えっ……?) 


 それを思い出したとき、隼人は、なぜか拘束をほどき、化け物から離れた。


「まさか……いや、そんなはずは……」


 彼は困惑した。目の前の黒いショートヘアには見覚えがある。Tシャツを膨らませている豊満な胸は、川岸で何度も彼を抱いてくれたものだ。目と鼻はないが、それでも隼人は“真実"に気づいた。


「そんな……なんで?」


 動揺した隼人に、大きな隙が出来た。木から手を引っこ抜いた化け物が、高速で接近する。その距離が、疲労した隼人の能力が及ぶ間合いの“内側"に入ってきた。よけることはできない。


 だが、次の瞬間、化け物は、前方にバランスを崩した。割って入った“誰か"が、足を引っ掛けたのだ。化け物は、転倒する直前に片手を地につき、その力だけで宙に舞うと、“ふたり"から8メートルほどの位置に着地した。


「貴様……“あのとき"の男か……」


 化け物が言った。割って入った男が、挨拶をする。


「久しぶりじゃのう」


 それは、一郎だった。お互い、知らぬ仲ではないようだ。


「隼人君。油断は、寿命を縮めるぞ」


 そう言う一郎が、隼人にとって、やたらと頼もしく見えた。啓子が呼びに行ってくれたのだろう。この場を、なんとかしてくれそうな気がする。


 化け物は、その手で斬りかかった。一郎は、跳躍してかわすと、化け物の黒いショートヘアの上に片足で乗り、反対側の地面に着地した。その直前、体をひねった一郎の鋭く重い蹴りが背中に入る。化け物は、吹っ飛んだ。


「待って!おじいさん、待って!」


 隼人は叫んだ。一郎に、“真実"を告げた。





「やめて!それは……その人は、和美さんだよ!」








 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...