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第一章 首払村の魔剣! 美女の血を吸う神を斬れ!
最終話 新学期
しおりを挟む9月1日。
朝。首払村の集落入り口にあるバス停に、ふたりの男がいた。半分だけ季節が進み、残暑の時期となったが、この時間は日が昇っても風が涼しい。隼人が首払村に来て一ヶ月。夏は終わったのだ。
「おじいさん、ありがとう」
隼人は、礼儀正しく頭を下げた。
「お世話になったのに、僕は、なんのお礼もできない」
その言葉に、一郎は首を振った。
「あんたは、わしの友人を救ってくれた。それで充分じゃよ」
隼人は、奈美坂精神病院に帰ることを決めた。彼は将来、EXPERになることを決めたのだ。そして今日、村をたつ。ふたりの別れの朝だった。
「僕には、他に道がありません」
“神"を斬ったあと、隼人は言った。
「なるほど」
一郎は、そうとだけ答えた。はじめから、こうなるような気はしていたのだ。いち少年が組織から逃げ続けることなど出来ない、ということはわかっていたが、生まれ持った使命のようなものを持つ者もいる。隼人もそうなのだろう。“魔剣"の力を借りた少年が君枝を救ったとき、改めて思った。そして、その魔剣は、神と相討ちになり、消えた。
“あたしたちは人のために生きていくべきなんじゃないかしら。特別な力を持っている以上、どこの誰だか知らない人であっても、その人たちのために“
隼人は、また、香代の言葉を思い出した。今となっては、理解できるような気がする。彼が和美や君枝を救いたいと思った心と同質のものを持ち続けながら、香代は戦場に散った。見ず知らずの子供を助け、死んだ彼女のほうが自分より偉いと、隼人は本気で思っている。
昨日の夕食が、ささやかなお別れの会となった。途中から啓子は泣きっぱなしだった。それでも今朝、彼女はランドセルを背負って家を出た。今日から新学期である。
首払村に一日一本だけ来る、上りのバスがやって来た。一郎は、奈美坂精神病院まで送っていくと言ってくれたが、隼人はひとりで行くと決めた。最後の最後まで世話をかける気はない。それに、いっしょにいたら、啓子のように泣いてしまいそうだ。
「じゃあ、行くね……」
隼人が言った。結局、泣いてしまった。美しいその目から流れる、大粒の涙が止まらない。
「隼人君、元気でな……」
一郎が言った。こんなとき、頭をなでたり、肩を抱くなどということはしない人である。男同士の友情とは、言葉だけで充分につながるものなのだ。
隼人を乗せたバスのドアが閉まった。ここから、また、別の道を歩むことを示すかのように。そして、ふたりの男の間に、黒い境界線に似た足跡を残し、バスのタイヤが走り出した。
「おじいさん……僕……僕は!」
窓を開け、顔を出した隼人が大きな声で叫んだ。まだ泣いている。風に流れる涙が、秋口の空の光を反射して、輝いて散った。それは、リルムリートの最期に似ていた。
「また、きっと、ここに来るから!だから、そのときは、ご飯作ってね!」
隼人の言葉に、一郎が笑顔で手を振った。戦士を目指す少年にとっての“新学期"が、今日から始まる。
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