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第二章 大隅秘湯、夜這い旅? 人気ゴルファーの謎
第12話 恐怖!鮮血の、くまさんパンツ
しおりを挟むガラの悪い連中が緑を連れてきたのは、建物の影になっている場所である。五人の男女のうち、モヒカン頭にした男が、緑を壁に押し付けた。
「おう、相変わらずチョーシぶっこいてんじゃねぇぞ」
モヒカンがすごんだ。人相が悪いので迫力は、まあまあのものである。
「ちょっと大会で優勝したぐらいで、いい気になってンじゃないよ」
金髪に染めた娘が言った。いじりすぎのせいか、その髪は、ちりちりに傷んでいる。下は、革のミニスカートだ。
「わたし、調子にのってなんか……」
緑が言った。今にも泣き出しそうな表情だ。
「おい、あんまやりすぎんなよ。猪熊どもにバレると、言い訳が面倒だからよォ」
ガタイがいいリーゼント頭が、煙草をふかしながら言った。どうやら、こいつがリーダーっぽい。“今時こんな天然記念物級のレトロな不良がいるのかよ"と言いたくなるくらいに、とんでもない高さまで髪が立っている。長身と足したら二メートル近いのではないか。
「いいんじゃないのぉ……怪我でもさせたほうが、あいつら反省するんじゃない?」
ブルドッグに似た娘が笑った。こちらの髪は、真ッ赤ッ赤である。
「兄貴ィ、さっさとやっちまおうぜ」
最後は坊主頭の男だ。恐ろしいことに、ゴルフクラブを持っているではないか。武器は、サンドウェッジだ。
彼らは、この猪熊ゴルフスクールが問題児たちの更生施設だったころからの古株である。緑が有名になり、スクールの体質が本格的なプロ予備校に変質してゆく過程で、居場所を失っているのだ。その腹いせである。
パチン。軽い音が鳴った。金髪娘が平手で緑を引っ叩いたのだ。力はセーブしてあるので顔が腫れたりはしない。緑は涙ぐんだ。
「もともと、あたいたちは、ここで幅をきかせていたんだよ。それが、あんたのせいで……」
金髪が言った。
和美と敏子は建物の端に隠れ、こっそりと覗いていた。
「あらあら……」
と、和美。いじめが原因で不登校になり、このスクールを頼る者もいるだろうに、肝心のここでもいじめがあるとは救いがない。
「隼人くんがいなくてよかったわ。彼のピュアで綺麗な目の毒。ジョーソー教育に悪いもの」
それが昨夜、いたいけな美少年に情操教育ではなく性教育をほどこそうとした者の言葉である。
「トシちゃん、EXPERが一般人に手を出したら、どうなるんだっけ?」
訊いてみた。あくまでも見習いの和美は、敏子の指示を仰ぐ立場である。
「そりゃあ、大問題になるけど……」
敏子は困った。“調査"に来ている以上、目立つのは得策ではないが、放っておくわけにもいかない。市井の人たちに奉仕するのも、また、EXPERの義務である。
「んじゃ、手は出さないわ。トシちゃんは、ここにいて頂戴。能力の使いすぎで疲れたでしょ」
言うと和美は、連中の方へ歩きだした。
「こらこら、ニッポンの未来を担う青少年諸君。喧嘩なら正々堂々、一対一でおやりなさい」
その声に、連中が振り向いた。視線の先にいるのは、女の警備員だ。
「ああ?引ッ込んでなよ、オバサン」
赤い髪をしたブルドッグ娘が言った。
「あのねぇ……」
和美は呆れた。
「あなたたちも数年たてば、そのオバサンになるのよ?」
その言葉は間違いである。ブルドッグ娘は、和美より一歳下。つまり、数年もいらず。来年の今頃は、オバサンになるのだ。
「あーあ、怒らせた。俺たちを怒らせた。シメちゃうしかないのかなァー」
坊主頭が歌った。手に持ったサンドウェッジのヘッドをぺろり、と舐めた。
「おう、もう一度言うぜ。部外者は引っ込んでろよ」
モヒカンが言った。 五人は、和美のまわりを取り囲んだ。
「部外者じゃないわ。ここの警備関係者よ」
と、豊かな胸にかかるネームプレートを見せながら和美。彼女の態度には、たっぷりの余裕がある。
「てめぇ、ざけんじゃねえ!」
モヒカンのローキックが、右から繰り出された。速い。そして、鋭い。喰らったら痛そうだ。だから和美は、軽く跳躍してよけた。
「ありゃ?」
勢い余ったモヒカンが、すってんころりん。尻もちをついた。これがゴルフの試合なら、空振りも立派な一打である。
「馬鹿野郎!何やってんだ」
リーダー格のリーゼント頭が、煙草を投げ捨て、怒った。
「“喧嘩"ってのは、こうやってやるんだよ!」
リーゼント頭は和美の顔めがけ、無造作に左フックを放った。空を切るその威力は凄まじい。だから当然に痛かった。建物の壁を殴ったときは。
「ぎょえええええええええッ!」
聞いたほうも、ぞっとするような悲鳴をあげて、リーゼント頭がその場にうずくまった。隆々と盛った髪が、痛みで天を衝いたかのように見えた。骨折くらいはしたかもしれない。ゴルフの試合に出られないのではないか、などという心配は無用。どうせ、補欠だ。
EXPERは、超常能力の他に、物理的な戦闘技術も身につけている。ムエタイの使い手である和美は、最低限の動きでリーゼント頭の攻撃をかわしたのだ。
「畜生ッ!」
金髪娘が、ポケットからカッターナイフを取り出し、和美に襲いかかった。その手首を取り凶器を奪うと、白刃が一閃した。
ズルっ。金髪のミニスカートがずり落ちた。見ると、ベルトが切れている。中に履いている“くまさんパンツ"がかわいい。
「いやーん」
と、金髪。慌てて、スカートをずり上げた。
「おおっ?!」
それを見て、立ち上がったモヒカンが喜んだ。あそこのほうも立ち上がっているかもしれない。
「み、見てんじゃないよ!」
可憐な乙女の純情を汚され、金髪がモヒカンの顔面を蹴った。赤いピンヒールである。これは痛かろう。
「ほげっ……!」
鼻血を流しながら、モヒカンはダウンした。クリーンヒットである。同士討ちは良くない。
「これに懲りたら、いじめなんてやめることね」
和美は手をパンパン叩いた……りはしない。そもそも、手は出していない。
そのとき、背後に殺気を感じた。残る坊主頭が、和美の後頭部を襲ったのだ。サンドウェッジが唸りをあげる。
(まったく……)
和美は、またも呆れた。伝説のストリートファイター、首払一郎と対戦したときに、彼女は自身が放つ殺気の強さを指摘されていた。それ以降、自分のものだけでなく相手方の気配にも敏感になっていた。格闘家としての成長の証である。
(わからない連中ね……!)
和美は上体を回転させ、蹴り上げた。弾き飛ばされたサンドウェッジが宙を舞う。それは、生まれ持った使命と異なる用途に扱われ、持ち主に対し不満を感じていたのかもしれない。空中でくるくると回転したあと、急降下し、クラブヘッド部分で、坊主頭に“頭突き"を喰らわせた。
「ぷげっ……!」
そして、そのままダウン。髪を短く刈っていたせいで、ダメージも大きかろう。坊主頭のまわりを、星が飛んでいた。
(今のは“暴力"じゃないわよね。“不可抗力"よ)
和美は自分にそう言い聞かせ、女二人を睨みつけた。
「ひ、ひいいいー」
怯えたブルドッグ娘が、赤い髪を揺らしながら逃げ出した。来年の今頃は、更生した“オバサン"になっていることを和美は祈った。
「あ、あたいを置いてくんじゃないよ!」
くまさんパンツを見られた金髪娘が、スカートを持ち上げながらブルドッグに続いた。スタコラサッサと逃げ足は速いものである。
和美は、リーダー格のリーゼント頭を探した。いない。真っ先に逃げ出したらしい。賢明な判断だ。早く病院に行き、医者に見せたほうがいいだろう。“壁を殴りました"とでも言えば、頭の中も見てくれるかもしれない。
「大丈夫?」
軽く溜息をついたあと、和美は林原緑のほうを見た。まだ震えている。ゴルファーらしく日に焼けた顔は可愛らしく、人気があるのも頷ける。以前、首払村で出会った一郎の孫、啓子のルックスを彷彿とさせた。
「あ、ありがとうございます……」
緑は言った。アスリートである以上、勝負師ではあるが、暴力というものは、また別次元の存在なのだろう。怯えていた。
「怪我は、ないようだね」
和美の後ろから敏子が声をかけた。緑も小柄だが、彼女のロリータボディは、もっと小さい。
「かなり前から、いじめられていたのでしょ?ここの先生たちに相談しなかったの?」
和美が訊いた。そのとき。
「なんの騒動ですかな?ウヒョヒョヒョヒョ」
妙な笑い声がした。あらわれたのは、このゴルフスクールの校長、猪熊豪三郎だった。
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