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第二章 大隅秘湯、夜這い旅? 人気ゴルファーの謎
第30話 ドライビング競争
しおりを挟むドライビングコンテストとは、ドライバーショットの飛距離を競うものである。大会前の余興で行われることを和美は敏子から聞いていた。
「そういう単純な競技なら、勝つチャンスがあるわ。わたしが勝ったら、この子たちの退校処分を取り消していただけるのですね?」
和美が不良たちのほうを見た。行くところがない彼らにとって、これは死活問題である。彼女が勝てば、“退校処分"が取り消される。
「本気ですかな?ウヒョヒョヒョヒョ」
と、猪熊。だが、目は笑っていない。
「勝負を持ちかけたのは、あなたですわ」
和美も引かない。そして、敏子にこう言った。
「トシちゃん、一番遠くに飛ばせるクラブを出して頂戴!」
敏子は緑に断り、キャディーバッグの中から一本のクラブを取り出すと、和美に手渡した。
「これよ、これこれ。いかにも飛びそうなクラブだわ!」
それを両手で握り、和美が言った。その背中を隼人が、ちょんちょんと突っついた。
「和美さん、それは“パター"といって、グリーンにのったボールを転がすためのクラブだよ」
「騙したわね、トシちゃん」
「いや、本気なのかなァって思って……」
敏子が頭をかいた。だが、すぐに真顔に戻る。
「ッて言うか、相手は現役のプロゴルファーでもあるんだよ?いくら和美ちゃんの怪力でも無謀すぎるよ!」
「そうだよ。猪熊さんは“飛ばし屋"としても有名なんだ」
隼人も言う。猪熊のパワフルなドライバーショットは、男子プロの平均飛距離を上回る。女子の腕で勝つことは、ほぼ不可能と言ってよい。
「勝ち負けなんて、気の持ちようでなんとでもなるわ。こうなったら、出たとこ勝負よ!」
と、和美。こちらは、どうやら本気のようだ。
(気の持ちよう……)
それを聞いた緑は思った。プレッシャーに弱い自分に足りないものは、そういった考え方なのではないかと。
「甜められたものですなぁ、ウヒョヒョヒョヒョ……」
猪熊は笑った。
「で、私が勝ったら、どうなるのですかな?」
「あら、高名な教育者ともあろう方が、“乙女の貞操を差し出せ"などとは言わないと思ってましたけど?」
和美は答えた。それを聞き、猪熊はさらに大笑いをした。
「いいでしょう。では、勝負は一時間後、ここの18番ホールにて。それまで“練習"でもしておかれるとよいでしょう。ウヒョヒョヒョヒョ」
そう言って、和美にドライバーを手渡すと、猪熊は緑を伴って立ち去った。
「大丈夫なのかよ?」
モヒカンが言った。
「そうだよ。オバサンが負けたら、あたいたちは追い出されるんだよ?」
ブルドッグ娘が言った。
「ホントに勝てるのかよ?」
金髪娘が言った。もとを正せば、この連中の素行不良が発端である。傍で聞いている敏子は勝手なものだと思った。
「クラブの握り方を教えて頂戴」
と、ドライバーを握る和美。
「ああ、では、俺が……」
坊主頭が買って出た。彼は和美のことを気に入っていた。わざわざ手を握り、指導するその表情がニヤけている。
「なかなかしっくりくるわね」
左手の人差し指と右手の小指を絡ませるグリップに和美は納得した。そのままクラブを振った。ぶんッ!
「ひょえっ……!」
ドライバーのヘッドが坊主頭の鼻先を掠めた。
「あら、ごめんあそばせ」
と、和美。尻もちをつく坊主頭に形だけ詫びると、地面に置いてあるボールに目を向けた。それを打つ気のようだ。アドレスに入る。その姿は、なかなか様になっていた。
ごくり……!
皆が注目する中、和美はドライバーを振り上げ、思いっきりスイングした。揺れる豊満なGカップ。
すかっ……!
全員がコケた。見事な空振りである。
「やっぱ、難しいものねぇ、ゴルフって」
黒いショートヘアをかきかき、和美が言った。
「和美ちゃん、別の手を考えよ?」
と、敏子が提案した。どうにも勝てそうな気がしない。一時間で上達することなど、あり得るわけがない。
「ここまで言って、引き下がることなんて出来ないわよ」
だが、対する和美は、マジで本気のようだ。ぶんぶんと素振りをしている。スイングスピードは速いが、当たらなければ、ボールは飛ばない。
「隼人くんッ!」
「はいっ!」
和美の大きな声に、隼人は姿勢を正して返事をした。“気をつけい"の格好だ。
「わたしについて来て」
そう言い、ドライバーを坊主頭に渡すと、和美は隼人の手を引いた。
「ちょ……どこに行くの、和美ちゃん?」
敏子が訊いた。
「わたしが勝つために、隼人くんに“協力"してもらうわ。みんなは先に18番ホールに行ってて頂戴」
と、和美。それを聞き、敏子はなんとなく嫌な予感がした。
和美が隼人を連れ、やって来たのは人影のない林だった。OB杭が打たれた先まで行くと、シーンと静かなものである。人の気配など全くしない。こんなところに打ち込むのは、よほどヘタクソなゴルファーだ。今日は客も少ない。
「ああっ、隼人くん……」
和美は黒髪のショートヘアを抱え首を振った。
「わたし、怖いわ。もし、勝負に負けたら、あの不良たちは行き場をなくして、途方に暮れるのよ。そしてわたしは、猪熊にエッチなこととか要求されるかもしれないわ。怖い、怖いのよ……」
どこか芝居がかったセリフである。だが、純粋無垢な隼人が、それに気づくことはない。
「だ、大丈夫だよ、和美さんなら……」
「でも、わたし、ゴルフは素人なのよ?」
「僕は和美さんを信じるよ」
「わたしが軽率すぎたのよ。いくらあの子たちを救うためとはいえ、やったこともないゴルフで、プロ相手に賭けをするなんて。どうすればいいのかしら……」
と、言って暗い顔をする和美。泣き出しそうである。
「ぼ、僕に出来ることなら、なんでも“協力"するよ」
「なんでも?」
「うん!」
隼人は頷いた。和美のためである。そして、緑も不良たちの“退校"を望んではいない。少年は力を貸すと決めた。健気である。
「本当?」
「本当さ」
「本当にホント?」
「うん」
「じゃあ、隼人くん。“協力"して頂戴」
そう言うと和美は、隼人の手を引き、一本の大木に寄りかかった。フェアウェイからは完全な死角である。誰に見られることもない。
「隼人くん……」
ふたりの距離は近い。互いの吐息がかかるほどに。まあまあ色っぽい表情で、和美は隼人の小さな体を抱きしめた。
「か、和美さん……?」
豊満な胸に顔を埋める格好となり、少年は赤くなった。
「おっぱいを揉んで……」
言うと和美は、隼人の手を自分の胸に当てた。
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