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第二章 大隅秘湯、夜這い旅? 人気ゴルファーの謎
第32話 和美の秘打
しおりを挟むぐんぐんと伸びてゆく猪熊の打球は相当なキャリーを稼いだあと、地面を転がっていった。最終的に行き着いた先は、フェアウェイのド真ん中。300ヤードは越えただろう。ナイスショットである。
「まあまあですな、ウヒョヒョヒョヒョ」
猪熊は煙草に火をつけ、笑った。もはや、勝利を確信した顔だ。
「うわーっ、ダメだぁ!」
モヒカンが頭を抱えた。彼は暴力沙汰で勘当の身である。“退校"となれば、帰る家はない。
「しくしく……」
ブルドッグ娘と金髪娘は肩を寄せあい、そして泣いた。それぞれ実の父親からの暴力と、養父からの性的虐待を受け、猪熊ゴルフスクールを頼った。やはり、帰る家はない。
「俺は、あの人を信じるぜ」
坊主頭だけはそう言った。彼は和美に好意を持っている。表情は、半ばあきらめ顔だが、惚れた女に人生を託すのも悪くはない。それも“粋"というものだ。
「あれより遠くに飛べばいいわけね」
と、和美。緑のドライバーを拝借し、言った。その表情は落ち着いている。
「そうですな。ただし、フェアウェイを外せば、失格ですぞ、ウヒョヒョヒョヒョ」
猪熊は答えた。吸う煙草が美味そうである。プカプカと紫煙が立ち昇った。
「和美ちゃん……」
一応、かけた敏子の声に期待はない。ロリータボディは、意外なほどにリアリストだ。不良どものバイト先くらいは探してやろうかと思っていた。
緑はただ、見守っている。ゴルフという競技の難しさを知る彼女は、どう思っているのか。それは当人にしかわからない。
「がんばって、和美さん」
最後に隼人。純粋な彼だけは和美を信じた。“協力"もした。おっぱいを揉んだだけだが。
「オッケー」
と、愛する少年に軽く言い、和美はボールを置いた。そして、構える。
「むう……」
意外とリラックスしたそのアドレスに猪熊は唸った。無駄のない姿勢である。
「まさか、このお嬢さん、ゴルフの経験が?」
猪熊は、ひそひそと小声で敏子に訊いた。
「いいえ、彼女は“超ド素人"の未経験者です」
同じく小声で答えた敏子。意外と様になっているので、むしろ感心した。
「あの構え……」
緑は驚いた。和美のグリップは右手の親指が腕の延長線上にあった。つまり、右肩から親指の先までが一直線なのである。左踵の位置はボールの丁度真下。理想的なアドレスだった。上級者の構えではないか。
(もし、誰にも教わらずあの構えが出来ているのなら、天才なのではないか)
猪熊は思った。真剣にゴルフに取り組んできた者たちだけが気づいた、和美の才能だった。
一方の和美は、まったく別のことを考えていた。それは隼人のことである。先ほど、散々に胸を揉みしだかれた。そのときの感触を思い出す。
(当てようと思うから、飛ばそうと欲張るからダメなのよ。“前"もそうだったじゃないの)
以前、伝説のストリートファイター、首払一郎から殺気の強さを指摘されたことがあった。攻撃をヒットさせようとするから上手くいかないのだと気づいたとき、自然とリキミが取れたのものである。首払村の“神"に取り憑かれた天宮久美子を倒すことが出来たのは、その教えを戦闘に“応用"したことに最大の理由があった。今度はゴルフに“応用"する気なのだ。
和美は絶世の美青年に成長した隼人とのセックスを想像した。彼女の頭の中で、愛する男はゆっくりと着衣を脱がしてくれた。
“和美、とても綺麗だ……"
と、大人になった隼人。
“見ないで、隼人さん……恥ずかしいわ"
豊満な胸と黒い陰毛を隠し、和美が言った。だが、隼人はその手を優しく払いのけた。
“ああっ……いやンッ"
“もっと、見せておくれ"
“見るだけなんて嫌よ。感じさせて頂戴"
“こうかい?"
“はああっ……い、いきなり、そこなの……?"
“和美、愛しているよ……"
“ええ、ええ!わたしもよ、隼人さんッ"
“優しくなんてしないぜ?僕は荒っぽいのさ"
“ああ……凄い……こんなのはじめてよ……!"
そして、いつの間にか隼人も全裸になっていた。そそり立った一物が見える。毛も生えていた。
“ああ……隼人さん、こんなに逞しくなって……"
“君の魅力的なカラダがいけないのさ"
“触ってみたい、触ってみたいのよ……!"
“フッ、触るだけでいいのかい?"
“違うわ、違うのよ……こうしたいのよ"
“おお……和美、君って大胆なんだね……上手いじゃないか"
和美の脳内が想像を超えた妄想で埋められたとき、さきほど胸を揉まれた感触も相まって、良い具合に性器が濡れてきた。とうに彼女はゴルフ勝負など忘れていた。隼人とのいやらしいセックスしか見えていない。それは“無の境地"にも匹敵する“性的極意"と言って良い。
「あれは……?」
敏子はクラブを構える和美の背中にオーラのようなものを見た。“気を見る能力"を持つ彼女にしか見えないそれは、ゆっくりと晴天に向かい立ち昇ってゆく。なにが起ころうとしているのか。
和美はドライバーを振り上げた。一瞬、空中で静止したシャフトがしなり、唸りをあげたとき、それは彼女の中の全パワーが解放されたことを示す。クラブヘッドがボールを直撃した次の瞬間、強烈な打球音を残し、ボールが飛翔した。ものすごい勢いで。
「なにィッ……!」
猪熊の口から、咥えていた煙草が落ちた。
「凄い……!」
緑は驚いた。スーパーショットではないか。
「やった!」
坊主頭とモヒカンが喜んだ。
「きゃーッ!」
金髪娘とブルドッグ娘が、嬉しさのあまり抱き合った。
「うそォ!」
敏子は、そんな馬鹿な?と思った。
「わぁ!」
隼人は歓声をあげた。“苦労"したかいがあった。
「見たか!秘技“エッチな妄想打法"よ!」
最後に和美が叫んだ。ぐんぐん伸びる彼女の打球は、まるで種子島から発射されたロケットの如き力強い弾道を空に描き、あっという間にフェアウェイ上にある猪熊のボールを飛び越えた。
“グサッ!"
そして驚くべきことに、グリーン手前のバンカーにダイレクトで突き刺さった。とんでもない飛距離である。男子プロでも、ここまで飛ばせる者がいるだろうか。
「………………」
一同が唖然とする中、和美は皆のほうを振り向いた。
「これで、彼らの“退校"は取り消してくださいますわね?」
と、猪熊に言った。勝ち誇った表情である。
「和美さん」
つんつん。隼人が和美の背中を突ッついた。
「どうしたの、隼人くん?祝福のキスなら、あとで誰もいないところで、ふたりっきりで……」
「この勝負、和美さんの“負け"だよ」
「え?」
和美は首を傾げた。これはドライビング競争である。遠くに飛んだ自分の勝ちではないのか?
「最初に猪熊さんが言ったでしょ?フェアウェイを外したら“失格"って。和美さんのボールはバンカーだから負けだよ」
一瞬の静寂。数秒の間をおいて、和美が言った。
「フェアウェイって、何?」
その場にいる全員がコケた。彼女は本当に、全く、完璧にゴルフを知らなかった。
「か、和美さん……意味わからずに、勝負したの?」
立ち上がった隼人が言った。
「そんな日常生活で使わないような英語、お姉さんは知らないわ」
「普通、先に確認するもんじゃないかなぁ……」
とは、同じく立ち上がった敏子のセリフ。ちいさなお尻をさすりながら言った。他の面子は、まだ立ちなおれずコケたままである。
「ウ、ウヒョヒョヒョヒョ、ウヒョヒョヒョヒョ……」
やがて猪熊が笑った。和美のロングドライブに驚いているのだろう。冷や汗をかき、やや青ざめてはいるが、それでもなんとか笑った。
「わ、私の勝ちですな。これで、こいつらの退校は決まり……」
「いいえ、先生の“負け"だと思います」
その言葉を遮ったのは緑だった。
「な、何を言っておるのだ?緑……」
「この人は全くの素人であり、しかも女性です。それなのにハンディをあげなかった先生は、プライドを持つべきプロとして失格です!」
「ば、馬鹿なことを……」
「それに、飛距離で完全に負けたのです。プロとして恥ずべきことではありませんか!」
理路が整然としているか否かはともかく、緑は自身の意見を率直に述べた。確かに彼女の言い分にも一理ある、のかもしれない。
「そうね。“試合"には負けたけど“勝負には"勝ったという感じだわ」
と、和美。豊かな胸をどん、と叩き、言った。
「そうですね。だから、先生の負けだと、わたしは思うのです」
緑は、そう言い放った。
(あ、案外、調子のいい子なんだね……)
傍で聞いている敏子は思った。ルールを承知していなかった和美にも非があるような気がするが、仕方ないので黙っていた。
「わたし、“移籍"なんてしません」
緑は続けた。彼女の両親はプロテストにそなえ、大手のゴルフスクールへの移籍を望んでいる。最近の猪熊の悩みのタネだった。
「ほ、本当かね、緑?」
「わたし、このスクールが好きなんです。だから、先生も昔に戻ってください。以前の先生なら、この人たちを見捨てたりしなかったはずです」
それは緑が突きつけた“条件"なのか。
「ずっと、今の先生を見ているのがつらかったんです。だから……」
「おぉ、おぉ、緑……」
猪熊の目に涙が光る。次の瞬間、緑を抱きしめた。
「緑、緑……!おまえの言うとおりにしてやる。そして、吾輩が必ずおまえをプロにしてやる。安心しなさい、ウヒョヒョヒョヒョ」
と、泣きながら言う猪熊の腕の中で、結構イヤそうな顔をしている緑を見て、和美は安心した。寺山素子と違い、男性の趣味はノーマルのようだ。
(最初ッから、こうすればよかったんじゃないかなァ……)
などと敏子は思ったが、言葉には出さなかった。とりあえず、不良たちの“退校"は免れたようだ。その不良たちも感動のあまり、抱き合って喜んでいる。美しい光景に空気を読んだ。
猪熊に抱きしめられながら、緑は隼人たちのほうを見て、ペロリと可愛らしく舌を出した。おとなしい娘と思っていたが、案外、茶目っ気もあるようだ。
「ところで和美さん、よくあんな凄いショット打てたね」
と、言いながら、隼人はボールがあるバンカーのほうを見た。凄まじい飛距離である。
「ん……?ま、まァ、勝負ってのは楽しまなくちゃね。そう思えば、開きなおれるものよ」
と、和美。無心になるため、隼人とのセックスを思い浮かべながら打った、などとは言えない。
(楽しむ……開きなおる……)
それを聞き、緑は思った。プレッシャーに弱い自分に欠けているものは、そういった楽で、前向きな考え方なのではないかと。
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