137 / 146
第三章 怪奇、幽霊学習塾! 退魔剣客ふたたび
第56話 44マグナム
しおりを挟む(隼人君……来てくれたか……)
このとき、なぜか久美子は頼もしく思った。あれほど戦いに巻き込みたくないと思っていたにもかかわらず。戦況を変えてくれると期待したのか?それとも、ただ、安心したのか?死を覚悟していたのは事実である。
「動かないで!動くと、撃つよ」
隼人はバロンに言った。ここ数日の異変を感じ取っていた彼は、奈美坂精神病院から銃の持ち出し許可を得ていたのだ。職員を説得するのに少々の時間がかかったが、21世紀型育成制度の適用者であり、なおかつ研修生の立場にして“過去の実績"がある隼人の申請は最終的に通った。分厚いジャンパーの中に隠し持って通塾していたのである。超常能力と違い、気力体力の消費がない銃は、EXPERたちのメインウェポンとして普及しており、人外との戦いにおいても威力を発揮する。
「撃てるか?女に当たっても知らないぜ……?」
バロンは言った。相対する両者の間に、久美子がいる。彼女は身を低くしながら、やや横に動いた。発砲時の狙いを開けるためである。
「この距離なら、外さないよ」
隼人は言った。気の力が強い異能者という存在は、夜目が効く傾向にある。そのため、暗い建物内でも互いの動きは見てとれる。ましてや、彼の射撃の腕は奈美坂でナンバーワンだ。昨年、大隅半島O町にあらわれた巨大扇風機型の人外を、銃で倒している。
バロンが一歩を踏み出したそのとき、隼人はトリガーをひいた。凄まじく重い銃声が建物内に響きわたる。着弾の直前、光の障壁が展開されるも、バロンは、その衝撃で吹っ飛んだ。とんでもない威力である。隼人の銃は、スミスアンドウエッソンM29。44マグナム弾を発射する世界最強のハンドキャノンだ。
「バケモノ銃かよ……」
立ち上がり、バロンは言った。彼は銃弾を見極めているわけではない。“B型"の超常能力は無意識に発動されるものではなく、あくまでも使用者本人の意思により光の障壁を展開する。つまり、隼人が発砲する可能性がある限り、常に意識を集中しておかねばならない。攻撃物が自身の能力の“範囲内"に入ると、自動的にシャットアウトする性質のものであり、視認が困難な超高速の物体にも反応出来る。目に見えなければ止められないということはない。だが、44マグナムの威力は桁が違う。
「“動くな"って言ったはずだよ」
と、隼人。この少年ならば、狙いを外すことはない。
ふたたび、バロンが動いた。狙いは久美子のほうである。彼女と近接すれば、撃てないと考えたのか。
次は二発の銃声が鳴った。狭い廊下の幅を限界まで使い、隼人は久美子に当たらぬよう射角を開いたのだ。横にステップしながらトリガーを弾いた。
またも、バロンの前に障壁が発生し、銃弾を防いだ。だが、二倍の衝撃に耐えられず、今度は、斜め方向に激しく吹っ飛んだ。壁に体を叩きつけられた。
それでも、立ち上がるバロン。走り出そうとするも、また44マグナムに止められ、吹っ飛ぶ。懲りずに、何度も起き上がった。
「全弾、撃ち尽くしたな?」
隼人が六発目を撃ち終わったあと、バロンは言った。これを狙っていたのであろう。ヤツは久美子に襲いかかった。右手の大ナイフで刈りにかかる。
だが、隼人も走り出した。ジャンパーのポケットに詰めた予備の弾を一個、取り出すと、44マグナムのシリンダーに入れた。その装填行為は早い。普段から、奈美坂精神病院で訓練していた。
「じゃあ、てめぇから血祭りにあげてやるよ!」
久美子を守るように立ちふさがった隼人に対し、バロンはナイフを振った。左右の二連撃だ。そのスピード、常人の目にはとまらない。
「貴様……!」
だが、驚いたのはバロンのほうである。つい今まで“そこ"にいたはずの隼人はいなかった。ナイフ攻撃の間合いの一歩外に立っているではないか。
バロンは再度、連撃を繰り出した。結果は同じだった。44マグナムをこちらに向けた隼人は、いつの間にか、自分の左側に立っていた。今まで正面にいたはずである。
「てめぇも、能力者か?」
と、バロン。横薙ぎに小ナイフをふるった。今度は幽霊の力を借りた、しなる水刃である。だが、当たる瞬間、またも隼人は消えていた。次は右手の方向、つまり元の位置に立っていた。バロンの攻撃は、狭い廊下の壁に横一文字の傷を作っただけに終わった。
隼人が持つ超常能力は“D型"である。驚異的な反射神経と呼ばれるもので、発動中は迫り来る対象物がスローモーションに見える。相手の攻撃が当たることはあり得ず、極めれば、銃弾すらもよけられる。近接戦闘では絶大なアドバンテージを叩き出すため、前線向きの性能といえる。
一方でこの能力、バロンの目には隼人がまるで瞬間移動をしているように映る。いつの間にか立ち位置を変えているように感じられるのだ。
「いけすかねえ餓鬼だぜ……!」
と、バロン。
「降参して」
とは、両手で銃を構える隼人。両者の間合いは、ボクシングのラウンド開始時ほどしかない。踏み込まずとも、双方の攻撃は当たる。
「ぬかせ!」
バロンはナイフを振り上げた。鞭と化した水刃が唸りをあげようとした、それよりも速く、隼人はトリガーを弾いた。
身も凍るような無慈悲で凄まじい銃声……光の障壁がなんとか間に合うも、バロンの体は宙を舞うように吹っ飛んだ。超至近距離からの重い一発だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる