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ほんのり恋?するセレクション
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久々に再会した里沙の手には、竹細工のバッグがあった。私の視線に気づいた彼女はバッグを持ち上げ、「時代の流れに逆行してみました」と舌を出す。その仕種が存外女らしく、18で止まっていた彼女のイメージとは全く違って見えた。十年という月日は男勝りを一端の淑女に変える力があるようだ。
会員性のSNSで偶然名前を見つけたときには本当に驚いたものだ。そこからすぐに再会の日取りまで決めてしまった彼女の行動力は、高校時代と何も変わらないが。それでも、かつての髪を短くしていた頃と比べると、髪を伸ばし、春物のスカートとジャケットを着こなすその姿は、まるで別人の様だった。
思わず見とれてしまった自分が気恥ずかしくなり、「…女って化けるんだな」とボソリと呟く。途端バシンと背中を叩かれ、「女の子にそんなこと言っちゃダメでしょ!」と叱られた。
…前言撤回。こいつ外見は変わったが、中身は全く変わってない。
背中の痛みは昔と変わらず、私は思わず呻いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「いつかあなたにも起こる偶然」 了
お弁当の上に乗ったプチトマトを口に放り込んで彼女はフォークを振りまわした。
「もぉ!何でそこで諦めちゃったかなー!」
俺はカロリーメイトを噛み折って肩をすくめる。
「先輩には分かんないッスよ」
「またそうやって可愛くない事言う」
「婚活成功者には分からん苦しみが有るんです、独身貴族には」
えっらそうに、と鼻でせせら笑って、快活なキャリアウーマンはできの悪い後輩にぴぴっとフォークを突き付けてきた。
「いーい?恋愛には勢いが不可欠なの!ほら昔中国の偉い人が言ってたんでしょ、『賽は投げられた!』って」
おそらく俺が東洋史専攻だったから話題を合わせようとしたのかもしれない。
悲しいかな、英米文学専攻だった先輩は、諺の覚え方を間違ったらしい。俺はため息をついて項垂れた。
「…カエサルです」
「へっ?」
「賽は投げられた、はカエサルの格言です」
「…そ、そーよ!カエサルも言ってたわ!」
沈黙の後に間違いをなかった事にしようとする彼女を見て、何故か笑いがこみ上げた。
「賽は投げられた」か。彼女は「悩んでないでアタックしろ!」って意味で使ったのだろうけど、俺にしてみればとんだ皮肉だ。賽は投げられ、既に勝敗は見えている。だから諦めようと思ったのに。だからこの関係を続けることに決めたのに。照れ隠しに弁当をかきこむ彼女に、ふと苦い笑みが零れた。
――――――――――――――――――――――――――――
「もう賽は投げられない」 了
「見つかんない…」
呻く妹にため息が漏れた。あいついつまで俺のPC占拠する気だ?赤ワイン色のキャミと薄手のカーディガンを着た妹は卒論の資料を探しに俺の部屋に乗り込んでからずっとこの調子。大体探し方が悪いんだ。大学の図書館で見つかる資料なんてたかが知れてるだろ。バカじゃないのか。
近いうちに中間発表があるらしく、焦りで今にも泣き出しそうだ。
「なんで?なんで見つかんないの?」
ってだからそれはお前の探し方が悪いからだって。これじゃいつ終わるやら。…仕方ない。ため息をついて助け舟を出す事に決めた。これはあくまで修論の追い込みを再開するためで断じて妹の為じゃない。
妹の論文テーマは「唐の後宮」について。こんなもん、資料がない方がおかしい。すっかり覚めきったインスタントコーヒーを飲み干して、俺は妹の後ろからPCの画面を覗き込んだ。
「CiNii」
「へっ」
驚き振り返る妹と目を合わせないで続ける。
「『CiNii』。いいからとっとと検索かけろよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お兄ちゃんの論文指導」 了
会員性のSNSで偶然名前を見つけたときには本当に驚いたものだ。そこからすぐに再会の日取りまで決めてしまった彼女の行動力は、高校時代と何も変わらないが。それでも、かつての髪を短くしていた頃と比べると、髪を伸ばし、春物のスカートとジャケットを着こなすその姿は、まるで別人の様だった。
思わず見とれてしまった自分が気恥ずかしくなり、「…女って化けるんだな」とボソリと呟く。途端バシンと背中を叩かれ、「女の子にそんなこと言っちゃダメでしょ!」と叱られた。
…前言撤回。こいつ外見は変わったが、中身は全く変わってない。
背中の痛みは昔と変わらず、私は思わず呻いた。
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「いつかあなたにも起こる偶然」 了
お弁当の上に乗ったプチトマトを口に放り込んで彼女はフォークを振りまわした。
「もぉ!何でそこで諦めちゃったかなー!」
俺はカロリーメイトを噛み折って肩をすくめる。
「先輩には分かんないッスよ」
「またそうやって可愛くない事言う」
「婚活成功者には分からん苦しみが有るんです、独身貴族には」
えっらそうに、と鼻でせせら笑って、快活なキャリアウーマンはできの悪い後輩にぴぴっとフォークを突き付けてきた。
「いーい?恋愛には勢いが不可欠なの!ほら昔中国の偉い人が言ってたんでしょ、『賽は投げられた!』って」
おそらく俺が東洋史専攻だったから話題を合わせようとしたのかもしれない。
悲しいかな、英米文学専攻だった先輩は、諺の覚え方を間違ったらしい。俺はため息をついて項垂れた。
「…カエサルです」
「へっ?」
「賽は投げられた、はカエサルの格言です」
「…そ、そーよ!カエサルも言ってたわ!」
沈黙の後に間違いをなかった事にしようとする彼女を見て、何故か笑いがこみ上げた。
「賽は投げられた」か。彼女は「悩んでないでアタックしろ!」って意味で使ったのだろうけど、俺にしてみればとんだ皮肉だ。賽は投げられ、既に勝敗は見えている。だから諦めようと思ったのに。だからこの関係を続けることに決めたのに。照れ隠しに弁当をかきこむ彼女に、ふと苦い笑みが零れた。
――――――――――――――――――――――――――――
「もう賽は投げられない」 了
「見つかんない…」
呻く妹にため息が漏れた。あいついつまで俺のPC占拠する気だ?赤ワイン色のキャミと薄手のカーディガンを着た妹は卒論の資料を探しに俺の部屋に乗り込んでからずっとこの調子。大体探し方が悪いんだ。大学の図書館で見つかる資料なんてたかが知れてるだろ。バカじゃないのか。
近いうちに中間発表があるらしく、焦りで今にも泣き出しそうだ。
「なんで?なんで見つかんないの?」
ってだからそれはお前の探し方が悪いからだって。これじゃいつ終わるやら。…仕方ない。ため息をついて助け舟を出す事に決めた。これはあくまで修論の追い込みを再開するためで断じて妹の為じゃない。
妹の論文テーマは「唐の後宮」について。こんなもん、資料がない方がおかしい。すっかり覚めきったインスタントコーヒーを飲み干して、俺は妹の後ろからPCの画面を覗き込んだ。
「CiNii」
「へっ」
驚き振り返る妹と目を合わせないで続ける。
「『CiNii』。いいからとっとと検索かけろよ」
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「お兄ちゃんの論文指導」 了
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