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ヒマリ①
しおりを挟む「ヒマリ、おつかれ~」
じっとりと張り付いた前髪とおでこの汗をタオルで拭いていると後ろからリンが声をかけてきた。リンは制服のシャツをパタパタと揺らしながら団扇を扇いでいた。
「リンもおつかれ。暑いね」
「ね。終わったらコンビニ寄ってアイス食べようね」
そう言ってリンはにっこりと笑った。
まるで向日葵が咲いたような明るい笑顔。髪はふんわりと巻いて、前髪だけをリボンのついた小さいゴムで右側にまとめてくくっていて、唇にはほんのりと色が付くリップを塗っている。
漫画の主人公のような華奢で愛らしい女の子。同じ制服を同じように着ているはずなのに私とは何もかもが違う。同じなのは委員会だけ。
図書委員の集まりがあったときにたまたま隣に座った私に声をかけてくれてから、委員会の中でだけ行動を共にしている。興味のあるものや交友関係など、何もかもが正反対だと感じるけれど、居心地の悪さをまるで感じない。化粧のやり方も、髪の毛も一括りにするしかアレンジを知らず、リップも荒れたときにしか使わない私なんかにも、リンは気さくに話しかけてくれる。
図書委員の仕事と言ってもやることなんかほとんどない。
室内に誰もいないときには二人で何でもない話をして、誰かがくればそっと目配せをしてお互いに本を読む。本を貸し出したり返ってきた本を本棚に戻す程度のことを数時間行って、帰りにリンとアイスを食べる。それが私の楽しみになっていた。
「リン、おつかれ」
「あ、ヒナタ先輩。こんにちは」
先輩がカラリと図書室の扉を開けて入ってくると、私の体温は2℃くらい上がる。
「ヒマリちゃんも、おつかれさま」
「…おつかれさまです」
そう応えるのが精一杯で読んでた本に視線を落とす。
夏休みに図書室を利用する人なんて滅多にいない。家で集中出来ないからという真面目な人か、別の用事で学校にきてただ涼むためだけに長居する人がほとんどで、それ以外の人はただの変わり者、あるいはリン目当ての人に決まってる。このヒナタ先輩は恐らく圧倒的後者で、リンと話をするためだけに本を借りにきてるんだと思う。
私はヒナタ先輩と話すとき、ちゃんと顔を見ることが出来ない。本を読むフリをしながらこっそりと横顔を覗くことでしか先輩を視界に入れられない。先輩の声を入れるだけで赤くなってしまう耳も、本を渡すときに指が触れてしまうと震える膝も、どうすればいいのかわからないまま、今日も何も頭に入らない文章をただ眺めている。
「リン、何時に終わるの?」
「んー、あと30分くらいですかね」
「じゃあ待ってるから、一緒に帰らない?良かったらヒマリちゃんも」
先輩は私とリンを交互に見ながらヘラリと笑って見せた。
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