くろ

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ヒマリ②

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 あっちー、とヒナタ先輩が太陽を睨んだ。

 昇降口で三人、靴を履き替えている。私は震えそうな指をぎゅっと強く握って平静を保っている。
 リンが私とコンビニに行くことを伝えると、先輩は奢るよ!と爽やかに一緒に行ける理由を作った。リンは私と目線を合わせて伺いをたててくれたけど、私は目をパチクリとさせることしか出来なくて、その様子を見たリンが「じゃあお言葉に甘えて」と笑顔で答えてくれた。


「絶対去年より暑いよね」
「わかる!毎年そう思います」


 楽しそうに会話を続けるリンと先輩の隣で、私はもう帰りたいと思っていた。
 この二人の隣に居るのが心苦しくて無意識に足取りが重くなる。少しだけ茶色く染まった先輩の髪の毛はフワフワと、リンと並んで歩いていることを喜んでいるみたいに揺れていて、一歩後ろを歩く私からは先輩の下がる目尻と上がった口角しか見ることが出来ないから、敢えて視界に入れないようにアスファルトを睨んで歩いた。


「ヒマリちゃんは何アイスが好き?」
「へ?」


 ふいに話を振られて心臓が止まりかけた。
 情けない声を出してしまって、顔が熱くなる。えっと、その、しか言えずに口をパクパクさせていると、リンが手を握ってくれた。その動きはとても自然で、優しくて、私を落ち着かせた。


「ヒマリはいつもバニラ食べるよね」
「あ、うん。練乳が入ってる甘いやつ」


 リンと目を合わせると普通に話せる。縋るように繋いでくれた手を握り返すと、リンは先輩にはわからないように小さくウィンクをして、優しく手を引っ張った。離れていた一歩がまた近づいて、三人が横並びになる。目の前に三人分の影が伸びていて、それがなんだか奇跡みたいに思えてしまって胸が苦しくなった。

 先輩の隣を歩ける自信が欲しい。
 リンみたいに、可愛くなりたい。
 繋がれたリンの細くて白い指を眺めながら祈った。



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