くろ

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ヒナタ①

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 彼女を初めて見たのは、曲がり角でぶつかってとか予報はずれの雨に降られ雨宿りしててとか困ってるときに助けたりみたいな運命的なものじゃない。
 図書室で本を読む横顔がキレイだと思った。それだけ。
 艶っぽくサラサラした髪の毛を下の方でひとつで結んで、背筋はピンと伸びていて、恐らく化粧はしていないのに伏し目に睫毛が強調されている。真っ白な肌に薄っすらピンクの唇が映えていて形もかわいい。本を捲る指が華奢なのも、全てが女の子という感じがして、つい見惚れてしまう。それだけだった。

 前から知り合いだったリンから名前を聞いていたものの話しかける機会はなかった。けれど一度だけ直接話したことがある。背伸びで上にある本を取ろうとしていた彼女を助けようと近づくと、本が落ちてきたのだ。咄嗟に間に入り、落ちてきた全部の本を後頭部で受け止めてしまい痛かった。それでも彼女に怪我が無くて良かったと思った。近くで見る彼女はやっぱりキレイで、石鹸みたいな良い匂いがした。

 それからリンと一緒にいる日は思い切って話しかけるように心掛けるようになった。リンと話している流れで自然と会話できるように、ノリと雰囲気でこちらの緊張がバレないように、気持ちが溢れないように。
 図書室のカウンターで本を読み、俺とリンの会話の中に自ら入ってくることは無かったけれどこちらから話しかければ返事はしてくれて、一緒に帰れた日は眠れなくなるほどに嬉しかった。リンがいなきゃ話しかけるきっかけすらないくせに、図書室での時間はとても幸せだった。うるさくならないように小声で話す俺とリンの隣からペラペラと紙が捲れる音がする。少しだけ会話に入り、またペラリ。本に集中しているようでこちらの会話もちゃんと聞いていて、時々クスクス笑ってくれる。
 彼女の笑顔を見るとじんわり熱くなる。これはもう、恋なんだろう。

 夏祭りはヒマリちゃんが誘ってくれて、浴衣を着た彼女の隣を歩いた。ヒマリちゃんは眼鏡をはずし、髪の毛もいつもと違って、ドキドキする。
 正直、食べたものの味も会話の内容もほとんど覚えていない。意を決して繋いで手が熱くって、それ以外のことは何もかもどうでもよくなってしまった。緊張からたくさん話してしまったことも後にめちゃくちゃに後悔した。浴衣の子と歩くことも初めてだったから歩幅も気にしたら良かったし、もっとちゃんと可愛いと言えたら良かった。後悔だらけの夏祭り、俺は最後の最後までうまくできなかった。


「また来年も、一緒に来てくれる?」


 帰るとき、繋いだ手を離すのが惜しくて思わず聞いた質問に、薄暗くなった中でもわかるくらい赤くなった頬で笑ってくれたヒマリちゃんを抱き締めたくなった。
 それでも抱き締めるどころか告白も出来なかったのだ。指の先から伝わる、彼女の「好き」に応えたい。
 でも、出来ない。



 好きだけど応えられない。


 だって俺は、彼女の気持ちに気付いてしまっている。





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