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リン①
しおりを挟む「夏祭り、どうだった?」
新学期が始まってすぐ、ヒマリに聞いた。
ヒマリは恥ずかしいのかコンタクトではなく眼鏡で登校してきた。メイクはバレないように、でも薄くトーンアップクリームを塗っているしチークも目立たない色を使っている。眉毛もカタチを整えていて、具体的にどこがと言われてもわからないのに可愛くなっていた。女の子は恋をすると可愛くなるなんて言うけれど、あれは当たり前のことだ。好きな人の前では可愛くいたくて、メイクや髪型や仕草が変わるんだから。ヒマリはこの夏、可愛くなった。
「どうって、楽しかったよ」
「それだけ?告白とかなかったの?」
ヒマリはほんの少し頬を赤くして、ほんの少し寂しそうに小さく頷いた。
ヒナタ先輩は優しい。話も面白いし周りをよく見ていて気遣ってくれる。些細なことでも楽しそうに笑う人は自然と人が集まって、引力みたいに惹かれていく。わたしもそういう人に憧れる。
夏祭りの日、わたしはクラスの友達と会っていた。いつものメンバーで夏らしいことしたいねって、線香花火を買って近くの海岸でひと盛り上がり。それから何枚もスマホで写真や動画を撮ってラムネを飲みながらたくさん笑った。青春は恋だけじゃない。こうやって女子みんなで過ごすのもきっと数年後に眩しすぎるほどの思い出になると信じている。
わたしの好きな人は今日、好きな人と夏祭りを楽しんでいる。
黄色の向日葵が特徴的でいかにも夏らしい浴衣を着てフランクフルトにかじりついた。
屋台に並んでいるときも、こうやってみんなで立ち止まって食べているときも、ヒマリとヒナタ先輩を探してしまう。偶然でもなんでもいいから二人が並んでお似合いなところを見たい。手でも繋いでいてくれればなおいい。
じゃないとわたしは諦めきれない。夏休みの間、ヒマリの恋の応援をすると決めたのはわたしだし、ヒナタ先輩を誘うように背中を押したのもわたし。
ヒナタ先輩がヒマリの名前をこっそり聞きに来たときからなんとなく先輩がヒマリに好意を寄せているのは気が付いていた。図書室で必死に本を読んでるフリして先輩を気にしているヒマリの気持ちもわかっていた。だから自分の気持ちは伝えられないまま、ここでフランクフルトを食べている。
「リン、そういえばヒナタ先輩に誘われなかったの?」
友達がかき氷をザクザク混ぜながら言う。
「え、なんで?」
「なんでって、先輩リンのこと好きじゃん」
「残念。先輩は他の子が好きなんです~」
えーっと聞いていたみんなが驚いて、誰?とか本当?とか色々聞いてきたけれど、そのどれにも曖昧に返事をして笑って誤魔化した。ちくり、ちくりと心が痛くなっていく。
先輩はヒマリが好き。ヒマリも先輩が好き。わたしが入る隙なんて、元からどこにもない。
だから早く付き合って欲しい。幸せになって欲しい。どうにかして自分のものにしてしまいたいと思っているわたしを、笑うしかないほどに追い詰めて諦めさせて欲しい。
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