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ヒナタ②
しおりを挟むもしかしてリンは、と考えるようになったのは夏祭りの少し前だった。
よく図書委員で一緒にいる女の子の名前を教えて欲しいと言ったときの少しの間とか、三人で帰った日に見せた表情とか、自分がもっと鈍感だったら気付かないような小さな綻びだけれど、もしかして、と思うには十分な証拠に思えた。自分がヒマリちゃんの名前を出すとさりげなく話をすり替える。時折ぼーっと遠くを見つめているかと思えば泣き出しそうにじんわりと瞳を湿らせている。
「リン?」
「あ、先輩こんにちは」
この日もリンはぼんやりと図書室の窓から外を眺めていた。ヒマリちゃんとは別の当番の日らしく、いつも二人でニコニコと笑い合いながら座っていたカウンターには高身長で眼鏡をかけた男子生徒が座っていた。彼もカウンターの下で厚みのある本を読んでいるのだろう。図書室と言うことを忘れないように小声でリンに話しかける。
「リン、最近元気ない?」
「そんなことないですよ!」
空元気に見えてしまうのは俺の先入観のせいなのだろうか。リンの言葉よりも瞳の奥に答えがある気がしてじっと見つめ探した。真剣な顔でこっちを見ていたリンがふと笑って顔を手で覆った。
「見すぎ。やめてください」
「ご、ごめん」
「…先輩、ヒマリのこと好きなんですよね?」
急に核心を突かれて言葉に詰まる。もし飲み物を飲んでいたら吹き出していただろうとどうでもいいことが頭をよぎった。ここで誤魔化したって前には進めないだろうと、正直に応える。
「うん、そうだね」
やっぱり、とリンは小さく微笑んだ。口角を上げて、にっこりしたのにその表情はどこか寂しそうで胸がグッと痛くなる。ごめん。それでも俺も彼女のことが好きなんだ。
「夏祭り、楽しんでください。ヒマリのこと、とびきり可愛くさせていくので」
「それは楽しみだな」
またリンが窓の外を見た。つられて外を見ると、制服のままサッカーをしている男子や、階段に座って笑っている女子が見えた。リンは何を見ているのだろうと視線を確認すると、校庭ではないもっと先の海を眺めていた。
「アイス、いつもあそこで食べるんです」
「砂浜で?」
「そう。ヒマリはいつも同じ、練乳の入ったアイスキャンディー。溶けないように一生懸命、食べてるときだけ二人とも無言になって」
言いながら思い出したのか、リンの表情が緩む。
「わたし、あの時間が大好きなんです」
今度は真っ直ぐこちらに向き合って、真正面から俺を見る。リンの瞳は揺れていて、あの海よりも深く澄んでいた。
「…ヒマリと先輩、お似合いだと思います」
リンは心の底からそう思っているみたいに穏やかに笑っていた。
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